企業ネットワークの構造を可視化する「ネットワーク図(ネットワーク構成図)」を描く上では、様々な定石があります。本特集は書籍『ネットワーク図の描き方入門』(2025年12月22日発売、日経BP)から抜粋した内容を基に、これらの定石を易しく解説します。第5回は使い続けられる図にするために取り入れたい工夫を解説します。
システムの拡張に伴ってネットワーク構成図も継続的な更新が必要になります。そこで拡張に備えて図を描く際に意識したい点を解説します。主なポイントは「色使い」と「省略」です。
はっきりした色同士で違いを明確にする
まず意識したいのは色使いです。色は、ノードやリンクを示すヒモ(線)といった要素の違いを表現したいときに使いやすい手段の1つです。
色で違いを表現する際には2つの点に気をつけましょう。1つは補色関係にある色同士など、違いがはっきり分かる色味を選ぶこと。もう1つは、種類やパターンが少ない情報を表現するときに使うことです。
違いがはっきり分かる色味を選ぶのは、色の識別しやすさに配慮するためです。細かな色の違いを識別するのはネットワーク構成図を描く側も見る側も困難だからです。
例えば、スイッチ同士を結ぶリンク(ヒモ)に何らかの情報を付加したいと考え、色分けで表現するとします。一般的な描画ツールのカラーパレット上で隣に位置する色を組み合わせて使うと、色の違いをほとんど識別できません。
色味選びのコツを踏まえれば、はっきり誤解なく識別できる色の数はそれほど多くないことにお気付きでしょう。そこで種類やパターンが少ない情報を表現するときに使うというもう1つのコツが重要になります。
例えば、運用系セグメントと監視系セグメントといった具合に、グルーピングする数が少ない情報での利用をお薦めします。また、色覚特性によっては色の識別が難しい場合があることに配慮し、色以外の情報も併用しましょう。
設計のパターンを理解して省略する
2つ目のポイントである省略に注目しましょう。規模が大きくなったネットワークをそのまま表記すると、多数のノードやヒモを描くことになります。設計や運用で必要な情報を書き入れていくと、複雑さは増すばかりです。
そこで省略が重要になります。目的を満たす上で不要な情報、他の部分と同じ情報などを適切に省略すれば、図を拡張しやすくなり、ネットワーク構成図の分かりやすさを保ち続けられます。拡張したときに干渉しやすいヒモが減り、テキストラベルなどのオブジェクトの位置を整列させやすいからです。
「そうは言っても、何を省略すればよいのか分からない」と思った方がいるかもしれません。ネットワークのトポロジーのパターンに注目することを筆者はお薦めします。
ネットワークのトポロジーにはパターンがあります。ノード、インターフェース、リンクの情報を1つずつ記載しなくても、どこがどうつながっているかをある程度予想できるように設計されているケースが多いでしょう。
例えば、冗長ペアのうち、副系の記載を省略するのは有力です。冗長ペアは主系と副系に対称性を持たせる、つまり同じ内容を設定するためです。
もちろん、IPアドレスのように主系と副系で異なるパラメーターも一部あります。とはいえ、IPアドレスを割り振るルール(例えば、副系は主系の第4オクテット+1のアドレスを使う)を定めておけば、構成図に1つずつ書き込まなくてもフォローできるでしょう。
図を分割する
1枚の図で全体を管理すると、ネットワーク全体の構造、関係性、位置付けなどを一目で把握できるメリットがあります。その半面、維持管理やメンテナンスは難しくなります。そこで図が大きくなったら分割を検討しましょう。
分割に当たっては、分割方法や範囲にルールを設けます。ネットワーク設計では一般に、ネットワーク全体をある程度モジュール化しています。例えば、拠点間を結ぶWAN(Wide Area Network)、拠点内のコアネットワーク、サーバーのネットワーク、オフィスフロアのネットワークなどです。
物理的な場所だけでなく、管理用ネットワーク、顧客用ネットワークなどの利用者や役割別で分けることもあるでしょう。こうしたモジュール単位でネットワークを分けることで、管理しやすくなります。
図を分割する際は次の点に注意してください。全体の構造を示す構成図と、分割したネットワーク間の境界の情報です。ネットワークの動作はエンド・ツー・エンドの通信で考える必要があるからです。
管理しやすさの都合で分割したからといって、それぞれが独立して動作するわけではありません。まずはネットワークの全体像を把握するための情報(ネットワーク構成図)を用意します。全体像からネットワークを分割し、分割した構成図との対応が取れるようにしておくとよいでしょう。
全体像を把握した上で、次は分割したネットワーク間の境界を明確にします。「境界点ではどのように物理リンクを接続しているか」「ルーティングはどのように設定されているか」「境界点の障害に対してどのような動作を想定しているか」。これらの情報を明らかにしておくことで、ネットワーク全体の動作を管理できます。
[日経クロステック 2026年1月16日付の記事を転載]
萩原学(著)、木村博之(監修)/日経BP/3300円(税込み)



