日経文庫『人材マネジメント入門』(守島基博著)は、人材マネジメントの考え方を、獲得、育成、評価などのステップを追って解説しており、2004年の刊行以来、20年にわたって読み続けられているロングセラーです。本書から抜粋、再構成してお届けする連載の第4回は、公正な評価をどのように行うかについて説明します。
評価の正確性をどう確保するのか
人材の評価においてよく議論されることに、評価の公正性などがあります。従業員の立場からみて、評価がきちんとなされているか、ということです。特に、人材マネジメントは評価結果における格差を明確にし、オープンにしていく方向に進んでいるので、公平性を維持する施策はさらに重要になります。
ここで、公正性とは、2つの側面があると考えられます。1つは、人材の評価が正確であるか(正確性)、もう1つは、従業員が結果について納得しているか(納得性)です。2つは独立しており、正確性があっても納得しない場合もあるし、正確でなくても納得する場合もあります。
そこで、まず最初に言っておかなくてはならないのは、評価の正確性については、究極の施策はないということです。人間のやることである以上、どんなに評価基準の開発におカネをかけても、人事考課のための訓練(考課者訓練)をやっても、正確さをあげることはあっても、完全にはなりません。
そこで、もちろんこうしたことも必要なのですが、今、多くの人々が有効だと思っているのが、「複数の目で評価する」施策です。ただし、これは必ずしも、最近はやりの360度評価を意味するのではありません。わが国の場合、人事考課の正確性を高めるために、直接の上司による評価に始まって、評価者が階層を追って上がっていく、多段階評価が行われてきました。
これは、直属上司のバイアスを少なくするという目的のほかに、相対評価において、評価対象の集団の人数を多くする効果もあり、評価結果の正確性を高めることに役立ってきたのです。360度評価は、異なった関係者からの評価を集めるということで、同様に正確性を高める効果をもつと考えられます。
過程の公平性
次に、被評価者の納得性を高めるために考えるべき点が、いわゆる過程の公平性です。過程の公平性(手続きの公平性と呼ばれることもあります)とは、評価のように、結果が不平等になることがわかっている場合に、その評価結果に至るまでのプロセスに関する情報をできるだけ多く提供し、さらに、被評価者が異議申し立てをすることのできる機会をできるだけ提供して、評価に関する納得性を高める施策を指します。
具体的には、手続きの公平性は、(1)評価基準の公開、(2)上司による評価結果のフィードバックと理由の説明、(3)従業員が苦情を申し立てるためのメカニズム、からなっています。これには、結果が不平等の場合、それを納得して受け入れるには、その結果が出たプロセスについて、情報が共有されなければならないという前提があります。
実務の世界でも、こうした考え方は、成果主義的な人事の流れともあいまって一般的になっているようです。各種の調査によれば、人事考課基準を公開する企業や、人事考課の結果に関する上司によるフィードバックを施策として導入した企業が半数を超えています。
ただし、働く人の納得性を高めるためには、社内で高く評価される行動基準や評価要素を明確にすることによって、従業員の評価における信憑(しんぴょう)性と納得性を高めることも必要です。したがって、どういう基準で評価されたかを働く人に伝えるだけではなく、評価する人(上司)に、何を会社への貢献として評価すべきかを明確に伝えなくてはなりません。
しかし、多くの企業で情報公開が納得性を高めていないとすれば、それは、公開された評価基準と、実際に上司が評価している基準とに乖離(かいり)があるためです。こうした乖離には、合理的な理由がある場合もありますが、過程の公平性の観点からみると、乖離は従業員の不満や不信の原因となります。
また、過程の公平性は、評価に納得のいかない従業員に申し立ての機会を提供することまでも含んでいます。単に施策を準備すればよい、ということではなく、必然的に起こってくる不満や苦情のマネジメントへの対処を含めて、職場上司のマネジメントスキルが問われる重要なプロセスです。実際、企業のなかで苦情処理や不満への対処を最も頻繁に行っているのは、現場の上司でしょう。そうした意味で、納得性を確保するためには、単に評価を正確に行うだけではなく、人の心のマネジメントが上司の責任となります。
フィードバックは頻繁に行う
評価プロセスの最後は、結果のフィードバックです。フィードバックには、3つの基本があるといわれています。まず第一に、よい結果も悪い結果もフィードバックすることです。よい結果のフィードバック(ポジティブ・フィードバック)は、意欲に結びつきます。このことを、スポーツのコーチングの世界では「自分のことのように喜んであげる」というそうですが、いずれにしても、よいことはよいこととして認めてあげ、一緒に喜んであげることが大切なようです。
もちろん、悪いフィードバック(ネガティブ・フィードバック)も大切です。もし評価が、従業員の行動を変容しより高い目標を達成することを目的とするならば、負のフィードバックのほうが、行動の修正を促すという意味で、学習効果が高いのです。
ただ、正のフィードバックは受けたいが、負のフィードバックは受けたくない。そんな心理は誰でももっています。スーザン・アッシュフォードという経営学者は、能力の高いマネジャーほど自分をマイナスに評価する上司を避けることがうまくなるので企業のなかで成長せず、逆に、負のフィードバックを意図して探すマネジャーは時間をかけてトップパフォーマーになっていくことを確認しました。負のフィードバックの威力は大きいのです。
第二に、低くても高くても、そういう評価になった理由がわかるように説明することが大切です。少し前にも述べたように、評価というのは、企業目的をよりよく達成したり、人が成長するための指針を与えたりする役割をもっています。したがって、従業員がどうしていけばよいかを工夫できるような、「なぜ」に関するフィードバックがなされると、評価の効果があがります。フィードバックを行うのは職場の上司である場合が多いので、評価がうまくいくかどうかには上司の力量が問われます。
第三点は、フィードバックを与える時期です。どんなに適切な結果のフィードバックでも、行動が起こったり結果が出たりしてから時間がたってしまった後の上司の言葉には、何の意味もありません。結果が出たらすぐに伝える。それが基本です。
評価結果のフィードバックを、1年に1回のフィードバック面接で行うことだと思ってはいけません。それはまとまった評価の結果を伝える場ではあっても、部下の行動変革に対応した、上司の目があることを伝える場ではないのです。フィードバックは、頻繁にインフォーマルに伝えることがよいとされています。
評価は現場の人材マネジメント
評価という機能は、目標管理などによって評価基準を設定して、それに基づいて従業員の目標達成プロセスを支援し、さらに、よい、悪いのメリハリのついた評価を行い、その結果を納得させて、次の目標設定につなげる──という一連のプロセスを指します。単に人事考課表に部下の評価を記入する作業だけではないのです。
その際に、もちろん、人事部のサポートや制度的な枠組みはあっても、その主役を演じるのは現場の人材マネジャーである上司なのです。「評価は現場の人材マネジメント」という観点は、そうした背景があって使われる表現です。マネジメントという言葉が、本来は人のマネジメントを指すことを忘れてはならないのです。
20年間売れ続けるロングセラー。勝ち組企業となるためには、全社的視点からの人材活用が必要だ。その答えを提供するのが人材マネジメントだ。本書は、人材マネジメントの考え方を、獲得、育成、評価などのステップを追って解説する。
守島基博著/日本経済新聞出版/913円(税込み)

