その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は名和高司さんの 『稲盛と永守 京都発カリスマ経営の本質』 です。



【はじめに】

 「現代日本を代表する経営者は?」と聞かれれば、誰を思い浮かべるだろうか?
 おそらく真っ先に挙がるのが、稲盛和夫だろう。京セラをゼロから立ち上げ、KDDIを超優良企業に育て上げ、日本航空(JAL)を破綻から救った経営手腕は、世界遺産級である。事実、稲盛の経営哲学は、中国をはじめ、世界中に信奉者が広がっている。かつての松下幸之助と同様、「経営の神様」の名をほしいままにしている。
 では、その次に挙がるのは誰か? 日本電産の永守重信、ファーストリテイリングの柳井正、そしてソフトバンクグループの孫正義の3人の名前が挙がりそうだ。10X(1ケタアップ)の非連続成長を実践してきた経営者たちである。
 もっとも、孫正義は経営者というより稀代の投資家と呼ぶべきかもしれない。だとすれば、永守と柳井が有力候補として並ぶだろう。どちらも世の中の常識に妥協しないため、日本では変人扱いされることが多い。しかし、業績成長率とサステナビリティを判断基準とする『ハーバード・ビジネス・レビュー』の世界CEO(最高経営責任者)トップ100において、毎年リストアップされ続ける数少ない日本人経営者である。
 本書では、このうち稲盛和夫と永守重信を取り上げる。二人とも、京都をホームベースとしつつグローバルに活躍していること、B2B企業として世界トップシェア事業を数多くもっていること、未来創造に向けて自社にとどまらず幅広く種まきをしてきたことなど、数々の共通点があるからだ。
 たとえば、二人とも思いを「言語化」するパワーが抜群だ。しかも、単に教科書的にまとめるのではなく、自分ならではの言葉で生き生きと表現することに長けている。だから人の心を揺さぶるのである。これは、松下幸之助、スティーブ・ジョブズ、柳井正など、古今東西を問わず、名経営者に共通の才能でもあろう。
 稲盛と永守はこの言語化力を、独自の経営哲学と経営手法に結実させている。稲盛の場合は「フィロソフィ」と「アメーバ経営」。永守の場合は「3大精神」と「3大経営手法」。それぞれの内容については、後の章で詳しく言及することにしたい。
 ただ、それらの中身をよく知れば知るほど、両者の経営モデルの本質がぴたりと重なり合うことに驚かされる。そこで本書では、両者の経営モデルを「盛守経営」と呼ぶことにする。
 盛守経営には、以下の3つの共通点がある。
 第一に、「志(パーパス)」から出発していること。稲盛はこれを大義と呼び、永守は夢(ドリーム)と呼ぶ。このような志にもとづく経営を、筆者は「志本経営(パーパシズム)」と呼んでいる。
 第二に、30年先、50年先といった長期目標を立てるとともに、短期的に結果を出すことにこだわり続けること。筆者はこれを「遠近複眼経営」と呼んでいる。
 第三に、人の心に火をつけること。稲盛は能力を未来進行形でとらえよと語り、永守はIQよりEQが大切と説く。そして二人が異口同音に強調するのが「情熱・熱意・執念」のパワーだ。筆者はこれを「学習優位の経営」と呼んでいる。
 これら3要素から構成される経営モデルを、本書では「MORI」モデルとして論じる。MはMindful(志を大切にする)、OとRはObjective-driven & Results-oriented(目標と結果にこだわる)、IはInspire!(人を動かす)の略だ。

 盛守経営は、コロナ後の新たな世界を拓く経営でもある。
 今、世の中ではSDGs旋風が吹き荒れている。持続可能な社会に向けた国連お墨付きのアジェンダであり、中身は結構な言葉が並んでいる。しかし、それは所詮、2030年に向けたゴールにすぎない。しかも、丸腰で取り組めばコストと投資がかかり、企業の利益を蝕む。それでは、コロナ禍で打撃を受けた自社の持続可能性が危うくなってしまう。
 そこで筆者は、2050年に向けた「新SDGs」を提唱している。
 Sはサステナビリティだ。ただし、今のSDGsに示された17枚のカードの先、すなわち18枚目のカードを各企業ならではの思いを込めて掲げることが求められる。
 Dはデジタルだ。昨今、デジタル・トランスフォーメーション(DX)が一大ブームとなっている。しかしデジタルは、今やどこにでもあるツールにすぎない。重要なのはX(トランスフォーメーション)、すなわちデジタルを使って経営をいかに変革(トランスフォーム)するかにある。
 Gはグローバルズだ。コロナ禍や米中摩擦などで世界は分断されつつある。しかし地球全体の持続的な成長のためには、これら多極化された世界を再結合していかなければならない。
 この「新SDGs」の切り口で見たときに、盛守経営はきわめて先進的なモデルである。京セラも日本電産も、創業以来、グリーン革命やデジタル革命の最前線に立ってきた。また世界規模で「なくてはならない」存在となっており、なかんずく中国を1つの極として世界につなぐ重要な役割を担っている。
 そして「新SDGs」の心臓部に位置するのが「志(パーパス)」だ。それは、まさに盛守経営の原点でもある。盛守経営は21世紀型経営のあるべき姿を示しているといえよう。

 本書は、大きく2部構成となっている。
 第Ⅰ部では、稲盛と永守のリーダーとしての横顔に焦点を当てる。二人のキャリアやリーダーシップスタイルの特徴、なかんずく、それらの共通点をあぶりだす。
 第Ⅱ部では、稲盛経営と永守経営の本質に迫る。そして両者の共通点を前述したMORIモデルに沿って検証する。終章では、この盛守経営が目指す未来の姿を、「新SDGs」というフレームワークに沿って論じる。
 なお、本書の登場人物は、筆者が尊敬してやまない方々ばかりだが、紙面の都合上、敬称を略させていただくことをご容赦いただきたい。
 コロナ後の世界は、持続可能な社会に向けた新たなパラダイムを求めている。稲盛の「利他の心」、永守の「人を動かす経営」は、そのような未来を拓く経営モデルの有力な手掛かりとなるのではないだろうか。
 稲盛と永守が示す「志本経営(パーパシズム)」の本質を、世界に高らかに示すことができれば、新常態(ニューノーマル)の扉を日本企業が自らの手で開くことができるはずだ。一人でも多くの日本人がそのような可能性に気づき、高い志を掲げ、実践し、世界に発信していかれることを、心から期待したい。

2021年7月 京都・嵐山にて
名和高司

【目次】

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