優れたネットワーク図がある現場は、設計や運用などの業務をサクサクと進められる。そんな「仕事がはかどる」ネットワーク図をぜひ描けるようになりたいもの。そこで大好評書籍『 ネットワーク図の描き方入門 分かりやすさ・見やすさのルールを学ぶ 』の著者・萩原学さんに表現のコツを教わりつつ、記者が図の制作にPowerPointで挑戦した。その第2回。

 ネットワーク図を悩まず描くための手順を確認しよう。萩原さんは6つのステップに分けて描くよう勧めている(図2-1)。萩原流の各ステップを順に見ていこう。

図2-1●萩原流・ネットワーク図を描くための「基本の6ステップ」
図2-1●萩原流・ネットワーク図を描くための「基本の6ステップ」
誰に何を伝えたいかによって、図に含めるべき情報や表現方法は変わる。(出所:萩原学氏の許諾の下で日経NETWORK作成)
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1 目的を決める

 最初のステップは「目的を決める」だ。先にネットワーク図を描く目的を明確にすると、後で図を描く際にどんな情報を盛り込めばよいかで迷いにくくなる。

 では、目的はどんな内容にすればよいのだろうか。「『誰』に『何』を伝える図なのかを明確にしましょう」と萩原さんは助言する(図2-2)。

図2-2●「誰」に「何」を伝える図なのかを明確にする
図2-2●「誰」に「何」を伝える図なのかを明確にする
誰に何を伝えたいかによって、図に含めるべき情報や表現方法は変わる。(出所:萩原学氏の許諾の下で日経NETWORK作成)
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 例として、「IT(Information Technology)部門の担当者」に「ネットワーク構成の変更作業手順」を伝えるときと、「ユーザー部門」に「ネットワーク刷新の概要」を伝えるときを考えてみよう。この2例では、相手が備えるネットワーク技術のリテラシーも、伝えた後に相手が取るべき行動も全く異なる。図に含める情報や表現手法を変える必要があるわけだ。

2 構成要素をリストアップする

 「誰」に「何」を伝える図なのかを目的に設定できたら、次はその目的を達成するために必要なネットワークの構成要素をリストアップする。萩原さんはリストアップしたい構成要素を2つ挙げる。ネットワークを構成する「もの」と、ネットワークの「利用者」だ。

 前者の「もの」には、ルーターやスイッチといったネットワーク機器と、ルーティングやNAT(Network Address Translation)▼1などのネットワーク機能が当てはまる。後者の「利用者」には、人間だけでなくネットワーク以外の機械やシステムを含む。それらの利用者がどこにいて、何のためにネットワークを使うのかが分かる情報を洗い出す。

 リストアップした要素をステップ1で定めた目的と照らし合わせ、どの要素まで図に含めるかを考える。「IT部門の担当者」に「ネットワーク構成の変更作業手順」を伝える図であれば、リストアップしたネットワーク機器の機種名などの情報は欠かせないだろう。

 一方、「ユーザー部門」に「ネットワーク刷新の概要」を伝える図であれば、機種名まで載せる必要はなく、かえってノイズになりそうだ。相手と伝えたい内容に合わせた取捨選択をしよう。

3 表現ルールを決める

 構成要素がある程度決まったら、次は表現ルールを決める。ネットワーク機器や、機器同士を結ぶリンク(線)といった構成要素をどう表現するかを決める。

 萩原さんは「先に凡例をつくることをお勧めします」と話す。先につくっておいた凡例にならってネットワーク図を描けば、途中で表現に迷いにくくなる▼2からだ。

 表現ルールを決めるときは、自社で既に使っている「ネットワーク図のルール」も考慮に入れる。既存のネットワーク図と全く異なるルールで表現してしまうと、その図を読む人が理解するのに時間がかかる。見間違いなどのトラブルも起こりやすくなる。

4 どこに何を置くのかを決める

 次に取り組むのが、どこに何を置くのかを決めるステップだ。まず全体の大まかな構造を考えよう。

 「構造を考える際は、基本となるネットワークの『型』を意識しましょう」と萩原さんはアドバイスする。例えば大企業のネットワークであれば、「コア」「ディストリビューション」「アクセス」という3層構造を取ることが多い。これが型の1つだ。

 この型を意識しながら、「コアにはレイヤー3スイッチを置く」「アクセスにはレイヤー2スイッチを置く」といった具合に配置場所を検討する(図2-3)。型にならって配置すれば、全体のバランスが取りやすくなる。

図2-3●大まかな配置を検討する
図2-3●大まかな配置を検討する
「コア」「ディストリビューション」「アクセス」といったネットワークの階層構造を意識して配置を検討したい。(出所:萩原学氏の許諾の下で日経NETWORK作成)
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方位や視線の流れを意識して表す

 ネットワークにおける型と共に萩原さんが推奨するのは、多くの人が知る慣習やアナロジーを応用することだ。「定石に従って構成要素を配置すると、図を読む側が正しく理解しやすくなります」と萩原さんは話す。そこで3つの定石を取り上げる。「物理法則、方位」「視線の移動」「時間の経過」――である(図2-4)。

図2-4●要素の配置場所に関する「定石」
図2-4●要素の配置場所に関する「定石」
慣習やアナロジーに合わせれば、読み手がルールを把握する労力が減る。その分、伝わりやすくなる。(出所:萩原学氏の許諾の下で日経NETWORK作成)
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 「物理法則、方位」は天地や上下、東西南北などのこと。例えばネットワークの文脈では一般に、社内ネットワークの外部(主にインターネット側)を「上流」、内部(端末側)を「下流」と表現する。これと「物理法則、方位」の定石を対応付け、図の上部にインターネットを配置し、下部には端末を配置するわけだ。

 複数の自社拠点がある企業であれば、ネットワーク図上の拠点の配置場所を、実際の方位と合わせるのも分かりやすい。東京拠点は東(右)に、大阪拠点は西(左)に置く要領である。

 2つ目の定石である「視線の移動」では、図を目で追うときの自然な流れを意識する。横書きの図であれば、左から右へと視線が移動するのが自然だ。そこで先に見せたい要素を左にし、そこから右へと流れていくように配置すると、ネットワーク図を閲覧する側に分かりやすくなる。

 最後の定石「時間の経過」では、左側を過去、右側を未来として配置する。図にトラフィックの流れを書き込むとき、送信側の要素を左に、受信側の要素を右に配置するといった具合だ。

 「構成要素の位置は様々なデータを表現する上で特に重要なパラメーターです」と萩原さんは指摘する。位置に意味やルールをうまく付与できると、ネットワーク図の分かりやすさが高まるという。

 例えばコアスイッチやアクセススイッチといった役割ごとに構成要素の位置をそろえたい。位置に対して「構成要素の役割」という意味が付与され、ネットワークの型や構成要素の役割を把握しやすくなる。

 パターンとずれている箇所を認識しやすくなる利点もある。設計や運用の業務でネットワーク図を読むとき、他の要素と位置が異なることに気付くと「例外的な箇所だから要注意だ」と想像しやすくなる。「作業ミスの防止につながります」と萩原さんは話す。

5 ノード間をヒモで結ぶ

 ネットワーク図を構成する各要素の配置場所が固まってきたら、次のステップに移ろう。ここではリンクを意味するヒモ(線)でノード(構成要素)を結ぶ。

 簡単な作業に思えるかもしれないが、注意したいポイントがある。例えば線の種類や、線が交差する箇所の表現などだ。

ヒモは原則実線がお勧め

 作図ツールを利用すると様々な種類の線を手軽に描ける。実線、点線、2重線、波線といった具合だ。萩原さんは原則として実線で描くことをお勧めしている。

 ネットワーク図には多くの線を描くため、「複雑な線を使うと分かりにくくなりやすいです」(萩原さん)。点線を例に取ると、線が折れる場所を判別しにくくなるという。

 また、線の種類を増やすほど、線種による違いが分かりにくくなる。例えば他の線と区別しやすくする意図で2重線を使った場合、2本の実線が引いてある(ノード同士のリンクが2本ある)と誤解されかねない(図2-5)。

図2-5●リンクを表す線は原則実線を使う
図2-5●リンクを表す線は原則実線を使う
線種を増やすと分かりにくくなる。(出所:萩原学氏の許諾の下で日経NETWORK作成)
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 ただし、「実線以外の線を効果的に使えるシーンもあります」と萩原さんは言う。例えば「今は存在しない」という意味を持たせたいとき、点線は効果的と話す。

 ネットワークを再構築する場合、現行の図と構築予定の図を用意する。このとき現行ネットワークから消去するリンクを、構築予定の図では点線で表すといった具合だ。

交差する箇所は連続性を強調

 ネットワーク図における線の主な役割は、2つのノードまたはインターフェースの関係を表現すること。様々な線があちこちで交差すると関係が分かりにくくなるため、交差はできるだけ避けたい。

 とはいえ、ネットワーク図は規模が大きくなるにつれて交差を避けられなくなる。交差しても正しく識別できるように、表現を工夫する必要がある。

 萩原さんは2つの手法を提案する(図2-6)。1つは「ジャンプ」。線が交差する箇所で、一方に「飛び越し点」などと呼ばれるマークを付ける。もう1つは「重なり」という手法で、交差する箇所を一方の線で分断し、もう一方がくぐっているように見せる。

図2-6●線の交差を避ける2つのワザ
図2-6●線の交差を避ける2つのワザ
線が交差する箇所の一方に「飛び越し点」を付ける「ジャンプ」と、一方の線を分断する「重なり」がある。(出所:萩原学氏の許諾の下で日経NETWORK作成)
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 2つとも線がどう連続しているのかをうまく強調する手法といえる。ただし第1回で取り上げたツールのうち、PowerPointはどちらの手法も標準機能として備えていない。手動で表現する▼3必要があり、手間がかかる。

6 ラベルや記号で情報を付加する

 線を結び終えたら、ネットワーク図の完成まであと少しだ。萩原流の最後のステップに移ろう。ここではステップ1で設定した目的を満たすために必要な情報を、テキストラベルや記号で書き入れる。

 「ラベルや記号は配置方法によって見やすさが変わってきます」と萩原さんは指摘する。テキストラベルであれば、大きく2つの観点があるという。1つは、線の角度にかかわらず水平に配置するか、角度に合わせて配置するか。もう1つは、線上に置くか線の近くに置くか、というものだ。2つの観点の組み合わせにより、4通りの配置方法が考えられる。

 ラベルを水平に配置する方法は線の角度をそろえる手間が少ないという利点がある。コツはどの線と対応するラベルかが明確に分かるように位置を決めること(図2-7(1)、(2))。線の周辺に十分な余白がないと、線とラベルの対応が分かりにくくなる。

図2-7●リンクに対するテキストラベルの配置例
図2-7●リンクに対するテキストラベルの配置例
テキストラベルの配置によって作図しやすさや線との対応関係の識別しやすさ、リンクのつながりの識別しやすさが変わる。(出所:萩原学氏の許諾の下で日経NETWORK作成)
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 一方、線の角度とラベルの角度をそろえて配置すると、線とラベルの組み合わせを識別しやすくなる(同(3)、(4))。ただその分、作図の手間はかかる。

 2つ目の観点であるラベルを線上に置くか線の近くに置くかについては、何を識別しやすくしたいかで使い分ける。線とラベルの対応関係を識別しやすくしたければ、線上にラベルを置く(同(1)、(3))。一方、リンクのつながりを識別しやすくしたい場合は、線の近くに置くほうが分かりやすい(同(2)、(4))。

▼1 NAT
社内ネットワークで利用するプライベートアドレスと、インターネット上で利用するグローバルアドレスを相互に変換する仕組み。
▼2 迷いにくくなる
ステップ1で「誰」に「何」を伝える図なのか、目的を決めた。この目的に必要な情報を盛り込んだ凡例を作成することにより、「図に必要な情報が漏れるのを防ぐ効果も期待できます」と萩原さんは補足する。
▼3 手動で表現する
例えばジャンプを使いたい場合は、図形機能の「円弧」で半円を作成しておき、この半円を使って2本の直線をつなぐ。これにより一方の線を飛び越しているように見せられる。ただ、作成時はもちろん、修正が必要になったときも手間がかかる。

日経クロステック 2026年3月3日付の記事を転載・改題]
[出典:「日経NETWORK」2026年3月号 pp.27-31]

多くのIT現場で使われているにもかかわらず、描き方はあまり伝わっていないネットワーク図(ネットワーク構成図)。実は、描く手順である「基本の6ステップ」をはじめとして、描き方には様々な「定石」があります。本書が紹介する定石を体得すれば、あなたも業務に役立つネットワーク図を迷いなく描けるようになります。

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