前回「 【マンガ】ポーター 『ポジショニング派』のチャンピオン 」は、ポーターが業界の収益性(儲けられる市場か)を知るために、経営学に経済学的手法を持ち込んだこと(5力分析)について解説しました。今回は、経済学的手法を、個別企業の収益性の差(儲けられる組織か)を知るために使ったバーニーらを取り上げ、その業績を『 マンガ 経営戦略全史〔新装合本版〕 』(三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画)から抜粋してお届けします。

ジェイ・バーニー
・イェール大学でPh.D.修得後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で教鞭(きょうべん)を執る
・組織戦略の大家となり、ルメルトとともにRBV(資源ベースの戦略論)を理論化
・42歳 『企業戦略論』出版
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企業の「資源」が収益を決める

●7SからTBCにイノベーション、1980年から95年はまさに経営戦略論の百花繚乱(りょうらん)の時代でした。書店では、それまでマイナーだったビジネス書コーナーが、文芸書と並ぶ位置を占め始めました。でも、どれも決定打とはならず、経営者たちを戸惑わせもしました。

●その状況を打ち破るものと(経営学者たちに)期待されたのが、RBV(Resource-Based View、資源ベースの戦略論)でした。1984年以降、オハイオ州立大学のリチャード・ルメルトやジェイ・バーニー(Jay B. Barney、1954~)とダートマス大学タック校のマーガレット・ペタラフ(Margaret Peteraf)らが中心となって研究を推し進めました。

●ここでも経済学的手法が使われました。ポーターは業界の収益性(儲けられる市場か)を知るために、経営学に経済学的手法を持ち込みました(5力分析)が、バーニーらは、個別企業の収益性の差(儲けられる組織か)を理解するために経済理論を使ったのです。

●彼らは、同じ業界にいながら企業間でパフォーマンス(収益など)に差があるのは、各企業が持つ経営資源の使い方の効率に差があるからだと考えました。

資源=有形資産(立地など)+無形資産(ブランドなど)+ケイパビリティ(サプライチェーン能力や経営判断能力など)

●資源の使い方がよければ「持続的な競争優位性につながる」と言うのです。

VRIO分析によるデルの戦略優位性評価

●その判断基準としてバーニーは、「経済価値」「希少性」「模倣困難性」「非代替性」の4つを挙げました。のちに4つ目が「組織」に替わって、VRIOフレームワークと称されるようになりました。

●例えばバーニーは名著『 企業戦略論 』(1996、邦訳はダイヤモンド社)の中で、厳しい事業環境下でも成功を収めていた90年代のデルをVRIOフレームワークで分析しています。

●しかし、デルの競争優位性がその数年後にはあえなく崩れたように、RBVは意外なほど「静的」で「内向き」でした。外部環境の変化(の予測)を取り入れる構造になっておらず、「経済価値」の分析も曖昧でした。どんな「資源」が有効かは示しましたが、どうやったらその資源を創造・獲得できるのかという「プロセス」は示せていませんでした。

●そういった数々の構造的欠陥を指摘されながらも、RBVは多くの研究者の知的好奇心を刺激し、ケイパビリティ派の中核コンセプトとなっていきます。「コア・コンピタンス」論の理論的基礎となったり、イノベーションやラーニングの概念を取り入れて「結合されたケイパビリティ」や「ダイナミック・ケイパビリティ」の概念に進化したり。

●RBVは今、マクロとミクロ、経済と経営、戦略とプロセス、企業と企業家と従業員、静的と動的、そのすべてを統合しようとする研究者たちの壮大な知的挑戦の場となっています。学者たちは果たして、経営の現場で使えるコンセプトやツールを開発することができるのでしょうか。

シナリオ/星井博文 画/飛高翔 編集協力/トレンド・プロ

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三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画/日本経済新聞出版/2090円(税込み)