その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は日本経済新聞社 ソウル支局(編)の『 ルポ・韓国戒厳令 』です。

【はじめに】

 1917年のロシア革命について記した『世界を揺るがした10日間』は米国人ジャーナリストのジョン・リードが革命の指導者や兵士、農民らを克明に取材したルポルタージュとして知られる。

 約100年後、極東の分断国家・韓国で起きた「政治クーデター」はわずか6時間で鎮圧された。その日、国会を制圧すべく突入してきた兵士の銃を素手で握りしめ、「恥ずかしくないのか」と凄んだ元女性キャスターの姿が、権力の横暴にあらがう国民の象徴的な姿として世界に発信された。

 日韓関係を改善に向けた尹錫悦(ユンソンニョル)前大統領の功績は大きい。だが、たとえどんな理由があろうとも、憲政秩序や民主主義を危機に陥れた暴挙は徹底的に指弾されねばならない。本書を出版しようと思い立ったきっかけは、そんな思いからだった。

 罷免を宣告した憲法裁判所の弾劾審判を取材しながら、尹氏がなぜこうした暴挙に出たのかを問い続けてきた。その疑問は今も消えていない。

 真っ二つに割れる世論と長引く混乱。深い傷痕を抱えて新大統領を選出した隣国と日本はどう向き合えばいいのか。日韓国交正常化から60年、そして戦後80年という節目にあたる今年こそ、それをより深く考える契機としたい。

 執筆は日本経済新聞社ソウル支局の甲原潤之介(現政治部)を中心に、藤田哲哉と松浦奈美の3人が担当した。韓国人記者の羅基栄と孔元泳、カメラマンの安成福、「Nikkei Asia」記者の金再源とスティーブン・ボロヴィックも協力してくれた。事務担当の李セボンは支局員の健康に留意し、裏方で支えてくれた。出版に際して尽力してくださった日経BPの長澤香絵様に心から感謝申し上げたい。

 取材の一つ一つに隠された事実やドラマがあり、人間の喜怒哀楽が潜む。加速する新聞離れのなか、この業界に身を置く者として「新聞記者」という仕事の妙味を少しでも読者に伝えられたら幸いである。

 2025年6月4日
 李在明大統領の誕生の日に

日本経済新聞社 ソウル支局長 藤田哲哉


【目次】

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