その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は馬場史郎さんの『 SEを極める50の鉄則』(日経文庫) 。「日経文庫版発刊にあたって」と「はじめに」をお届けします。

日経文庫版発刊にあたって

 本書は、顧客から信頼されるしっかりしたSE(システムズエンジニア)、そしてSEマネジャになるために行動すべき事柄をまとめたものである。「迷ったときの判断基準は顧客が51、企業が49」、「独りでぶらっとお客様を訪問する」といった印象的な鉄則が50件、列挙されている。

 どの鉄則も顧客となる企業や団体の幹部や現場担当者との接し方、強いチームの作り方、プロジェクトのコツ、自分や後輩が成長するカギ、などを具体的に説いており、業種業界を問わず、顧客と共に仕事をするすべてのビジネスパーソンに役立つ内容になっている。

 2000年4月に発行された原著は日経コンピュータ誌に1997年10月から連載されたコラムをまとめたもので10万部近く売れた。「後輩に手渡したい」という要望が寄せられ、2019年に新装版が出され、さらに今回、日経文庫の一冊として出版される。

 ロングセラーになったのは実務で役に立つからである。例えば大手金融業のシステム関連会社で役員を務めた元SEはこう振り返る。「SEになった当初、お客様との交渉や設計をいきなり任され、遅れや品質など山積みの問題を乗り切れるのか、自分の設計方針は正しいのか、と日々薄氷を踏む思いだったが、ちょうど連載されていた馬場さんのコラムを拠り所にしてなんとか乗り切れた」。

 読者はSEに限らない。「営業担当者にとっても大変役に立つ」といった感想もいただいた。

 50の鉄則は、長年SEとして数多くの大企業や中小企業を担当し、多数のプロジェクトを経験してきた馬場氏が「自分はこれでいいのか」と日々考え続けた結果をまとめたものだ。馬場氏は、「顧客に頼りにされる存在になり、しかも自社のビジネスに貢献したい。そのためには自身の存在価値をよく考え、技術以外の力も身に付けないといけない」という姿勢で行動し、後輩を指導した。

 本書や連載のもとになったメモがあり、それを馬場氏は1985年のある日、一気に書き上げた。それから40年近く経っているものの、姿勢や行動、考え方に関する内容が大半で、変化が激しい技術そのものにはほとんど触れていないため、本書の内容は現在でも通用する。

 それでも中には「今の時代にあわない」「とても実行できない」と感じる記述があるかもしれない。その場合は「この行動の意図は何か」「どうすればその意図を今日貫けるか」と考え、同僚や先輩と話し合っていただければと思う。それが日本の情報化の発展につながるはずである。

2024年5月

谷島 宣之(『SEを極める50の鉄則』旧版・新装版編集者)

【はじめに】

 情報技術(IT)ベンダーの顧客、すなわち情報システムを利用するユーザー企業は今も昔も、「信じられ、頼りになるプロ魂を持ったSE」を求めている。顧客の身になってシステムの開発や運用を担当し、適切な提案や助言をしてくれるSEである。言い換えれば、顧客の痛みや悩みが分かり、顧客の中に飛び込んで顧客の立場で物事を考えてくれるSEである。もちろん、ITについては顧客より強くなければならない。

 逆に、腰が引けたSEは願い下げだと顧客は考えている。例えば、システムを開発する時にベンダーである自分たちの都合ばかり考える。顧客から言われたこと以外には手を出さないし提案もしない。技術的に難しい点があるとすぐに製品の仕様上の限界だと言う、といった類のSEである。

 今後、「信じられ、頼りになるSE」のニーズはますます強まってくる。オープン化/ネットワーク化が進めば進むほど、情報システムは複雑になり、開発や運用において高度な技術とベンダーコントロール力が要求される。しかし、情報システム部員が100人近くいて、ベンダーをしっかりコントロールできるユーザーは一握りに過ぎない。そもそも、年功序列・ゼネラリスト育成が主流の日本のユーザーでは、ITの専門家を育て難い。

 となると、ほとんどのユーザーでさまざまな問題が起こっても別に不思議ではない。必然的にユーザーはベンダーのSEに頼らざるを得ない。

 一方、IT業界においてもこれまで以上にSEが重要になってきた。ハードの標準化・低価格化が進み、IT業界では人間(SE)の付加価値の重要性が増している。顧客に買ってもらえる付加価値を持つ、いわゆる“売れっ子のSE”がITビジネスをリードする時代になりつつある。

 すなわち、IT業界に身を置くSEは、顧客と自社双方の要請である「顧客に頼りにされるSE」へ挑戦しなければならない。最新のITを追いかけることも必要だが、それだけに喜びを求めるようではいただけない。第一線のSEにとって、顧客の信頼を勝ち取り、ビジネスに強くなることは余分の仕事ではない。プロのビジネスパーソンとしての義務である。「技術はSEの命、SEは技術があればそれで十分だ」と考えるSEの方もあろう。しかし、技術は顧客から信頼されるための必要条件であっても、十分条件とは言えない。

かわいそうなユーザー

 現実のメーカー、ソフト会社、ITコンサルタントの実態はどうだろうか。顧客の立場で物事を考えてシステムの開発やコンサルテーション、サポートができる「SE集団」を持っている企業はどのくらいあるのだろうか。残念ながら実態はかなりお寒いものである。

 筆者は30年近くの間、コンピューターメーカーにおいてSEやSEマネジャとして仕事をした。その後、図らずも約5年間にわたりユーザー企業の情報システム部門で働く機会を得た。そこで、いくつかのプロジェクトを通して、多くのメーカーやソフト会社のSEの方々に、ユーザーの立場で接することができた。さらに多くのユーザーの方々と忌たんのない会話ができた。

 筆者の感想は、「ユーザーはかわいそうだ」の一言に尽きる。頼りになるSEは非常に少ないし、SEとユーザーとの心のかい離が目立つ。もちろん、顧客の身になって考えてくれるSE、ユーザーが安心できる開発計画を提示してくれるSE、新技術を分かりやすく説明してくれるSEがまったくいないわけではない。だが、何か言えばすぐ反論してくるSE、レスポンスタイムも考えないでシステムを設計するSE、ユーザーの利用部門をITの専門家だと錯覚しているSE、ろくな資料も作れないSE、コンサルテーションなどとてもできないくせにコンサルタントを名乗るSE、もいた。

 筆者がユーザーとして、付き合ったSEマネジャやリーダーと称する人々を見わたしても、SEマネジャとして合格点を付けられると思った人は、甘く見てせいぜい3、4割である。リーダークラスでこれだから、SE全体の実情も想像がつく。

 多くのSEマネジャやSEが日ごろ、当然のようにやっていることの中には、顧客の責任者や営業担当者など他のビジネスパーソンから見ると理解できない点が多い。ビジネスに関心を持たない。アプリケーションに興味を示さない。仕事をする時に相手との間にすぐ壁を作る。このように周りの人から見ると、「なぜSEはそうなのか」と疑問に思うことは結構ある。

 もちろん、ほとんどのSEマネジャやSEたちはシステム開発の現場で徹夜も辞さず頑張っている。それでも、SE以外のビジネスパーソンから、「分からん」と言われるようではまずい。心あるSEマネジャやSEは怒るかもしれないが、あえて言えば、“SEの常識”は世間一般から見て非常識な面が多い。このことをSEマネジャやSEは謙虚に認識すべきではなかろうか。

 ビジネスパーソンから見た“SEの常識”(つまり非常識)を表に列挙してみた。SEマネジャやSEの方々は、一つひとつの項目を見て、「自分はどうか」と自己点検してほしい。筆者としては、多くのSEマネジャやSEの方に、「わたしはこの表のような考えは持っていない」と言ってほしい。そうでない方は自分のやり方や考え方を見直すことをお勧めする。SEを部下に持つマネジャの方は「自分の部下はどうか」と言う視点でこの表を見ていただきたい。

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正しいSE観を持て

 “SEの常識”は大きく二つに分けられる。一つはSEマネジャやSEが自分で「こんなことではいけない、直さなければ」と思っていても、忙しいといった理由で手を打てず、結果として習慣となっている類である。もう一つはSE個々人が持つ、「SEはこうだ、こうあるべきだ」という「SE観」による類である。

 前者については各人が自ら改善するか、だれかが厳しく指導するしかない。ややこしいのは、後者である。SE個々人の持っているSE観の問題を自分で気づき、考え方を変えなければならないからだ。

 SE観は、これまでの経験、会社の組織や職務制度などの影響を強く受けて形成される。特に、技術屋はどうしても自分の経験から得たSE観に固執しやすい。その上、会社が決めたSE組織や職務内容などを見て、「会社が決めたSEの仕事はこれだ、これだけをやればよいのだな」と仕事の範囲を狭く解釈しがちである。

 とりわけ強力な営業部隊を社内に持ち、機能別に細分化したSE職種やSE関連部門を持っている大手ITベンダーにこうしたSEが見うけられる。「売るのは営業だ、SEには関係ない」とか、「それは○○グループのSEの仕事で、わたしは関係ない」などと言い放つSEが結構いる。彼らがそう考えるのも分からないでもないが、筆者はそれはお客様や会社を無視した勝手な論理であり、SEの世界でしか通用しない“常識”であると思っている。

 筆者がSEマネジャ時代にこんなことがあった。ある時、部下に「第一線のSEならば業務アプリケーションの常識的な知識が必要だ。君はなぜ、アプリケーションを勉強しないのか」と尋ねた。そのSEは、「わたしはOSのスペシャリストですから」と胸を張った。そこで次のように話した。「OSのスペシャリストはアプリケーションを知らなくてよいとだれが決めたのか。○○社長か△△部長か。君が自分でそう決めているだけではないのか」。すると、そのSEは黙ってしまった。

 自分に都合のいいように腰を引いて自分のやることを決めるのではなく、一人ひとりが企業や顧客にとってSEの存在価値は何かと言う原点に戻って考えるべきである。どんな会社や部門であっても、「SEはビジネス目標を知らなくてよい」、「自分の専門分野だけに専念していればよい」、「SEは顧客の部課長と会ってはならない」、「見やすい資料を作ってはならない」、「製品を売れる力をもってはならない」などと決めているはずがない。

 要は、「何を信じればいいのか」ではなく、「何を信じたいか」という態度で臨むことである。一人ひとりが企業人としてのあり方、企業におけるSEの存在価値、顧客の期待感などに関する原理原則に基づいて考え行動すべきである。そして「会社が決めたことだ」とか「だれが良い・悪い」などと逃げないで自分に何ができるかを考え、それに挑戦すべきである。そうでないとお客様に信頼されないし、社内でもSE以外の職種から頼りにされない。結局は単なる労働力にしか見られない。

 SEの非常識の問題は、SEが技術を偏重しすぎるところに原因がある。SEは「最新システムや製品に強くなりたい」という思いに引っ張られると、ビジネスや顧客の期待、企業人の常識などを軽視してしまう。確かに、SEにとってシステムや製品は面白いし、それに強いと周りのSEに対する優越感も味わえる。ITにさえ強ければ、将来どこででも飯が食えると錯覚するのも仕方がない面がある。

 だからと言って顧客に責任がある第一線のSEがそれで良いわけはない。表に示した項目を、“SEの常識”と言われたのでは、顧客やSEを雇っている企業はたまったものではない。どんなに技術力があっても、顧客とうまく意思疎通がはかれなかったり、アプリケーションが分からなかったりしたのでは、顧客に役立つシステムを作れるはずがない。

 第一線のSEはおかしな常識を捨て、本物の常識を身に付けなければ、顧客はもちろん会社から信頼されない。それには、現在の考え方に固執しないで他の職種や顧客の方々の意見を謙虚に聞いたり批評してもらい、「ビジネス社会の常識」をつかむことである。

信頼されるSEを目指せ

 本書は以上のような問題をかかえるSEやSEマネジャが日頃どのように考え、何をすればよいかについてまとめたものである。内容は、筆者が第一線でSEマネジャをしていた時代の経験に基づく。システムの開発・導入、あるいは販売活動でともに苦労した多くの後輩SEに、SEマネジャとして指導してきた事柄や、折りにふれて話した内容をできる限り具体的に述べたつもりである。

 本書は2部構成になっている。前半は、顧客が求める「信頼されるSE」の基本となる、プロ魂やSEの価値観について述べる。「SEの仕事の目的や物の考え方」、「SE集団(チーム)とSE個々人の在り方」、「顧客に対するスタンス」、「ビジネスや営業に対する姿勢」、「SEのキャリア」などである。

 ぜひSEの方々も、一人ひとりがSEへの期待と問題を自覚し、本書の中で共感できる点があれば参考にしていただきたい。顧客と仕事をする時、経営者・営業と一緒に働く時、SEチームの在り方、SEの自己啓発の仕方などを考える時にきっと役立つと思う。

 SEは自ら変化を起こし、プロ意識を育て、技術力と同様に人間的な側面の能力を向上させ、新しい自分作りに挑戦してもらいたい。そうすれば、経営者や管理職の見る目も違ってくるはずだ。そして必ずや顧客から頼りにされるSEになれ、会社のビジネスも伸びるし、顧客も満足する。ひいては日本の21世紀の情報化に貢献できると筆者は確信している。

 特に若いSEの方々は、本書を通じて第一線のSEの在り方の正しい方向感覚をつかみ、その目標に向かって日ごろの研さんを積み、SEの基本を一つひとつ自分のものにして、先輩を超えるような「信頼されるSE」になってほしい。

SE時代の「思い」を忘れずに

 本書の後半は、SEマネジャに向けたものである。SEマネジャとはSE課長、SEリーダーとも言われるSEを引っ張る管理職を指す。SEマネジャがしっかりしていないと、育つべきSEも育たない。

 読者のSEマネジャの皆さんは、第一線のSEをしていた若いころのことをよく覚えているはずである。なにげない時にSEマネジャに声をかけられて、「よし頑張ろう」と思ったこと、カットオーバーの時にマネジャから「よく頑張ったなあ」と言われてうれしかったこと、仕事上で適切なアドバイスをもらって感謝したこと、いろいろな「喜び」を感じたことと思う。

 逆に「SEマネジャは俺の仕事を分かってくれているのか」、「俺が担当しているプロジェクトや顧客をマネジャはどの程度知っているのか」、「なぜマネジャは上司や営業担当者の言いなりなのか」、「何を考えているのか分からない」、などSEマネジャに関して、さまざまな「イヤな思い」を感じられたこともあるだろう。

 SEマネジャたるもの、自分がSEの時代に喜んだこと、うれしかったことをどんどん部下のSEに対して実践しなければならない。逆に部下がイヤな思いをするような言動は慎むべきである。

 SEマネジャが自分のSE時代の思いを忘れずに部下に接することができれば、部下や顧客から信頼され、部下も育つ。そのSEマネジャは必ず、先輩を超えるSEマネジャになれる。こうしたことが何代か続けば、その企業は素晴らしいSEとSEマネジャを抱えることになり、必ず成長する。

 SEマネジャが「しっかりしたSE」を育て、ビジネスを伸ばし、リーダーシップを発揮するには、SEマネジャ自身が「SE時代の気持ちを忘れずに」行動することである。少なくとも筆者はこう信じてSE人生を送ってきたし、今後も「SE時代の心」を大切にしたいと思っている。

日本の情報化を支えるSEを育てよ

 SEマネジャは、日本の産業界が将来に向けて成長を続けられるかどうか、そのカギを自分が握っているという認識で仕事に取り組むべきである。目下、日本の産業界は過去経験したことがないほどの逆風下にある。今後の発展は情報化抜きには考えられない。顧客は頼りになる「しっかりしたSE」を強く求めている。この要請にこたえるのがSEマネジャの仕事である。

 SEマネジャはもっとSEの育成に力を入れ、技術力を強化し、チームワークを重視し、SE各人の価値観(物の見方・考え方)をしっかりさせ、顧客から「しっかりしたSEだ」、「しっかりした人だ」、「頼りになる」と言ってもらえるSE集団を作らなければならない。

 そのためにはSEマネジャは本書で詳しく述べる「12の行動」を体をはって実践することだ。SEマネジャ一人ひとりが当事者能力を発揮して、ビジネス目標の達成と部下の育成に注力するとともに、「SEの体質改善の担い手」としてSEの意識改革にも取り組んでいただきたい。

 SEマネジャの方々がリーダーシップを発揮して、しっかりした技術者集団作りに挑戦することで、21世紀の新しい時代を支える人材が生まれ、企業も日本の情報化も進展する。そして21世紀には、SEこそが「情報化社会の担い手」、「顧客の真の相談相手」として広く認知され、顧客の情報システムにかかわる広範囲な問題の解決に誇りと責任を持って携わる、自信に満ちあふれたプロの技術集団が形成されているはずである。

本書は、日経コンピュータの連載記事「できるSEマネジャの条件」(1997年10月13日号〜1998年9月28日号)、「信頼されるSEへの道」(1998年10月12日号〜1999年3月29日号)、「信頼されるSEへの道・実践編」(1999年4月12日号〜1999年9月27日号)、「SE一問一答」(1999年10月11日号〜2000年9月25日号)を元に、加筆・修正したものです。

【目次】

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