時価総額世界一を2024年6月に達成し、AI(人工知能)最強企業として急成長を続ける米エヌビディア。実際にどんなビジネスをしていて、その強さの根源はどこにあるのか。基本的な7つの疑問を通して、同社が世界中から注目を集める理由を明らかにしよう。『NVIDIA(エヌビディア)大解剖』(島津翔著、日経BP)から一部を抜粋してお届けする。
1:エヌビディアはどんな企業? なぜ注目されている?
2:主力製品の「GPU」とは何? 「CPU」との違いは?
3:AI半導体メーカーになった転機は?
4:メーカーなのに工場を持っていないのはなぜ?
5:独走状態なのに規制当局から調査されないの?
6:なぜ他社は追いつけない? 競合の動きは?
7:無双状態はいつまで続く?
1:エヌビディアはどんな企業? なぜ注目されている?
エヌビディアは米カリフォルニア州のシリコンバレーに本社を構える半導体メーカー。注目の理由はずばり「AI(人工知能)に必要な半導体」を開発しているから。ChatGPTの登場以降、世界中の企業がAIを開発・利用するためにエヌビディアの主力製品「GPU(画像処理半導体)」を使用している。
AIを開発するには、大量のデータからパターンや特徴をAIが自ら見つけ出すようにトレーニングしなければならない。これを「AIの学習」と呼ぶ。AIの学習では、(1)トレーニングに使用するデータの量、(2)学習で最適化する変数(パラメーター)の種類、そして(3)学習で利用した計算量、の3つが多ければ多いほど性能が向上することが分かっている。つまり、大量のデータを使って高速なコンピューターでトレーニングすれば、高性能なAIを開発できる。
エヌビディアはAIに適した超高速な半導体を開発しており、高性能なAIの開発に必要不可欠な計算資源として、世界中のAI関連企業から注文が殺到している。それが、エヌビディアの主力製品である半導体GPUだ。英調査会社のオムディアによれば、エヌビディアはAI向けGPUで7割以上のシェアを握っている。
2:主力製品の「GPU」とは何? 「CPU」との違いは?
GPUは、大量のデータを同時に計算する「並列処理」が得意。一方で、「CPU(中央演算処理装置)」は汎用の計算機で、演算を次々に処理する「逐次処理」が特徴。いずれもコンピューターを支える頭脳だが用途が異なる。大量のデータによるAIのトレーニングにはGPUが向くが、CPUも必要であることに注意が必要。
GPUとCPUについて、米アマゾン・ドット・コム傘下のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は、その違いをレストランの従業員に例える。規模の大きなレストランで、数百個のハンバーグをひっくり返す必要があるとしよう。CPUは腕の立つ料理長だが、数百個のハンバーグを同時に返すことはできない。できたとしても、その間に他の調理ができず、レストランの業務全体に影響を及ぼしてしまう。そこで料理長は、複数のハンバーグを同時にひっくり返すことのできるアシスタントを起用する。これがGPUだ。アシスタントを10人雇い、それぞれが10個のハンバーグをほぼ同時にひっくり返せば、瞬時に100個のハンバーグが完成する。
この例えのように、GPUはCPUの指示に従って、特定のタスクを担う半導体であるとも言える。
3:AI半導体メーカーになった転機は?
2012年にカナダのトロント大学の研究者がGPUを使って高性能なAIを開発したのがきっかけの1つ。GPUがAIに適していることが開発者に広まった。エヌビディアのジェンスン・ファンCEOはこれを勝機と見て経営資源を一気にAIに振り向け、GPUをグラフィックス向けではなくAI向けに作り替えた。
画像認識の世界的なコンテストで2012年、トロント大学のチームが開発した画像認識AI「アレックスネット」が、前年の記録を大幅に更新する大差で優勝した。これは、のちに「深層学習(ディープラーニング)のビッグバン」と呼ばれる大きなターニングポイントだった。チームの代表者は2024年にノーベル物理学賞を受賞したジェフリー・ヒントン教授だ。AIの伝説的な研究者として知られる。
エヌビディアのジェンスン・ファンCEOは、アレックスネットの結果や、「AIとGPUの相性のよさ」についての社内報告などを分析し、2013年に「グラフィックスの会社」から「AIの会社」になることを決意した。
4:メーカーなのに工場を持っていないのはなぜ?
生産設備を持たない半導体メーカーを指す「ファブレス」は1980年代のシリコンバレーで誕生したモデル。生産設備を自社で保有すると、常に最先端の製造設備に更新する必要があり固定費がかさむ。エヌビディアは戦略的にファブレスを選択し、営業利益率60%以上の超高収益体質を築いた。
ファブレスは、1980年代、物価高の米国において生産設備を構えることが難しく、日本の半導体メーカーなどに生産を委託したことがその起源とされる。1985年には後にスマートフォン向け半導体で世界を席巻する米クアルコムが誕生、1987年には、ファブレス企業からの委託を一手に引き受ける世界最大の受託製造企業(ファウンドリー)、台湾積体電路製造(TSMC)が生まれている。
今ではエヌビディアに加えて、クアルコムや米ブロードコム、米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD、2012年に工場部門を分離)など、注目企業の多くがファブレスだ。ちなみに、1980年代に興隆をきわめた日本の半導体産業が1990年代以降、急激にその存在感をなくしていく理由の1つが、この水平分業の動きに乗り遅れたからだという指摘もある。
5:独走状態なのに規制当局から調査されないの?
中国では規制当局がエヌビディアを独占禁止法違反の疑いで調査している。米国・欧州でも調査開始の報道がある。ただしいずれも調査の段階で、規制当局による訴訟には発展していない。
エヌビディアに対して強硬な態度を取っているのは中国だ。2024年12月には中国政府の国家市場監督管理総局が独禁法違反の疑いでエヌビディアの調査を始めたと発表。2020年にエヌビディアがイスラエルのメラノックス・テクノロジーズを買収したことを問題視している。当時、中国の当局は買収を条件付きで承認したが、その条件に違反した疑いがあるとしている。一方で、この調査は米国が中国に対する半導体の輸出規制を強化したことに対する対抗措置との見方もある。
欧米でも調査の報道がある。2024年9月、エヌビディアが反トラスト法(独禁法)に違反した証拠を求めるため、米司法省がエヌビディアを含む複数企業に文書提出命令状を送付したと報じられた。司法省は民事調査請求と呼ばれる通知書を調査対象に送付する権利がある。一方でエヌビディアはこの報道に対して、文書提出命令は受けていないと反論している。2024年12月、英ロイター通信は欧州連合(EU)もエヌビディアを独禁法違反の疑いで調査中だと報じた。
6:なぜ他社は追いつけない? 競合の動きは?
理由は大きく2つある。1つはハードウエア。蜜月関係が続くTSMCの最先端技術を活用したGPUの性能が競合製品を上回っていること。もう1つはプラットフォームで、ソフトウエア開発環境「CUDA(クーダ)」が開発者の標準となっている点にある。CUDAはエヌビディアのGPUを動かすために設計されており、他社のAI半導体には適用できない。エヌビディアはハードとソフトの両面で牙城を築いている。
エヌビディアの強みは、半導体受託製造で世界首位のTSMCとの蜜月関係にある。自社で生産設備を持たないファブレス企業にとって、ファウンドリーとの信頼関係は何より重要になる。ファブレス企業はTSMCに頼めば自動的に製品が出来上がるわけではない。TSMCのエンジニアとチームを形成し、半導体を実質的に共同開発する。設計時点でも製造者目線でTSMCのフィードバックを受ける。逆にファブレス側も設計者目線で製造技術にアドバイスする。1998年に協業を始めて以降、時間をかけてTSMCと信頼関係を築き、エヌビディアは毎回、最先端プロセスを利用したGPUをリリースしている。
もう1つはソフトウエアだ。2006年にソフトウエア開発環境「CUDA」を発表。機械学習などのプログラミングに便利なツールなどを多数揃えることで、ソフト開発で必須の環境になっている。CUDAを使って動かせるのはエヌビディア製のGPUだけ。逆に、エヌビディアのGPUを動かすにはCUDAが必要。このソフトとハードの両輪によって、AI半導体メーカーとして無双状態が続いている。
7:無双状態はいつまで続く?
少なくとも数年はAI用半導体でエヌビディアの競争優位が続く可能性が高い。データセンターでのAIの学習ニーズはしばらく縮小せず、対抗馬がほぼいない状態が続きそうだ。しかし、中国のDeepSeek(ディープシーク)が突如、登場して話題をさらったように、AIは進歩のスピードが著しく速い。今後も予想しなかった技術が現れる可能性は残る。
専門家の中では、すぐにエヌビディアの優位性が失われることはないという意見が多い。例えばコンサルティング会社、グロスバーグ代表で半導体アナリストの大山聡氏は、2024年夏ごろまで「エヌビディアの覇権はもって2~3年」と予想していたが、その持論を修正。「当面続く」と見る。

[日経ビジネス電子版 2025年4月1日付の記事を転載]
島津翔(著)、日経BP、1980円(税込み)
