その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は片山善博さんの『 管理職になる前に知っておきたかった50のこと 』。「まえがき」をお届けします。
【まえがき】
皆さんに質問です。
あなたは管理職になりたいですか?
それとも、管理職になりたいと思わないでしょうか。
この本を手にしているということは、あなたは「管理職になった」あるいは「管理職への昇進を打診された」または「将来、管理職になることを考えている」といった状況にあるのだと思います。
ここで、自分の気持ちと向き合ってみてください。
私は現在、大学で教授をしているので、「管理職」というイメージはあまりないかもしれません。しかし実のところ、自治省(総務省の前身)に入省後、大蔵省(財務省の前身)に出向し、27歳で税務署長として30人以上のマネジメントを担い、その後、官庁の様々な部署でずっと管理職として勤務してきました。一番多いときで約200人、少なくても30~40人の部下を見ていたのです。1999年4月に鳥取県知事選挙に当選してからは、知事として県庁職員約3700人を率い、総務大臣時代も総務省職員約5000人の長として働きました。その後も大企業の社外取締役を務めました。知事や大臣、役員などは厳密には管理職ではありませんが、集団を率いる役割を「管理職」と言わせてもらえば、社会に出てから、大学教授時代以外の約30年間は、「管理職人生だった」と言っても過言でありません。この本では30年以上の管理職経験から導き出した、個の力を引き出す最強のチーム術について、できるだけ具体的に話していきます。
さて、ここで厚生労働省(以下、厚労省)の報告(*)を見てみたいと思います。これによると、役職に就いていない職員や係長・主任相当の職員のうち、「管理職以上(役員含む)に昇進したい」と回答した人は38.9%。「管理職に昇進したいと思わない」と回答した人は61.1%でした(2018年調査。男性7335人、女性5014人が回答)。
もう1つ紹介したいのが、パーソル総合研究所「働く10000人の就業・成長定点調査」です。これによると「現在の会社で管理職になりたい」と回答した男性の割合が、21年の29.5%から24年の20.4%に、約10%減少していることが分かります。このことから、男性の中にも管理職に対して後ろ向きな人が増えている傾向がうかがえます。最近では「管理職は罰ゲーム」と言われることもありますね。
管理職昇格に前向きな人にも、そうでない人にも、私は「管理職という仕事は、まずやってみるしかないよ」と伝えたいと思います。どんな人にも「管理職になったら大変になるのではないかな」というためらいが多少あるかもしれませんが、「やってみたら、心配しているより意外に楽しく働けるはずですよ」と言いたいのです。
前述の厚労省調査で「管理職への昇進を望まない理由」(上位5つの複数回答)として、1番多く挙げられたのは「責任が重くなる」(71.3%)、2番目が「業務量が増え、長時間労働になる」(65.8%)、3番目が「現在の職務内容で働き続けたい」と「部下を管理・指導できる自信がない」(同率57.7%)でした。
これも分かるような気がします。最近は残業規制が厳しくなり、チームの仕事時間を管理する業務が大変になっています。特に運輸や建設は規制が厳しくなっていますよね。また、パワハラの問題も大きく、管理職にしてみれば意図せずパワハラと言われてしまうこともあるでしょう。このように様々な側面から、一般的に、管理職の苦労は増えていると思います。こうした様子を見て、「管理職の仕事は苦労が多そうだ。あまり気が進まないな」と消極的になる可能性はあるでしょう。
でも、実際に社会や会社を動かしていくためには、管理職の仕事は必要です。誰かがこの問題を突破しなければいけません。あなたが管理職になったときには、「職場の問題にポジティブにコミットして解決するんだ」という意欲をぜひ持ってもらいたいなと思います。自分が管理職になれば、チームが行う業務を合理化して生産性を上げたり、一人ひとりが働きやすい環境を自分の手でつくり上げたりすることも可能になるのです。
とはいえ、課長として働き始めると「いやだな」と感じるような経験をするかもしれません。でもそれをトレーニングの期間と捉えることもできます。「これはおかしい」「理不尽だ」「この仕事は要らないよな」と思い当たることが出てきたら、「この課題をいつか改善しよう」という思いに変えて心の中で温めておき、自分が部長になったときに順次改善していけばいいんです。すると、自分の後に続く課長ものびのび仕事をしやすくなり、企業や組織としてのパワーが増して、業績は上がるでしょう。こうした仕事ができれば、大きなやりがいや達成感を得られるはずです。
中には自分が苦労したからといって、「私は若い頃は苦労したのだから、君たちも苦労すべきだ」「何を甘えたことを言っているんだ」などと言う人もいますが、こうなると悪循環が生まれます。あなたにはそうした悪循環をつくる管理職ではなく、現状を変え、好循環を生み出す管理職になってほしいです。
前述の厚労省調査で、管理職になりたくない理由の1位に挙げられた「責任が重くなる」はうなずける面もあります。近頃、人々が責任を負いたくないと思う風潮が強まっているように私も感じます。「責任を追及されるポストに就きたくない」と考える傾向は、若手に限らず、中高年の間でも強まっているのではないでしょうか。
でも、理由の2番目に挙げられた「業務量が増え、長時間労働になる」は、仕事のやり方次第で解消できるのではないかと思います。
私は「管理職を長年経験できてよかった」と断言します。組織を改善し、職場環境をよくした結果、組織の機能性や体力を増強できた実感があるからです。管理職になる前から「業務量を削減したら、みんなもっと働きやすくなるだろう」と感じていて、その思いを管理職になって実行に移し、チームメンバーの業務量を削減し、部下に喜んでもらえましたし、それによって自分の業務が増えることもありませんでした。
こんなふうに、管理職になれば、仕事のやり方を変えるなど、職場の課題を直接解決する権限を手に入れられます。ですから、「管理職になったら業務量が増え、長時間労働になるかもしれない」という不安は、ある意味で間違っているとも言えるのです。これについては、本編の57〜63ページ、125〜128ページで詳しく触れます。
理由3番目の「現在の職務内容で働き続けたい」に関しては、確かに新しい仕事にゼロから挑戦するという意味では、おっくうな面もあるでしょう。でも、ポジティブな面を見れば、新しいスキルを身に付けて新しいネットワークをつくるチャンスだともいえます。
もう1つの3番目の理由である「部下を管理・指導できる自信がない」は、どうでしょうか。仕事でいきなり何十人もの部下を持つことは、あまりないと思います。まずは2~3人や4~5人といった少数のメンバーをまとめて仕事をする機会があり、その後、さらに大きな組織のリーダーになるのが一般的なキャリアの歩み方ではないでしょうか。最初のリーダー経験である、少数メンバーのリーダー職を務める中で、人をまとめる経験は積めると思います。私自身、最初は3~4人のチームをまとめる係長になり、そのときの経験が後になって随分生きました。
人を束ねる仕事は、最初は不安かもしれません。でも、慣れてしまえば、そんなに苦ではなくなります。チャレンジすれば乗り越えられることのほうが多いはずです。
この本の第1章では、日経クロスウーマンが行った調査に基づき、男女合わせて約3000人の現役管理職と管理職経験者に聞いた「これから管理職になる人へ 大事にしてほしい27のこと」を数が多かった順に紹介していきます。興味深いことに、多くの人が同じことを言っているんですね。読むと「確かにそうだよな」と私が同意するものも多くありました。一方で、同意できないものもあったため、これは27のうちに数えず、別コラムで解説します。現役管理職や管理職経験者からのアドバイスに、私からのアドバイスや解説を付け加えます。
なお、参考までに、私がこの27のアドバイスを読んで直観的に優先順位を考え、高いものから順に5つ挙げるとしたら、1番目が「楽しむ」、2番目が「健康第一、プライベートも大切にする」、3番目が「部下を育てる」、4番目が「感情的にならない」、5番目が「部下との対話を重視する」です。次元の違う話が並んでいますから、厳密に順位付けするのは難しいですが、あえて言うならこの順番になります。
第2章では私の実体験として、ケースを2つ紹介します。また、そこから抽出した、管理職の仕事を進める際のポイント合計17個を順を追って説明します。
最後のまとめでは、第2章までに伝えきれなかった大事な内容を記しました。「私が思う『管理職としてすべき仕事』」も6つ記載します。こうして本書で紹介する管理職のポイントを全部数えると合計50個です。これを初めからすべて身に付ける必要はありません。私も少しずつできるようになっていきました。皆さんも自分に合っていると思う項目を見つけて、時間をかけて、身に付けていってみてください。
さらに、巻末付録として、現役管理職と管理職経験者がアンケートで語った「管理職になる前に知っておきたかったこと、身に付けておきたかったこと」「管理職になってよかったこと」を紹介します。実際の管理職ならではの視点がたくさん見られます。きっとあなたの参考になる情報が見つかるはずです。
【目次】


