「ちゃんと勉強しているのに、なぜ成績が上がらないの?」――そんな悩みを抱える親御さんは少なくありません。しかしお子さんの成績不振の原因は、努力不足や能力ではなく、「脳と心の使い方」が関係しているのかもしれません。「米国で最も人気の精神科医」と称されるエイメン医師と、40年以上の臨床経験のあるフェイ心理学博士の新刊『メンタルが強い子に育てる 「自走できる子」になる脳科学と心理学の最新成果』(鹿田昌美訳/日本経済新聞出版)より、子どもの学習面の意欲を引き出す関わり方を解説します。
フィードバックの基本原則
「批判」をしょっちゅう受けていると、子どもはやる気をなくしてしまう。子どもにとって本当にためになるのは、信頼している人、自分を信じてくれる人、長所を褒められれば新しい習慣をはるかに身につけやすくなることを理解している人からのフィードバックだ。基本原則は次のとおり。
強みを育てることで、苦手な分野でリスクを取る意志を持たせよう
信頼も尊敬もしていない人のためにリスクを冒す人はいない。だが、「きみは大切な人だ。きみのことを信頼しているよ!」と絶えず伝えてくれる特別な人のためには、子どもは火中を歩くこともいとわないことがある。
成績優秀な人の思考を促す
米国を代表する社会心理学者バーナード・ワイナーは、そのキャリアの初期に、成績優秀な被験者と成績の低い被験者の思考パターンの違いに関心を持ち、「成績優秀な人は成功も不成功も、自分がコントロールできる要因に帰する傾向がある」ことを発見した。そこには、練習や準備、努力の量、忍耐の度合いなどが含まれる。
一方、「成績の悪い人は、運や指導の質、生まれ持った能力、課題の難度など、自分がコントロールできない要因のせいにする」傾向が見られることもわかった。自分のパフォーマンスを、自分がコントロールできない要因のせいにする人は、状況を改善し、難しい課題に取り組み続ける意欲に欠ける。逆に、自分のパフォーマンスを、自分がコントロールできる要因と関連づけて考える人は、スキルを向上させ、粘り強く努力しようとする意欲がはるかに高いのだ。
近年、スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエック博士が同様のパターンを特定し、こうした特性を学習して身につけられることを裏付けるデータも発見した。ドゥエック博士は研究から、「あなたはとても賢い」「あなたはとても聡明(そうめい)だ」など、具体的ではないフィードバックを受け続けた被験者は、難しい課題をあきらめたり避けたりする傾向が強いことを発見した。自分の成功を、「遺伝や変わらない性質」による能力の高さの結果であると考えるように訓練された子どもは、新しい課題に直面したときに、これ以上は無理だと思い込み、あきらめてしまうのだ。
一方、「あなたは一生懸命努力した」「あなたは努力し続けた」など、自分の努力にまつわる具体的なフィードバックを受けた被験者は、粘り強く頑張ったり、将来的により難しい課題に挑戦したりする傾向が強かった。ドゥエック博士はその優れた著書『 マインドセット 「やればできる!」の研究 』(今西康子訳/草思社)の中で、これを「固定マインドセット」と「成長マインドセット」と呼んで、明確に区別している。
この調査と同様に、私たちは、これまで見てきた成績不振の生徒にも似たようなパターンがあることに気づいた。そして、成績が良い人と悪い人の観察結果に基づき、次の「成績優秀な人の思考」を促すプロセスを作成した。
- ステップ1 子どもが上手にできていることを見つけて、具体的に説明する
例:「この数学の9番目の問題、正しく解けたね!」 - ステップ2 子どもに「どうやって解いたの?」と尋ねる
重要なこと:「とても賢い」「すごいね!」などの言葉で子どもを褒めたくなっても我慢する - ステップ3 成功した理由を聞くために、3つの質問をする
1.「一生懸命勉強した?」
2.「努力を続けた?」
3.「練習してきた?」
(この3つはすべて努力を示しているので、子どもがどれを選んでも問題ない) - ステップ4 「これを成功させるために必要なことは、何だと思う?」と尋ねる
子どもは、自分の信念を言語化すると、それを内在化する確率がはるかに高くなる。だからこそ、子どもに成功の理由を3つの中から1つ選ばせ、声に出して言わせることをお勧めしたい。脳は「見たもの」を取り入れて現実化するが、「聞いたこと」も現実に変える。著者のフェイ博士は、自分の答えに確信が持てない子には、「どれかわかっているふりをするなら、どれを選ぶ?」と優しく尋ねることがある。ある賢い少女は、単語のつづりのテストで成功した理由を尋ねられると、笑いながらこう答えた。
「変な質問ね! その3つの理由はどれも同じよ。でも1つ選ばなければならないとしたら、練習してきたからだと思う」
子どもは、聡明さや頭の良さや才能に焦点を当てた褒め方よりも、このアプローチを取ったほうがはるかにうれしいものだ。おそらく、前者の褒め方には、成果を出さなければならないというプレッシャーが伴い、多くの子どもはそのことに圧倒されてしまうのだ。子どもは、大人が認めてくれていないと感じると、すぐに心を閉ざしてしまう。反対に、ありのままの自分を愛してくれているとわかれば、自由に探求し、間違い、その間違いを、人生を前向きに生きるための学習へと変えることができる。
育てたいのは人としての力
学習と学力向上を阻害するものとして、正当な障害から生じる慢性的な学業上の困難は、性格上の問題によって引き起こされる困難に比べると、その割合ははるかに小さい。たとえば自制心や感情コントロールの欠如、つまずきや忍耐の経験不足、家族との絆や家庭での貢献の少なさ、ルールを守れない、などがこれにあたる。
著者のフェイ博士の長男は小学2年生のとき、算数に苦労していた。当時の先生は、35年以上の指導経験のある聡明な年配の女性だったが、フェイ博士はこの先生の言葉を一生忘れることはないだろう。
「息子さんに良い人間になるように教えてください。読み書きや算数よりも、はるかに重要なことです。そうすれば、彼は必ず成功への道を見つけるでしょう」
博士はこの先生のアドバイスに従い、息子に家の手伝いをさせ、人に優しく接し、待つことや感謝の気持ちを伝えることを教えた。年月が経つにつれて、息子は学校で苦労することはあったものの、優しく、責任感のある青年になっていった。
そして大人になってからは、妻や同僚や顧客だけでなく、あらゆる人に敬意を持って接することが成功につながると知った。わが子を、人に優しく接し、約束したことを実行し、犯した間違いについて自分で責任を取る人間に育てれば、自然と成功に近づけるだろう。
ダニエル・エイメン、チャールズ・フェイ著/鹿田昌美訳/日本経済新聞出版/2640円(税込み)

