その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はリード・ホフマン、GPT-4(著)、井上大剛、長尾莉紗、酒井章文(訳)の『 ChatGPTと語る未来 AIで人間の可能性を最大限に引き出す 』から、伊藤穰一さんの日本語版序文です。

【日本語版序文】 伊藤穰一

 リード・ホフマン氏の新刊『ChatGPTと語る未来』の発行に際し、序文を書く機会をいただいたことを光栄に思います。AIの未来、それが私たちの生活を一変する可能性に関心のある方なら、誰でもこの本を手に取る価値があると思います。
 これまで、私は多くの時間を最新技術の進化とともに過ごし、最新ツールが急速に導入されて、社会が適応するのを間近に経験する機会に恵まれてきました。本書でリードの共著者であるGPT-4のように、最近の大規模言語モデル(LLM)の爆発的な進歩は、まさにこれからの時代の重要な分岐点ではないかと思います。10代の頃、初めてモデムを使いネットワーク時代の到来を予感したときのような驚きを感じています。
 だからこそ、私たち誰もがAIの最新動向をよく理解し、この技術を使いこなせるようになることが重要です。AIはあらゆるコンピューター機器にスーパーパワーをもたらします。リードはこれを「人間の能力増幅」と呼び、私は「拡張知能」と呼んでいますが、いずれにしてもそれが意味するところは非常に深淵です。

 「はじめに」につづく本編において、リードは(GPT-4の助けを借りながらも)、AIが私たちの生活を豊かにする強力なツールになりうるという、思慮深い洞察をしています。たとえば、AIを使って教育をパーソナライズしたり、より効率的なビジネスを創出したり、新しい芸術やエンターテイメントを生み出すなどです。リードは、本書を「旅の記録」と表現しているように、読者を未来への旅行、私たちがみなでつくっていくべき世界のビジョンへの旅に誘っているのです。このように強力で新しい進歩にはリスクがつきものなので、世界の多くはネガティブ要素に焦点を当てがちです。しかし、私は、AIが「増幅された知能」である可能性を信じていますし、リードも、これが世界をよくするための梃子(てこ)でありサポートになるという説得力を伴った説明を提示しています。
 リードは、スタンフォード大学にてシンボリックシステム(計算論的アプローチを重視した認知科学)を学んでいた学部生時代から、OpenAIの最初の資金提供者の1人となる現在まで、ヒューマニティ(人間らしさ)をより高い次元に発展させるAIの大きな可能性について、鋭い関心と理解をもちつづけてきました。本書『ChatGPTと語る未来』は、AIの未来について、思慮深くバランスの取れた考察を提供しています。本書は、AIの潜在的なメリットとリスクを注意深く検討しながら、私たちのヒューマニティを増幅するために、どうAIを使うかというビジョンを提示しています。

 人口動態が大きく変化しつつある日本では、特にこの問題に興味をもつ読者が多いのではないでしょうか。生活を豊かにし、人間の能力を増幅しうるAIのような技術の活用は、この社会が次の千年間、変化に適応し繁栄していくうえできわめて重要です。日本には、イノベーションとテクノロジーを取り入れつつ、それを豊かな歴史と伝統に溶け込ませてきた長い歴史があります。日本は科学技術の教育や人材育成で後れを取っていますが、LLMやAIは、そのテクノロジーについて学ぶだけではなく、コードを書かない人も技術的な恩恵に簡単にアクセスできるよう手助けするツールともなるでしょう。

 禅や神道における調和やバランスの追求といった日本の哲学は、日本がAI開発に貢献する重要な道筋となる可能性があります。とくに、リードのバックグラウンドや哲学、哲学者同士の対話の記述などは、日本人や日本文化がどのように参加、貢献できるかを構想するのに役立つのではないでしょうか。

 もちろん、リスクがないわけではありません。私は、AIの倫理とガバナンスについて考えたり教えたりすることに、非常に多くの時間を費やしてきました。規制とイノベーションにはバランスが必要であり、さまざまな決定にあたって、批評でき、教養ある国民が議論に参加することが不可欠です。最近の著作権裁判の判決は、ものごとがいかに早く動き、日本がいかに早くこの「新しい世界」に適応しているかを示す一例と言えます。
 AIが世界を征服すると心配する人もいますが、私は人間が世界に害を与えるためにAIを使うことのほうが心配です。重要なことは、個人や社会の善意を増幅させるために、個人や人類をサポートするようなAI開発に取り組むことだと思うのです。楽観的で、実験的で、反復学習するというリードのアプローチは、この課題に取り組むための最良の方法だと思います。

 『ChatGPTと語る未来』は、重要かつタイムリーな本です。AIがもたらす未来の可能性について、興味深く役立つ概要を説明すると同時に、AIを利用して私たちがヒューマニティを増幅できる方法についてのビジョンを示しています。私たち全員が、いま起きていることの影響を受けるのです。私たち自身が思慮深く議論し、徹底的に話し合うことが重要です。

 ぜひ、みなさんもAIの未来について、一緒に考えてみてください。AIが私たちのヒューマニティを最大限に増幅し、AIが私たちの世界のために使われるような未来を、一緒につくっていきましょう。


【目次】

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