AIの成果は道具のすごさではなく、前提の整い具合で決まります。ここで言う「前提」とは、難しい技術の話ではありません。言葉の意味を揃える/同じものを同じ単位で扱う/意思決定のタイミングに間に合う新しさを保つ/出所と責任を一言で示す、この4つです。そして、非技術者こそがこれらを整える仕事の主役になります。本特集では、書籍『AI活用のためのデータマネジメント超入門』(日経BP)から抜粋し、「なぜ前提を整えるとAIが成果を生むのか」を、経営の視点と現場の体感の両方から捉え直します。その第2回。
あなたがもし、「データを活用して意思決定を加速したい」と考えているのであれば、まずやるべきことは分析の準備ではありません。「整備」です。ではなぜ、「整備」が最初に必要なのでしょうか。それには、3つの理由があります。
「整備」が必要な3つの理由
[1]「整っていない」データは「見えても信じられない」
例えば、あなたの会社がダッシュボードを導入し、売上や顧客データを可視化できるようになったとします。画面上に数字が並び、グラフが動いていて、なんだか「使えている感じ」がします。
でもその数字が、「本当に正しいのか分からない」「Excelの値と合わない」「定義が誰にも説明できない」となると、どうでしょうか? 結局そのデータは、「あっても使われない」「信用されない」ものになってしまいます。
見えることと、信じられることは違う。整っていないデータは、可視化できても活用されないのです。
[2]「整備」を後回しにすると「後戻りできない」状態になる
もう少し深刻な話をしましょう。多くの企業が、「まず動かしてみよう」とツール導入や分析体制の構築を始めてしまいます。そして、しばらくたってから「やっぱりマスターデータがバラバラだった」とか「設計思想が違った」と気づくのです。
ところが、その頃には、すでに複数のダッシュボードが稼働していたり、別々の部門が各自でフォーマットを決めて運用を始めていたりして、整備をするには「作ったものを壊さないと直せない」状態になってしまっています。「やっぱり最初から設計しておけばよかった」と後悔しても、もう手がつけられません。最初に整えることでしか、「壊さずに整備できるタイミング」は確保できないのです。
[3]「整備」自体が、全体像を理解する「唯一の機会」になる
さらに言えば、「整備」そのものが、プロジェクトや組織のデータ構造を可視化する唯一の工程です。
例えば、以下のような問いに、あなたの組織はすぐに答えられますか?
構造的な問題
- 売上データはどこで、どの形式で、誰が管理しているか?
- 「顧客」という単語は、部署によって定義が違っていないか?
- 同じ指標(例えば「稼働率」)を、部門間で違う計算式で使っていないか?
これらの問いは、「整備」作業を通じて初めてあぶり出される構造的な問題です。そして、それをあらかじめ「見える化」しておくことが、プロジェクトの方向性を大きく左右するのです。
整備に時間をかけることを、「遠回り」と感じる人もいます。早くツールを使いたい。早く分析したい。その気持ちはよく分かります。ですが、整っていない状態で走り出すと、そのツケは必ずあとから回ってきます。間違ったデータでリポートが出て、意思決定がブレてしまう。会議で毎回「この数字って何だっけ?」といった確認の声が飛び交う。現場が混乱し、結局、データ活用が「やってはいけないこと」になる……こうした無駄な消耗とやり直しの時間を考えれば、「整備」こそが最大の時短であり、「戦略的な先回り」だと私は考えます。
最初から完璧である必要はありません。ただ、最初に「整える時間をとる」という意思決定ができるかどうか。そこが、あなたのプロジェクトの明暗を分ける第1の分岐点になります。

(書籍『AI活用のためのデータマネジメント超入門』を基に再構成)
[日経クロステック 2026年1月22日付の記事を転載]
データマネジメントは高度なデータ分析技術の話ではありません。売上分析、顧客理解、業務改善、経営判断、リスク管理、そしてAI活用など、あらゆるテーマで「データをどう扱うか」が成果を左右する時代です。データを整えるには、プログラミングスキルは必要ありません。
永田ゆかり著、日経BP、2860円(税込み)
