「経営戦略史100年の中で、彼ほど長くかつ強い光を放ち続けている人物は他にいない」と評されるポーター。「5力分析」「戦略3類型」「バリューチェーン」といった経営ツールを開発し、大きな功績を残しました。その偉大な業績を『 マンガ 経営戦略全史〔新装合本版〕 』(三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画)から抜粋してお届けします。
・HBS教員をクビになりかけるが、大ヒット科目「ICA(産業と競争分析)」を開発
・33歳 『競争の戦略』が大ベストセラーになる
・35歳 HBS史上最年少で終身在職権を持つ正教授に
古株教授を『競争の戦略』でねじ伏せる
●さていよいよ、マイケル・ポーター(Michael E. Porter、1947~)の登場です。この経営戦略全史100年の中でも、彼ほど長くかつ強い光を放ち続けている人物は他にいません。プリンストン大学で航空工学を学んだあと、彼はHBSのMBAコースでビジネスを学び始めます。そこで、ケネス・アンドルーズやローランド・クリステンセンの講義に感銘を受け、さらに学び続けることにしました。でも、その上のDBAコースには進まず、ハーバード大学経済学部でビジネス経済学の博士号を取りました。当時、HBSの教員たちはみなDBA取得者ばかりだというのに。
●ポーターが博士論文で生み出したのがあの「ファイブ・フォース(5力)分析」(1975)でした。経済学部で優秀賞を取ったその論文はしかし、HBSではすこぶる評判が悪く、ポーターがHBSに教員として戻って数年後、准教授への昇進判断の際には、ほぼ全員が反対票を投じました。それを、次期学長が救ってくれました。「もう1年、様子を見よう」と。
●その猶予の中で、ポーターは大逆転ホームランを放ちます。ICA(産業と競争分析)という名の人気科目を開発し、大ベストセラーの『 競争の戦略 』(1980、邦訳はダイヤモンド社)を書き上げます。ポーターはわずか35歳でHBSの正教授になり、先輩諸氏をねじ伏せました。
ポジショニングとトレードオフがすべて
●経営戦略論の歴史の中で、ポーターが残した功績を経営ツール的に言えば「5力分析」「戦略3類型」「バリューチェーン」となります。
●ポーターは「ポジショニング」を重視しました。経営戦略の目的は企業が収益を上げることにあり、そのためには「儲けられる市場」を選んで、かつ競合に対して「儲かる位置取り」をしていないと、どんなに努力しケイパビリティを磨いてもムダだと。この2つが、ポジショニングです。
●「5力分析」は、「儲けられる市場」かどうかを判断するため(だけ)のものでした。そして「戦略3類型」は、「儲かる位置取り」を示すものでした。それは3種類(細かくは4種類)しかない! と彼は主張しました。
●ポーターは経営者たちにトレードオフを迫ります。究極自分たちは何で戦うのか、どんなポジションを目指すのかを明らかにせよ、と。「5力分析」「戦略3類型」、この2つで彼は、経営戦略論における「ポジショニング派のチャンピオン」と称されるようになりました。
●「バリューチェーン」はケイパビリティを記述するための枠組みでしたが、彼の考えるケイパビリティは、あくまでポジショニングを実現するための手段に過ぎず、競争優位の源泉ではあり得ませんでした。
●それらに対する反旗は、すでにマッキンゼーから翻されていました。「7S」(1978)という経営ツールが、その端緒でした。そしてそれを促したのは、ある種無鉄砲な日本企業たち(キヤノンやホンダ)だったのです。
シナリオ/星井博文 画/飛高翔 編集協力/トレンド・プロ
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三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画/日本経済新聞出版/2090円(税込み)