見積書を出す際、「一式500万円」と書いたら「高すぎる」と一蹴されたのに、詳しく内訳を書いたら、ほぼ同じ金額で通ったというような話は、BtoBの営業現場でよく聞きます。たとえビジネスであっても、価格判断がさまざまな情報の影響を受けることは、本連載でも何度か取り上げてきました。では、どのように価格を設定し提示すれば、顧客とよりよい関係を保ちながら、より多くの利益を上げることができるのでしょうか。BtoBのセット販売について、慶應義塾大学の星野崇宏教授が解説します。政策研究大学院大学の安田洋祐教授との連載「インフレ時代の値段のつけ方・考え方」18回目です。

総額を提示すべきか、項目ごとに価格を提示すべきか迷ったら
「『一式500万円』と書いた見積もりを出したら『高すぎる』と一蹴された。ところが内訳を5項目に分けて出し直したら、ほぼ同じ金額で通った」――BtoB(企業間取引)の営業現場ではよく聞く話です。逆に「個別の作業費まで全部書き出したら、項目ごとに値切られた」というケースもあります。同じ500万円でも、価格の見せ方一つで顧客の反応が大きく変わるわけです。
本連載の第3回で安田教授が、経済学の思考実験を交えてセット販売について解説してくれました。複数の商品やサービスを組み合わせて1つのセットで売る「価格バンドリング」のうち、セットと個別販売を併用するのが「混合バンドリング」、セットでしか売らないのが「純粋バンドリング」です。今回は、この価格バンドリングのBtoB応用について、行動経済学の研究知見からお伝えしたいと思います。
バンドリングというと、「ランチセット」はもちろん消費者向けの「通信契約と動画配信のセット」のようなサービスをまず思い浮かべるかもしれません。しかし実は、ビジネスで活用するという観点ではBtoBのほうがむしろ応用できる可能性が高いと考えられます。BtoBで取引されているのは単一の商品ではなく、ソフトウエアのライセンス、初期設定、データ連携、業務テンプレート、トレーニング、運用サポート、SLA(サービス品質保証)、追加開発など、複数の商品・サービスや機能要素の組み合わせであることがほとんどだからです。
項目が細かすぎると逆効果に……適切な提示の仕方とは?
例えば業務システムを販売する企業を考えてみてください。顧客に提供している価値は、ソフトウエアのライセンスだけではないですよね。初期設定、既存システムとの連携、従業員研修、運用開始後の問い合わせ対応、定期的な機能改善、セキュリティー対応、利用データの分析……。こうしたものすべてが組み合わさって価値が生まれているわけです。
ところが、見積もりの書面上でこれらをすべて個別価格に分解して並べると、顧客は項目ごとに「これは本当に必要ですか」「ここは削れませんか」「この作業費は高すぎませんか」と交渉を仕掛けやすくなります。
もちろん、「透明性は低いほうがいい」という話ではありません。BtoBでは購買部門や経理部門の審査がありますから、「何に対していくら払っているのか」を説明できる状態にしておく必要はあります。ただ、価格を細かく分解しすぎると、顧客は個々の単価ばかりに目がいき、全体として得られる価値を見失いがちです。このバランスをどう取るかが、BtoBプライシングのポイントです。
例えば業務改善ソフトを販売する会社は、ワークフロー管理、電子契約・文書管理、データ連携、分析ダッシュボードを別々に売ることもできます。しかし顧客が本当に買っているのは、個別機能そのものではなく、「申請から、承認、契約、文書保管、分析までの業務が途切れずに進む状態」ですよね。だとすれば、「機能Aはいくら、機能Bはいくら」とそれぞれの値段を並べるより、「契約業務デジタル化パッケージ」として提示したほうが、顧客にも価値が伝わりやすくなります。
ここでは、顧客への価値訴求に加え、価格バンドリングそのものの効果が加わると何が起きるのかを考えます。
サービスの価値も価格のお得感も伝わるパッケージ化の仕組み
表1で具体的に見ていきましょう。ここでは財Aを「ワークフロー管理モジュール」、財Bを「電子契約・文書管理モジュール」と考えてください。どちらも業務改善ソフトの関連機能で、片方がなければもう片方が使えないという「本体と保守サービス」のような関係ではありませんから、それぞれ別の企業の製品を使うことも、個別に購入することもできる関係です。財A、財B、セットでの価格、また5社の支払意思額(WTP)は表1下部のようになります。

図1は表1をグラフにしたものです。横軸に財AへのWTP、縦軸に財BへのWTPを取り、5社の位置を示しています。

まずは単品販売だけで考えてみます。財Aを370万円で売れば、3社目、4社目、5社目の3社が買うので、売り上げは370万円×3社で1,110万円。財Bを330万円で売れば、1社目、2社目の2社が買うので、売り上げは330万円×2社で660万円。財Aと財Bを別々に売るだけだと、合計売上は1,770万円ということになります。
セットと単品の合わせ売りで利益は本当に増えるのか?
次に混合バンドリングを考えます。A単品370万円、B単品330万円という選択肢を残したまま、A+Bのセットを640万円で提示するのです。顧客はA単品、B単品、セットのうち、WTPから価格を差し引いた「利得」が最も大きいものを選びます。図1の斜めの赤い線は「AへのWTP+BへのWTP=640万円」という無差別線で、この線より上にいる顧客は、少なくとも640万円ならセットを買ってもよいと考える顧客ということになります。
ただし、純粋バンドリングと違い、混合バンドリングでは同時に単品も販売されています。そこでセットを選ぶかどうかは斜めの線だけでは決まりません。
A単品(370万円)よりもセットが得になるためには、BへのWTPが640万円-370万円=270万円以上(図中の横に伸びる破線の上側)である必要があります。同様に、B単品(330万円)よりもセットが得になるためには、AへのWTPが640万円-330万円=310万円以上(図中の縦に伸びる破線の右側)である必要があります。この2つの境界を入れて見ると、2社目、3社目、4社目(それぞれ赤の〇)はセットを選び、1社目(左上の灰色の〇)はB単品、5社目(右下の灰色の〇)はA単品を選ぶことになるのです。この場合の売り上げと単品のみの場合の売り上げを比較すると次のようになります。
A:370万円×3社=1,110万円
B:330万円×2社=660万円
合計:1,770万円
混合バンドリングの場合
A単品:370万円×1社
B単品:330万円×1社
セット:640万円×3社
合計:2,620万円
混合バンドリングの場合の売り上げの合計は2,620万円です。単品販売だけの1,770万円に比べると、なんと850万円の増収です。注目していただきたいのは、ここで例としているWTPの値の差が極端ではないという点です。BtoBでは、わずかな評価差であっても、関連するモジュールをうまく束ね、単品の選択肢も残すことで、顧客の稟議(りんぎ)や比較検討に応えながら価格差別の効果を得ることができるのです。
購買の心理的な障壁も取り除く行動経済学の根拠
ここまでは「顧客のWTPの分布を踏まえれば、バンドリングのほうが売り上げは増える」という話でしたが、実はバンドリングが効く理由はそれだけではありません。行動経済学の代表的な理論である「プロスペクト理論」からも、追加の説明ができます(プロスペクト理論については第8回)。
プロスペクト理論の重要な含意の一つに、「損失(支払い)に対する心理的なインパクトは、金額が大きくなるほど、追加的な心理的インパクトは逓減(ていげん)していくという性質があります。具体的に考えると、1万円払う痛みは、1,000円払う痛みの10倍にはなりません。もう少し小さく感じる、ということです。支払いの「痛手感」を表す価値関数が、損失の領域で下向きに凸の形をしているからです。
これをバンドリングに当てはめてみましょう。商品AにPA円、商品BにPB円を別々に支払うと、顧客は「PA円を支払う痛み」と「PB円を支払う痛み」を二度感じることになります。これに対して、AとBをまとめて(PA+PB)円を一度に支払う場合、感じるのは「(PA+PB)円を支払う痛み」が1回だけです。価値関数の逓減性から、後者のほうが心理的な支払いの痛みの合計は小さくなるのです。

つまり、WTPの数字だけを見て「バンドル価格は単品の合計より必ず安くしないと売れない」と決めつける必要はありません。支払いの痛みが軽くなる分、同じ総額でも、別々に請求されるより、まとめて提示されたほうが受け入れられやすいことが示唆されます。先ほど図1で示した売り上げ増も、こうした心理面の受容のしやすさが下支えしていると考えるのが自然でしょう。
バンドリングが効きやすい商品の特徴は?
ここまでBtoBにおけるバンドリングの効果を見てきましたが、実はすべての商品・サービスに同じように効くわけではありません。研究からは、特にバンドリングの効果が大きく出るタイプの商品・サービスがあることがわかっています。
代表的な指摘がStremersch and Tellis(2002)の研究です。彼らは、開発コストが高い一方で追加販売の限界コスト(追加コスト)が低い商品やサービスほど、バンドリングによる利益増加効果が大きいことを示しました。例えばソフトウエア、デジタルコンテンツ、データサービス、自動運転技術といった分野です。これに対して、追加販売のたびに製造コストがかさむ耐久消費財などでは、バンドリングのメリットは相対的に小さくなります。
これはBtoBでも納得感のある話だと思います。一度作ってしまえばコピーコストがほぼゼロのソフトウエアモジュールや業務テンプレートは、バンドリングで追加してもらえれば、ほぼそのまま利益に直結します。一方、毎回人手のかかるオンサイト対応や、原材料費が乗ってくる物理機器の組み合わせを安易にバンドルすると、採算をかえって圧迫してしまうことになりかねません。
もう1つ、最近の研究をご紹介しましょう。Meyer, Shankar and Berry(2018)は、製品とサービスを組み合わせた「ハイブリッドバンドル」のWTPを左右する要因を、コンジョイント分析などを使って実証的に検討しています。彼らが特に注目したのが、サービスの「自律性」と「補完性」という2つの軸です。
② サービスの補完性:そのサービスを本体製品と一緒に使うことで、価値が大きく高まるかどうか。ワイヤレスイヤホンと音楽サブスクのような関係をイメージしていただくとわかりやすいかもしれません
彼らの研究の結果が示すのは、自律性と補完性の両方が高いサービスをバンドルすれば、顧客のWTPを大きく引き上げられるということです。さらに興味深いことに、企業が予算制約のもとで「自律性を強化するか、補完性を強化するか」のどちらかを選ばざるを得ない場合には、補完性を優先したほうがバンドル全体としての価値は上がりやすい、とも報告されています。
BtoBで考えると、業務システム本体と、それを補完する分析モジュールや業務テンプレートのような関係では、後者を本体と緊密に連動するように設計したほう――つまり補完性を強めたほう――が、バンドル全体のWTPは上がりやすいということになります。
利益が最大になるように混合バンドリングを設計するための注意点
実務上、多くのBtoB企業にとって使い勝手がよいのは、純粋バンドリングよりも混合バンドリングです。純粋バンドリングは個別販売をせずセットのみで売る方法で、製品とサービスが不可分の場合――例えば、所定の保守契約なしには安全性や品質を担保できない設備、専門的な導入支援なしには稼働しないシステムなど――には合理的な選択になります。
ただし、BtoBでは顧客側の購買プロセスが複雑です。利用部門、情報システム部門、購買部門、法務部門、経理部門など、関わる人が多いため、「セットでしか売りません」という提示は社内稟議や比較検討の障害になってしまいます。場合によっては競争法や取引慣行上の確認も必要になります。そこで、混合バンドリングの出番になります。
混合バンドリングには注意点が1つあります。単品価格とセット価格を同時に見せる以上、顧客は自分にとって最も得になる組み合わせを選びますから、単品価格の合計よりセット価格が高ければ、セットそのものの意味が薄れます。逆に、単品価格を下げすぎると、本来セットを買ってほしい顧客まで単品に流れてしまいます。図1のような無差別線と選択境界を使うと、どの顧客が単品を選び、どの顧客がセットを選ぶか確認できます。
混合バンドリングは「セットをつくって終わり」ではなく、顧客のWTPをある程度正確に把握したうえで利益が出るような単品価格とセット価格の組み合わせを設計する問題なのです。そのためには、顧客群ごとのWTPの幅や分布を把握することが重要です。
ここまで見てきた価格バンドリングは、複数の要素を「まとめて1つの価格として見せる」方法でした。実は、まったく反対方向の見せ方もあります。複数の価格要素を分けて提示する方法は「分割価格」と呼ばれ、それによって顧客の反応が変わる現象を「価格分割効果」と呼びます。次回は、価格分割効果について解説したいと思います。
Meyer, J., Shankar V., and L. L. Berry. (2018). Pricing Hybrid Bundles by Understanding the Drivers of Willingness to Pay. Journal of the Academy of Marketing Science, 46(3), 497–515.
Stremersch, S., and G. J. Tellis. (2002). Strategic Bundling of Products and Prices: A New Synthesis for Marketing. Journal of Marketing, 66(1), 55–72.