数多くの著名経営者をクライアントに持ち、伝説的なエグゼクティブ・コーチであるマーシャル・ゴールドスミス氏。『 コーチングの神様が教える「できる人」の法則 』『 トリガー 6つの質問で理想の行動習慣をつくる 』などの著者でもある同氏のンタビュー第3回。同氏は50年来の仏教徒であり、コーチングにもその考え方を応用し、多くのビジネスリーダーが実践しています。動画と記事でお届けします。
第1回
「【動画付き】『コーチングの神様』に聞くリーダーの役割」
第2回
「【動画付き】『コーチングの神様』に聞く悪い習慣を改善する方法」
仏教に学んだ今を大切にすること
人生には良いときも悪いときもあります。つらいときを乗り越えるアイデアはありますか
マーシャル・ゴールドスミス氏(以下、ゴールドスミス) よく質問されますが、幸せについて語るのは簡単なことです。一方で、どうすればずっと幸せでいられるのか。人生には浮き沈みがあり、どうすればいいのか。私はその対処法を知っています。私は仏教徒なので、仏教観の一部を借りて少しお話ししましょう。
ブッダは父親が王様で豊かに育ちました。父である王は、ブッダがより多くのものを手に入れれば幸せになれると思い続けていました。ブッダは、泡の中のような城に暮らしていましたが、城外に3回、抜け出しました。1度目に彼が学んだのは、人間は年を取るということでした。ああ、あまり良くないなと。2度目に学んだのは病気になること。これは、もっと悪い。3度目は、人は老いて、病気で死ぬということです。
ブッダはすべてを悟ります。もっと多くのものを手に入れたら幸せになるだろうと思ったら、そうでもなかった。その後、ブッダは森に入りました。少ないもので幸せになろうとしたのです。彼は、そこでは飢えを体験しました。最後に、ブッダは大きな気づきを得ました。それは、多くても幸せにはなれないし、少なくても決して幸せにはなれないということでした。
どうすれば、永続的な幸福を維持できますか? 私にそう質問する人は、仏教の教えを完全に見落としています。仏教では、永遠に幸せである必要があるとは教えていません。ただ1つのことに集中せよと教えています。
いつ幸せになれるのか。今だけ。どこで幸せになれるのか。ここだけ。だから、今すぐ幸せになる、ということです。来週でも、来年でもありません。幸せになる方法を学びたいなら、人生でたった1秒だけ。今を大切にすることです。
最新刊『The Earned Life』(日本経済新聞出版から年内刊行予定)では、仏教について触れているそうですね。仏教からの学びでコーチングに生かしていることを教えてください。
ゴールドスミス 私はケンタッキー州バレーステーションという小さな町の出身です。仏教徒はそれほど多くありませんでした。いったい、どこで仏教に興味を持ったのかとよく聞かれます。仏教哲学を学び始めて50年以上になりますが、仏教や仏教哲学に関する本を400冊以上読みました。組織行動学の博士号を取得するために勉強したことよりも、仏教について勉強したことの方がはるかに多いのです。
仏教を学んだといっても、何かに改宗したわけではありません。私は宗教家ではなく、哲学的な仏教徒です。仏教は私にとって、人生において意味あるものの代表でした。仏教の好きなところは、アクセプタンス(受容)、あるがままを受け入れること。人生が、私たちが思っていたようなものでなかったからといって、動揺しながら人生を送るのではない。
人間であることを許せるようにしよう、あるがままを受け入れよう、ということです。他人が、自分の思っていたのとは、違う存在であることを許せるようになる。そうして、あるがままの人生を受け入れることができる。
未来のためのインプットを求める
ゴールドスミス 書籍でも触れてきましたが、私のコーチングでは、「フィードフォワード」(未来に向けた追求)を重視します。フィードフォワードは、仏教哲学から得たものです。仏教では、それがあなたにとってうまくいくなら、私が教えたことだけをやりなさいと教えます。うまくいかなくても、大丈夫。やらなければいいのです。
私はコーチングをするすべての人に、過去についてのフィードバックではなく、未来のためのアイデアのインプットを求めるように指導しています。そして、もし、今取り組んでいることが自分に合っていたら、続ければいいし、もしそれがうまくいかなくても「何でもやります」と人に約束しないでほしいとも伝えています。
ビジネスリーダーの仕事は人気投票ではありませんから、誰も、あなたが何でもこなすことを期待していません。私がコーチングで指導するリーダーたちには、「ただ、周囲の意見に耳を傾け、インプットに感謝し、できる限りのことをすると約束してください」ということを常に求めるようにしています。
長年にわたり、世界中の最も影響力のあるリーダーの多くをコーチングしてきました。世界で100万人以上に「フィードフォワード」を指導しましたが、ほぼいつも好評でした。ポジティブで、シンプルで、焦点が絞られているからでしょう。これが実は仏教の哲学に基づいているのです。
あなたも自分に合ったことをやってみましょう。物事を判断し、批評しない。周囲に耳を傾け、人々に感謝し、批判も贈り物と見なし、自分に合ったことをやればよいのです。
書籍を通して、読者に特に伝えたいメッセージがあればお聞かせください。
ゴールドスミス 『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』にも書いてきたことですが、大切な質問があります。それは「もし、あなたが95歳まで生き、しかも、過去に戻れるとしたら、今の自分にどんなアドバイスをしますか」というものです。
最晩年を迎えた賢明な老人である将来のあなたは人生で何が重要で、何が重要でないかを知っています。ただ、呼吸をして、考えてください。その老人は、今のあなたに、どんなアドバイスをするでしょうか。
個人的には、3つあります。第1に、幸せになろうということ。来週でもなく、来月でもなく、来年でもなく、今すぐに、です。偉大なる西洋病が日本も席巻しています。お金、地位、高級ブランドの服、車、タワーマンションなど、私たちは皆、何かが手に入ったら幸せになるという風潮に影響されています。
第2は、友人や家族について。出世や成功の階段を上るのに忙しすぎて、大切な人を忘れてはいけないということです。間違えてはいけないのは、あなたが95歳になったとき、周りにいるのは同僚ではないということ。周りにいるのは友人や家族だけです。
成功者が人生の最後に話すこととは?
ゴールドスミス そして最後に、夢があるのなら、それに向かって進むべし、ということです。なぜなら、35歳のときにそれを目指さなければ、45歳になっても目指さないかもしれないし、85歳になってもおそらく目指さないからです。大きな勝利である必要はないのです。
ニュージーランドに行く、スペイン語を話す、ギターを弾く。他の人はあなたの夢をバカバカしいと思うかもしれない。でも、それはあなたの夢です。彼らの人生ではない、あなたの人生です。
95歳のあなたは、自身が達成したことを誇りに思い、やらなかったことを後悔するでしょう。多くの引退後のCEOに、「あなたは何を誇りに思っていますか」という質問をしたことがあります。「会社の規模をこんなに大きくした」「いくら稼いだ」などと言う人は誰もいませんでした。彼らがこぞって語るのは、「何人の人を助けたか」という逸話です。
そして、私からの最後のアドバイスは「頑張ってみろ」ということです。世界は激変し、日本という国も変わっているでしょう。自分が正しいと思うことをしてください。勝負に勝てないかもしれないけれど、少なくとも挑戦したということが大事です。リスクを冒して失敗したことを後悔する老人はあまりいません。私たちは、人生の最後にあって、たいていリスクを取らなかったことを後悔するのです。
協力/ビジネスコーチ株式会社 取材・構成/三田真美 撮影/近藤豊
『 コーチングの神様が教える「できる人」の法則 』
トップ・エグゼクティブコーチとして活躍している著者が、いかに自らの悪癖を乗り越え、部下を育て、さらに自分の能力を発揮していくかをステップごとに解説する。コーチング体験から得られるステップごとに示され、非常に読みやすく、読みながら自分の悪癖を把握できる。
マーシャル・ゴールドスミス、マーク・ライター著/斎藤聖美訳/日本経済新聞出版/1210円(税込み)
『 トリガー 6つの質問で理想の行動習慣をつくる 』
肥満、喫煙、朝寝坊、先延ばし、短気……こうした悪弊や悪習慣を直すにはどうすればよいか。自らに決定的な問いを投げかける「アクティブ・クエスチョン」を体得して、自分の問題に気づき、行動を変えやすくするセルフ・コーチングの手法をわかりやすくまとめた。
マーシャル・ゴールドスミス、マーク・ライター著/斎藤聖美訳/日本経済新聞出版/1210円(税込み)


