その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は岩崎邦彦さんの『 小さな会社を強くするマーケティング思考 』です。「プロローグ」をお届けします。
【プロローグ】
小規模は「弱さ」か、それとも「強さ」か
「規模が小さいから、 」
あなたは、この文章の空欄にどちらの言葉を入れるだろうか。
「弱い」? それとも「強い」?
実際に、全国の中小企業経営者1000人に尋ねてみた。選択肢は「とても弱い」から「とても強い」までの6段階。この回答と企業業績の関係を分析すると、極めて明瞭な関係が浮かび上がってきた。
それは、「規模が小さいから強い」と考える経営者ほど、業績注1が良いということである。
この結果から示唆されることは、何だろうか。
小さな会社が強くなるためには、「小さいから弱い」という思い込みではなく、「小さいからこそ強い」という逆転の発想が必要だということである。
「人材が少ない」
「設備が足りない」
「資金力が乏しい」
……だから、厳しい。
中小企業の経営者から、このような声をよく耳にする。しかし、それこそが小さな会社(スモールビジネス)の本質ではないか。ヒト・モノ・カネといった資源が限られているからこそ、スモールビジネスと呼ばれるのである。
スモールビジネスには、資源の制約を「チカラ」に変えるという発想転換が必要だ。制約があるからこそ、“小さな会社ならでは”の強みが生まれる。
現代は、必ずしも「小さい=弱い」という時代ではない。小さな会社には、規模が“小さいからこそ”、果たすべき独自の役割があるはずだ。
小企業は、大企業の縮小版ではない。
規模を追わないマーケティング論
本書で展開するのは、規模を追わないマーケティング論である。
地域の企業の99%以上が中小企業であり、その大部分が小規模企業だ。地域が元気になるためには、スモールビジネスが元気になる必要がある。
筆者は、「マーケティングで地域の元気に貢献したい」との思いを軸に、中小企業や地域に関わるマーケティング課題の研究を続けてきた。スモールビジネスのマーケティング研究はライフワークといっても過言ではない。
本書には、これまでの調査研究から得られたエッセンスを集約している。加えて、本書の執筆にあたっては、以下の調査を新たに実施した注2。
①全国中小企業経営者1000人調査
調査対象は、全国の中小企業(起業後20年以内、主な顧客は消費者)を経営する1000人注3。
②全国廃業者434人調査
調査対象は、直近20年以内に起業したが、その後、経営不振などを理由に廃業した経営者434人。
③全国消費者1000人調査
調査対象は、全国の消費者1000人、20代~60代以上の男女注4。
「経営者×廃業者×消費者」の3つの視点からアプローチ
本書の議論と提案は、「中小企業経営者」「廃業者(廃業を経験した元経営者)」「消費者」の3者への調査から得られたエビデンスを基盤としている。「小さな会社の成功×小さな会社の廃業×小さな会社が選ばれる理由」という3層から、スモールビジネスを立体的にとらえる視点は、本書の大きな特徴である。
本書では、個別事例に依拠するのではなく、スモールビジネスに共通する傾向やパターンをデータから読み取り、それに基づく考察や提案を行っている。本書で示す定量的な分析結果については、統計分析を通じて差異や関連性の有無を検証し、妥当性を確認したうえで提示している。
こうした多面的な視点とデータに裏付けられた分析は、スモールビジネスに関わる幅広い実践に、応用可能なヒントを与えてくれるはずである。
本書は、主に次のような方々をイメージして執筆している。
- 中小企業の経営者、マーケティング担当者
- 規模拡大による成長に疑問を感じている経営者
- 起業を考えている人
- フリーランスとして活動する人
- 中小企業の支援者(行政・経済団体・金融機関・コンサルタントなど)
- 企業で新事業に携わる人
選ばれるスモールビジネスになるために
いかなるビジネスも、顧客を生み出せなければ成り立たない。
小規模企業の経営課題の第1位は「販路開拓・マーケティング」であり、経営上の問題点の第1位は「売上不振」である(中小企業庁、2024)。
新規開業企業が、現在もっとも苦労しているのは「顧客・販路の開拓」である(日本政策金融公庫総合研究所、2025他)。企業が倒産する原因として、圧倒的に多いのも「販売不振」だ。
スモールビジネスの基本の“き”は、マーケティングにあるといってよいだろう。
では、スモールビジネスが、小規模であることを「チカラ」に変え、顧客を引きつけ、選ばれる会社になるためには、何が必要なのだろうか。
そのための「方向性」「考え方」「やり方」を、できるだけわかりやすく、実践に結びつくような方法で伝えること。それが、本書のメインテーマである。
それではここから、「選ばれるスモールビジネスになるためのマーケティング」について、具体的に検討していくことにしよう。
1 業績は、以下の4つの質問の回答を、因子分析によって集約した因子得点である。詳細は、第5章参照。
「現在の業況」「収益状況(直近1年間)」「営業利益の推移(最近3年間)」「3年後の業績見通し」
2 いずれの調査も、調査の計画、調査票の設計、調査結果の分析は筆者が行った。調査サンプルの収集は、株式会社ネオマーケティングのインターネットリサーチシステムを利用している。調査実施時期は、2024年、2025年である。
3 回答企業の90.4%が従業者数5名以下の小規模企業である。本書では、文脈に応じて「スモールビジネス」「小さな会社」「小さな企業」という言葉を使っているが、いずれも同じ意味合いで用いている。
4 調査対象:全国の消費者1000人。
内訳:20代、30代、40代、50代、60代以上を各20%ずつの均等割付。
性別:男性50%、女性50%の均等割付。
【目次】






