その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はバーバラ・ウィクサム、シンシア・M・ビース、レスリー・オーウェンス(著)、天野秀俊(訳)の『 全社でデータを活かす技術 データマネタイゼーションの成功法則 』。「訳者まえがき」と「原著まえがき」をお届けします。

【訳者まえがき】

 このたび、Data Is Everybody's Business:The Fundamentals of Data Monetization(Barbara H.Wixom,Cynthia M.Beath,and Leslie Owens,The MIT Press,2023)の日本語版を皆さまにお届けできることを光栄に思います。本書は、データが現代ビジネスにおいて重要な資産であり、データを活用することで既存事業の売り上げ拡大やコスト削減、または新規ビジネスの創発を実現する可能性を秘めており、組織全体の成功を左右することを説いています。

 デジタル化が急速に進む現代社会において、データをいかに理解し、活用するかが、企業の競争力を決する時代が到来しています。本書はそのような状況を深く掘り下げ、タイトルにある「全社でデータを活かす技術:データマネタイゼーションの成功法則」の必要性と、その実現のための考え方や手法を明快に解説しています。

 私が本書の翻訳を手がけることを決意した背景には、昨今データの重要性が急速に高まる一方で、多くの企業においてデータの活用がデータサイエンティストやDX部門、新規ビジネス部門など一部の専門家や部門に限定されている現状への問題意識があります。しかし、データが企業全体で共有され、その価値が最大限に引き出されて収益性の向上や新規ビジネスを創発させるためには、すべてのビジネスパーソンがデータリテラシーを身につけ、データを活用できる環境を整えることが必要不可欠です。

 本書の著者たちは、データの専門家だけでなく、組織の全員がデータを理解し活用することで、組織全体のパフォーマンスが向上することを強調しています。データが組織全体でどのように活用されるべきか、またそのためにどのような教育やインフラが必要かについて、本書は具体的かつ実践的なガイドラインを提供しています。

 「全社でデータを活かす」ためには、まずは経営層がその価値を認識し、組織の全員がデータを活用したビジネスの検討ができるようなリテラシーを身につける(データリテラシーの向上)活動を推進することが不可欠です。本書では、経営層がどのようにしてデータドリブンの文化を醸成し、組織全体に広げることができるかを詳しく説明しています。日本の企業においても、このような全社的な取り組みが求められており、本書がその一助となることを期待しています。

 また、データリテラシーを広めるための具体的な方法論として、データを活用するためのインフラ整備が紹介されています。この手法は、専門知識を持たない従業員でもデータを扱えるようにするためのものであり、日本の企業においても非常に参考になる内容です。特に、データにもとづいた意思決定が日常的に行われるような環境を整えることが、今後のビジネスにおいて重要な課題となるでしょう。

 さらに、データの活用がもたらす具体的なメリットや、成功事例も多く紹介されています。実際のビジネスシーンにおいてどのようにデータを活用すれば効果的かを具体的に示しています。本書を通じて、こうした事例を参考にしながら、各企業が自社に適したデータ活用の方法を模索し、実践することを期待しています。

 われわれが翻訳作業を進めるなかで、改めて実感したことは、データが持つ力の大きさです。データは単なる数字や文字の集まりではなく、適切に分析・活用することで、ビジネスの拡大や競争力の向上に大きく寄与するものです。本書が提示する考え方や方法論は、すべてのビジネスパーソンがデータを扱えるようになるための道標となるはずです。そして、それが企業全体の成功につながるという著者のメッセージは、日本のビジネスパーソンにおいても有用な教訓であると感じています。

 最後に、本書日本語版の出版にあたり、多くの方々のご支援とご協力を賜りましたことについて心より感謝申し上げます。日経BP日経BOOKSユニットの田口恒雄氏をはじめ、出版に関わってくださったすべての方々に、この場を借りて深く御礼申し上げます。また、本書の翻訳はクニエの新規事業戦略チームが担い、代表として天野を訳者として記載しております。巻末にチームのメンバーも紹介しています。

 本書を手に取ってくださった読者の皆さまが、データをより深く理解し、その力を最大限に活用することで、ビジネスにおける成功を手にされることを心から願っております。

 Data Is Everybody's Businessの神髄である「全社でデータを活かす」という考え方が、日本のビジネス界における企業の競争力向上に寄与することを祈念しております。

株式会社クニエ 新規事業戦略チーム
天野秀俊

天野秀俊(あまの・ひでとし)
株式会社クニエ 新規事業戦略チーム シニアマネージャー
外資系コンサルティングファームへ入社し、製造業のサプライチェーンマネジメントを主軸とした数々のDXコンサルティングに従事。2009年よりクニエにて、通信・製造/流通・ヘルスケア・農業・教育等の様々な業界における新規ビジネス企画に従事。2021年にデータマネタイゼーション専門部隊を立ち上げ、コンサルティングサービスの提供、講演を多数実施。

【原著まえがき】

 マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン情報システム研究センター(MIT CISR)の主任研究員に着任したバーバラ・ウィクサム(愛称「バーブ」)教授が、データ研究を率いるリーダーとして自身の研究に対しての意見やアドバイスを得るべく、世界各国のデータ分野の権威などの有識者からなる諮問委員会の設置を提唱した。そのメンバーが私たちだ。さまざまな組織に所属するデータ分野の専門家で、研究に加わって研究の優先順位を設定したり、研究から得られる洞察を吟味したりできる人材を彼女は求めていた。私たちに任された役目は、MIT CISRのデータ研究が常に適切で先鋭的かつ応用的なものになるようサポートすることだ。

 私たちは、チャットのやり取りだけでなく、MITのキャンパスに赴いたり、経営層向けの教育イベントやオンラインミーティングに参加したりして、データに対する情熱を共有してきた。こうしたやり取りの甲斐もあり、バーブや、MIT CISRで彼女の共同研究者を務めるシンシアやレスリーとも知り合うことができ、互いに信頼を深めることができた。この交流は、データ分野の研究について新しいアイデアや方向性を生み出している。たとえば、あるメンバーが何かとても珍しいことをやっていると、チームが一丸となってその内容を調査したり、吟味したりしてくれるため、新しいインサイト(洞察)が生まれることがある。そして、成功に役立ちそうなアプローチが見つかった場合は、その取り組みをケーススタディとしてまとめるという流れだ。

 2021年第1四半期、バーブは「Inspiring Hearts and Minds(心にインスピレーションを)」と銘打ったオンラインのミーティングをスタートさせた。そして、私たちに次のように問いかけた。「私たちがこの分野に足を踏み入れた頃と今とでは、なぜデータ分野を取り巻く様相が違うのか? その違いに対して、データ分野のリーダーである私たちは何をすべきなのか?」その問いに対して、彼女は、データ分野のリーダーたちは周囲に対してもっと熱心にデータの重要性を説くべきだと考えた。というのも、私たちデータ分野のリーダーが組織のデータアセットに対する責任をあまりにも一手に負いすぎていると考えていたからだ。また、説得力のあるコミュニケーションを図るためにも、データ分野のリーダーは誰でも理解できるような、シンプルかつ日常的なビジネス用語を使う必要もあると考えた。私たちもそう感じており、これには同感だった。

 その後の会話で、データは大多数の人にとって期待されるアセット(資産)となるべきであり、それには忍耐やコミットメント、そして人材と新しい働き方への継続的な投資が必要ということで意見が一致した。そして、この流れに勢いをつけるためには、さまざまな部署や領域、経験、役職の多様な視点を持つ人びとの関与が必要である、となった。

 この点では、データに価値があることを説得するよりも、部門レベルのような個別の取り組みから全社的なケイパビリティ構築の取り組みへの移行を後押しするべきだ。なぜなら、(一部の人やIT部門の責任ではなく)すべての従業員がデータを自分たちの裁量で扱うことができる場合には、つまりは全社的なケイパビリティが得られると、イノベーションの機会が一段と見つかりやすくなることがわかったためだ。そこで、データ分野のリーダーとして私たちは、信頼できるデータアセットの創出や共有、そしてデータリテラシー・プログラムをリードすることに注力する必要がある。その結果として、多くの仲間がデータを活用して業務や製品を改善できるようになることを目指している。

 チームメンバーの多くはMIT CISRの研究成果をすでに各自の組織で役立てているため、そのメリットを挙げることができる。そして今、研究成果を一冊の本に集約し、すべての人に魅力的な形で提供できることを嬉しく思う。私たちは、この本を各自の組織全体に配布して内容を議論し、使いやすいフレームワークを活用して周りを育てることにより、次のことに携わってもらうことを期待している。

  • データアセットの構築
  • データにもとづいた斬新な業務方法や顧客体験の創出
  • データについての学習、およびデータに関する知識の共有

 私たちは、第一線で働く従業員から管理職、役員に至るまで企業全体がひとつにまとまり、データは誰もが向き合うべきアセットであるという考え方を受け入れてくれるよう願っている。本書はすべての人のためにある。

MIT CISRデータ研究諮問委員会メンバー


【目次】

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