AIの成果は道具のすごさではなく、前提の整い具合で決まります。ここで言う「前提」とは、難しい技術の話ではありません。言葉の意味を揃える/同じものを同じ単位で扱う/意思決定のタイミングに間に合う新しさを保つ/出所と責任を一言で示す、この4つです。そして、非技術者こそがこれらを整える仕事の主役になります。本特集では、書籍『AI活用のためのデータマネジメント超入門』(日経BP)から抜粋し、「なぜ前提を整えるとAIが成果を生むのか」を、経営の視点と現場の体感の両方から捉え直します。その第1回。

 データ活用の話になると、多くの人は真っ先に「分析」を思い浮かべます。BI(ビジネスインテリジェンス)ツールでグラフを描き、AIで予測を行い、ダッシュボードで全社に結果を共有する――そんな華やかなイメージです。

 確かに、分析は価値を生み出すための重要な一手です。しかし、それは最後の工程です。現実のプロジェクトでは、この「最後の一手」に全力を注ぐあまり、肝心の土台作りが後回しにされることが少なくありません。データがそろっていない、定義がバラバラ、記録方法が統一されていない……こうした状態で分析を始めても、成果はほとんど出ません。それは、材料が整理されていないキッチンでフルコースを作ろうとするようなものです。

「データ活用=データ分析」という誤解

「データ活用を進めたいんです。やっぱりBIツールが必要ですか?」

「うちもAIを導入して、売上を予測できるようにしたいと思っていて」

「分析ダッシュボードを全社員が見られるようにしたいんですよね」

 企業の担当者と話していると、こうした「華やかなデータ活用」の話題が必ずと言っていいほど先に出てきます。それ自体は間違いではありません。分析は最終的な価値創出の重要な手段です。

 ここでひとつ、大きな誤解があります。それは、「データ活用=データ分析」だと思われていることです。多くの企業が、「データ分析」だけを目指してプロジェクトを立ち上げます。しかし、実際に手を動かし始めると、こういった問題にぶつかります。

データ分析を進めるとぶつかる問題

  • 欲しいデータがどこにあるのか分からない
  • ファイルの命名がバラバラで、どれが最新か判断できない
  • 取得できるはずのデータが、実は記録されていなかった
  • 同じKPIなのに、部門ごとに定義や計算式が違う
  • 担当者が退職していて、データの意味が分からない

 こうなると、どんなに高機能なBIツールやAIエンジンを導入しても、「材料がない(欲しいデータが存在しない/記録されていない)」もしくは「材料が腐っている(データはあるが、精度が低い・古い・一貫性がない・欠損だらけなど、分析に堪えられない)」状態なので、価値のある分析はできません。

 つまり、データ活用とは「分析すること」そのものではなく、「分析ができる状態を整えること」が最も重要な仕事です。

 「データ活用」を分解すると、そこには多くの工程が含まれています。

データ活用の工程

  1. 業務に必要なデータを定義する(どんなデータが欲しいのか)
  2. そのデータを収集・記録できる状態にする(どこで・どう取るのか)
  3. 記録されたデータを整える(名前・形式・意味を統一する)
  4. 使いやすく加工・統合する(部門横断的に連携する)
  5. 分析する
  6. 結果を意思決定に生かす

 この中で「分析」は、たった1ステップ。「最後の一手」にすぎません。しかし、多くの企業が最初からここだけに目を向け、他のステップを軽視することで、プロジェクトが「開始3か月で詰む」状態になってしまうのです。

データマネジメントは「土壌」づくり

 データ分析は確かに華やかで注目されがちです。しかし、それが本当に機能するためには、その土台を作る「整備」が必要不可欠です。この「整備」(あるいは単に、整えること)こそが、データマネジメントの本質です。

 そして、この部分こそが、社内ではあまり注目されず、評価もされにくい一方で、最も重要で、全体の成否を握る仕事です。

 本書『AI活用のためのデータマネジメント超入門』では、「整備」を決して軽んじず、最初に着手すべきプロセスとして強調します。なぜなら、整っていないデータでは、どれだけ高度な分析技術を投入してもGarbage in, garbage out(≒ガラクタからは宝は出てこない)からです。

 データ活用の第一歩は、ツール導入でもダッシュボード作成でもなく、「そもそも整っていない状態を可視化すること」です

 これをできるようになることが、プロジェクトを動かす「起点」になります。

しっかりした「土壌」があってこそ成果につながる(写真:Alpha/stock.adobe.com)
しっかりした「土壌」があってこそ成果につながる(写真:Alpha/stock.adobe.com)

(書籍『AI活用のためのデータマネジメント超入門』を基に再構成)

日経クロステック 2026年1月21日付の記事を転載]

データ整備をシステム部門任せにするな

データマネジメントは高度なデータ分析技術の話ではありません。売上分析、顧客理解、業務改善、経営判断、リスク管理、そしてAI活用など、あらゆるテーマで「データをどう扱うか」が成果を左右する時代です。データを整えるには、プログラミングスキルは必要ありません。

永田ゆかり著、日経BP、2860円(税込み)