2025年2月13日に『「答えを急がない」ほうがうまくいく あいまいな世界でよりよい判断をするための社会心理学』(日経BP)発売を記念して、X(旧Twitter)のスペースでトークイベントを開催し、著者の三浦麻子さん(大阪大学大学院人間科学研究科教授)、ライターの寒竹泉美さん、編集担当の志摩麻衣の三者が、本書のテーマから本づくりの舞台裏まで語り尽くしました。その内容を紹介する2回目は、本書の企画が始まったときの三浦さんの思いや、寒竹さんが原稿作成で果たした役割について。
第1回 「『あいまい』な方がうまくいく 究極のビジネス書、誕生」
社会心理学を「体験」できる本
ライター・寒竹泉美さん(以下、寒竹) 社会心理学は統計など数字がいっぱい出てきて、理系っぽいなと思いました。
著者・三浦麻子さん(以下、三浦) 臨床心理学は別かもしれないけれど、一般に心理学はバリバリ統計を使って、データ分析でものを言う感じですよ。確率的な考え方とか、データをおしなべてどういう傾向があるかを考えるときは統計が役に立つし、統計を使ってものを言う学問だと思います。
寒竹 数字で人の心を研究するというと、一見、機械的で温かくないと思われるかもしれないけど、逆に、この本にもあるように人の心はバイアスだらけなので、なるべくバイアスのない状態を見ようとしたら、数字やデータをたくさん集めることで初めて本当に心が見えてくるという、逆説的なところも面白くて、だんだん癖になります。
三浦 そうですね、結局、あいまいなんだよということも心の中に持ってないと、数値が出てきて、統計的に差がありましたと言われて、エビデンスを突きつけられてそれ以外の結論ナシみたいな感じになっちゃうのもすごく困るんですよね。だから、逆張り的に、エビデンスなど死んでしまえみたい声もあるわけで。
寒竹 1回結果が出たら、それで終わりでもないし。ビジネス書で何度も登場するような理論も今は違うとか、この人は実はデータ捏造(ねつぞう)してたとか、いろんなことを社会心理学分野の現役で研究している三浦さんから聞けるのがすごくよくて、この本のウリでもあると思っています。みんな孫引きみたいな感じで引用してビジネス書で書いたりするけれど、実際の実験はどうだったとか、解釈はどうなのかみたいなこともすごく楽しめる本になりました。
三浦 私はそれが好きなんです。授業で、この実験はこういうふうにやったんだ、すごいだろうみたいに、早口のオタクみたいにずっと語ってるんです。
寒竹 そう、ぜひ、その早口のオタクみたいに語るのを本で再現したいと思いました(笑)。たぶん、授業を聞いてるような本になったんじゃないかな。
三浦 そうですね、夫は、私がしゃべってるみたいと(笑)。
本書の企画・制作が始まった経緯
寒竹 この本が生まれた経緯について話をしましょう。三浦さんはもともと、こういう一般書を書こうと思ってなかったんですよね。
三浦 全然思ってなかったですね。「現役の研究者は論文を書くのが仕事。一般向けの本は年を取って退職して暇になってから書け」とある人に言われて、確かにそうだなと思ったんですよ。現役でやってるときは現役らしいことをやるべきで、一般書というのはちょっと視点が高いテーマにしないと、いろいろな人に受け入れられるようなことは書けないと思ったのもあって、現役のときには書けないなと。それともう1つ、私の文章は若干難しすぎて、いくらでも難しくする方向に書くことはできるのですが、一般向けじゃないという自覚があって。
日経BPさんからお話をいただいたとき、関心がないことはないけれど、こういう事情があるので、ライターさんが入ってくださるんだったらいいと。社会心理学的な視点を得ると、生きるのがちょっと楽になるということを伝えたかったんですけど、自分では無理なので、ライターさんを探していただきました。結局、寒竹さんとお会いして、2年ぐらいかけて本が完成しましたね。
寒竹 専門書や教科書は作られてますけど、三浦さんの一般書としては初の本ですね。本が出来上がる過程や届いたときには、三浦さんのテンションが上がっている感じで。
三浦 大学院の学生には先生らしくないって、すごい言われたんですよ。一般のいろんな人に手に取ってくれという感じの本を書くと思ってなかったと。もうちょっと親しい人には、答えを急がないとお前が言うかと突っ込まれます。めっちゃ急いでるやろって(笑)。
寒竹 それは三浦さんがせっかちだからでしょうか(笑)。
三浦 そう。でも、私は急いでるわけではなくて、早いのだと。常々準備してるので、準備してたら5秒で答えが出る。そうでないものは、ちょっと考えますが。
寒竹 三浦さんらしくないって言われたときの、返しが面白かったですね。
三浦 自分がやれるとか、やりたいことだけやる人生はつまらない。自分らしい仕事だけやっててもつまらないと。若いときは、自分らしいことがなかなかできなくて、自分らしい仕事をしたいと思うわけですよ。私は幸い、ここ最近は自分らしいことを結構やってるので、自分らしくないこともやってみたくなって。この本を出すことは私らしくないと思われるなら、よりハッピーでテンションが上がります。
寒竹 いいですね(笑)。三浦さんはTwitterの時代からXに名前が変わるまで、ずっとつぶやき続けていて、研究や論文が出たらそこに全部説明する投稿があったので、本を作るときにすごく役に立ちました。
三浦 今、投稿数が23万ぐらいあるのかな。私の2007年から18年間にわたる投稿を、こんなに有効に使った人は世界で寒竹さんしかいないです。
「著者らしさ」のネタ元はTwitter
寒竹 どうやってこの本が作られたかという話に移りましょう。この本は著者と編集者に、私がライターとして参加して作りました。いわゆるゴーストライターですけど、最近はライターの名前もクレジットに載って、全然隠さずに一緒に作ったという感じになっています。著者は総監督みたいな感じで、コンテンツ提供の最終責任者として、アイデアの内容や情報、主張など全てを提供します。ライターは、著者の話を聞いたり資料をもらったり、一緒に話し合って考えたりして、文章を書いてまとめて構成します。
本の作り方はいろいろありますが、今回は三浦さんの研究内容と、話を聞いた取材の内容と、過去の著作や論文にプラスして、Twitter(現X)をストーカーして、Twitterのつぶやきをこの本の中にたくさん入れ込みました。こんなことをしたのは初めてだし、多分、他にしてる人はいないと思います。
三浦 たぶんいないでしょうね。だから、私が書いたっぽいんですよ。
寒竹 実際に文章をそのまま使うこともあったので三浦さんの色が出るし、それをやってるうちに私にも三浦麻子が降りてきて(笑)、この言葉づかいだねと書けるようになって。
三浦 私のTwitterをずっと見てた人は、私が書いたに違いないと思うでしょうね。Twitterの文章は140字しかないのに反映されてるんだなと思いました。私が小さい頃から書いた文章を相当読んでいる母も、私が書いた文章だと思ってて(笑)。
編集担当・志摩麻衣(以下、志摩) 先ほど三浦さんは自分で書くと正確にしたくて一般の人にとっては難しくなるとおっしゃってましたが、この本は読みやすいから、寒竹さんが翻訳してくれたんですね。
三浦 そうそう、私だったらなるべく正確に誤解がないように書くことに気が行きすぎて、延々と説明しちゃうと思う。
寒竹 取材のとき、三浦さんは聞いたことに最短距離でピタっと答えてくれるから、「あ、終わっちゃった、もっと聞かなきゃ」みたいな感じで。余計なことをもっと欲しいと思ったとき、Twitterがあって。例えば、回顧バイアスという言葉を本に書こうとしたとき、三浦さんのTwitterを検索して、回顧バイアスとつぶやいたものを集めて、本に組み込みました。キーワードで検索すると、その分野に関する論文や研究が全部出てくるので、なんと便利なんだと。三浦さんはTwitterのつぶやきを本にされるのが嫌かなと思ったんですけど、オープンソースだから全部使っていいよと。
三浦 全然嫌じゃないですよ。そういうふうにまとめる人がいるとは想像してませんでしたけど、とにかく断片的にでも研究に関する情報はちゃんとTwitterに載せていこうと思ってたんですね。個人のアカウントでツイートするなら、面白いと思われることをまぶしつつ、社会心理学を知ってもらうためにツイートすることもすごく大事だと思って続けてきたので、それがこんな形で役に立てるなんて、もう本当に素晴らしい。
(第3回に続く)
文/佐々木恵美 構成/志摩麻衣(日経BOOKSユニット)
三浦麻子著/日経BP/2090円(税込み)



