「職場で浮いている気がする…」。同じゲームやアニメが好きな上司と部下の仲良しグループ。非公式チャネルの雑談チャットは大盛り上がり、ランチや飲み会も固定メンバー。でも、仲良しグループと共通の趣味がない社員は? 直接的な暴言はないものの、なんとなくの疎外感に悩む社員はついに、社内窓口へ相談することに。複雑化・多層化する現代のハラスメントリスクについて、「何がNGだったのか?」というポイントを、管理職・若手社員・人事部・弁護士などさまざまな立場のメンバーの会話を通して読み解いていきましょう。日経文庫『ハラスメントの予防と対応』(野中高広著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けします。

<ケース概要>
 あるIT企業の開発チームでは、日常的に上司と数名の社員との間で「仲間内ノリ」が続いていました。共通の趣味(特定のゲームやアニメなど)を持つメンバー同士で、チャットアプリの非公式チャネルで盛り上がったり、ランチや飲み会も固定メンバーで行われたりすることが多く、業務時間中にもその話題で頻繁に雑談が交わされていました。そういったなか、異なる趣味を持つ若手社員Xが疎外感を覚え、「同僚に話しかけても相手にしてもらえず、浮いている気がする」「疎外感のような悩みについては誰にも相談しづらい」と感じるようになりました。社員Xは徐々に会話に加わることができなくなり、業務連絡も最小限のことしか伝えてもらえない状況になっていきました。

 ある日、社員Xが社内の相談窓口に、「職場内の空気が閉鎖的で、排除されているように感じる」と報告・相談し、人事部門が対応することになり、チーム全体でのハラスメントに関する議論が求められることとなりました。

「内輪ノリ」が職場内での疎外感に

 今回のケースの対応に必要だった視点とは、どのようなものでしょうか。管理職・若手社員・人事部・弁護士などさまざまな立場のメンバーの対話を通して探ってみましょう。

野中弁護士 今回は、チームメンバーから直接的な暴言や圧力があったわけではないものの、「ノリの共有」がある種の排他性を生んでしまったケースです。これまでのケース(連載 第1回 第2回 第3回 )では、言動そのものに問題があるタイプのハラスメントでしたが、今回は「何かを言わないこと」「接点を持たないこと」が、結果として疎外感・孤立感を生んでいます。皆さんのお考えを聞かせてください。

管理職A 以前、チーム内の親しいメンバーとだけでよく昼食に行っていたのですが、そのランチには参加しづらいと感じていた部下がいたことを後から知りました。まったく悪気はなかったのですが、その部下には「輪の外」にいるような印象を与えてしまいました。

若手社員B 共通の趣味の話題で盛り上がること自体は自然なことですが、業務のやりとりまで、その「ノリ」に左右されると、合わない人にとってはやりにくくなると思います。「あのメンバーに入っていないと情報が回ってこない」という状況は望ましくありません。

人事部員C Xさんが「ソフトな排除」をされている状態ともいえます。このような排除状態が続いて、Xさんにとって業務遂行に支障が生じているのであれば、「人間関係からの切り離し」というパワハラの一類型にも近いと思います。加害の自覚がまったくないまま、学生の仲間内のような感覚で、周囲がそういう状態を継続してしまうのも厄介な点です。

非公式チャネルに情報が偏らない配慮を

野中弁護士 疎外感、孤立感を与えるような空気については、チーム内でどのように対処していくのがよいでしょうか? チームワークによる業務成果を上げ、業務上の支障を防ぐためにも、管理職としてはどのように対応すべきですか?

管理職A 公私の区別を意識することがまずは大切だと思います。共通の趣味などがある場合に雑談も大切ですし、円滑なコミュニケーションの手段の一つではあります。ただ、業務連絡は誰に対しても公平に伝える、非公式なチャネルに偏らず公式チャットでも情報を共有するなど、基本を徹底するのが大切だと思います。疎外感や孤立感を感じている社員がいないか、管理職が丁寧に目配りすることも必要です。

若手社員B 共通の趣味でしかつながれない空気感が職場にできていると、その趣味を持っていないなど、疎外される側はきつい心理状態になります。上手に合わせられる人もいるかとは思いますが、器用な人ばかりではありません。ランチや飲み会を含めて、誰でも参加しやすい雰囲気づくりがあれば、状況は違ってくると思います。若手の自分でもなんとかしたいと思いますが、チームのリーダーが果たす役割は大きいといえます。

人事部員C 企業としても、「コミュニケーションの自由」と「職場の公平性」とのバランスの上手なとり方が問われます。職場内の「内輪ノリ」がもたらす影響について、研修でもしっかり扱っていくべきと改めて思いました。

野中弁護士 無意識の仲間内の言動が「誰かを排除しているかもしれない」といった配慮の行き届いた視点を持つことが、健全なチームづくりにとって必要です。ITの進展とともに複雑化した現代の職場では、このことを再認識しておくことが大事かと思います。

<今回のケースを考えるポイント>
  • 仲間内のノリが、職場における排他性や情報格差を生むリスクがある。チームビルディングには、誰もが安心していられる、偏りのない空気感が不可欠。
  • 加害の自覚がないハラスメントリスクについても留意する必要がある。「直接の暴言がないから大丈夫」というわけではない。
  • 業務連絡は、誰に対しても公平・公式なチャネルでの共有を徹底する。
  • 管理職は、誰にとっても参加しやすい場づくりを意識し、疎外感、孤立感を与えないマネジメントを実践する。
積極的な加害の意思がない場合、ハラスメントの芽に気づくことは難しい。共通の話題で盛り上がるのは決して悪いことではないが、「内輪ノリ」が職場内での情報格差や疎外感を生じさせていないか気を配りたい(写真:metamorworks/stock.adobe.com)
積極的な加害の意思がない場合、ハラスメントの芽に気づくことは難しい。共通の話題で盛り上がるのは決して悪いことではないが、「内輪ノリ」が職場内での情報格差や疎外感を生じさせていないか気を配りたい(写真:metamorworks/stock.adobe.com)
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野中高広著/日本経済新聞出版/1210円(税込み)