その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は黒沼悦郎さんの『 公開会社法入門 』です。「はしがき」をお届けします。
【はしがき】
本書は公開会社法の入門書として書かれた。公開会社は大規模で株主が分散している企業であるが、そのような企業で働いている人だけでなく、公開会社を含む企業グループの構成企業やそれらの企業を取引相手とする事業に従事している人を含めて、日々の業務のなかで公開会社に対する法的規制に関心を持つにいたったビジネスパーソンを読者として想定している。また、会社法を履修した学部学生やロースクール生で、さらに学習を深めたいと考えている読者にとっても大いに参考になる内容を含んでいる。
公開会社の組織や行動には、会社法、金融商品取引法が適用されるほか、近時は、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コード、公正M&A指針、企業買収指針などのソフトローも適用され、公開会社がどうあるべきか、どう行動すべきかは、ますます複雑で難しい問題となっている。本書は、ソフトローを含めた法的規範の全体像を読者に分かりやすく説明し、独立社外取締役の任用、機関投資家との対話、M&A(企業買収)への対応、証券取引所による上場制度の改革や上場企業への要請など、現代日本の企業が直面している課題を明らかにし、その一部について解決の方向性を示している。本書の特色は次の4点にある。
第1に、会社法との関係に留意しつつ金融商品取引法の規制を詳しく解説している。これは、筆者が長年、金融商品取引法の研究に従事してきたことから可能になったと自負している。
第2に、上述のようにソフトローの解説に注力した。とくにコーポレートガバナンス・コードの主要な原則については、内容を紹介して分析を行い、また機関投資家による具体的な議決権行使基準についても紹介している。後者には、資産運用会社の社外取締役としての筆者の経験もいくぶん寄与したと思っている。
第3に、公開会社に関する裁判例を数多く取り上げ、具体的な事案に法がどのように適用され、どのような議論があるのかを示した。著者はかねがね、読者に「生きた法」を提示したいと思っていたが、公開会社・上場会社に関する裁判例が増えてきたことから、このことが可能になった。
第4として、本書は最新の実務や学説を紹介する一方、単著の長所を生かして、現行制度や判例に対する著者の率直な意見、疑問等を盛り込んでいる。こうした著者の指摘を受け、読者がより踏み込んで法的思考を巡らせてくれることを期待している。
本書の叙述にあたっては、読み物のように、最初から順に読むことによって理解できるように心がけた。いいかえると、本書の内容はだんだんと難しくなっていき、第13章がそのピークとなる。読者が第13章の内容を理解できれば、本書全体を理解してもらえたことになり、筆者の願いは叶う。また、[アイコン]を付した箇所は、そこで読者に立ち止まって考えてもらいたいと思って付した。答えが容易でない問いかけもあるが、すこし考えてから読み進めてもらいたい。
なお、本書では、重要な用語について英文の略称や訳語を示している。それらは実際に企業実務で使われているものであり、若い読者に知っておいてもらいたいと思って挿入した。
本書の執筆に際しても、日経BPの渡辺一氏に大変お世話になった。執筆が遅れたことで、M&Aに関する最新の実務や判例を挿入することができたという怪我の功名もあったが、氏の的確なアドバイスや励ましが本書の内容を充実させ、公開会社法の名にふさわしいものにしてくれたと思う。この場を借りて深く感謝申し上げる。
2025年12月
黒沼悦郎
【目次】




