その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は恩田達紀さんの『 米中冷戦がもたらす経営の新常識15選 』です。
【前書き】
今まさに日々の変化が激しくなり、グローバル規模でバランス・オブ・パワー(力の均衡)は大きく崩れ、乱れはじめている。現時点では「歴史上どんな位置にあるのか」が非常に難解であり、日々起こる事象の理解に苦しむ時代である。
そして、世界的な連携が深くなっていることにより、劇的な出来事が起こるたびに、その影響度やリスクなどがまったく予想がつきにくい時代である。
米中の覇権争いは、実際に表裏にわたって熾烈な争いが繰り広げられている。その背景や根底にある考え方や戦略は表に出にくい。
現在の国際情勢における対立は、従来の「軍事的安全保障」に加え、「経済的安全保障」、そして、根底にある人間社会の基本的概念である「イデオロギー・価値観」の領域での争いにまで発展しはじめている。
国際間の「社会問題の解決」も、この3つの国際間の対立が激しくなればトーンダウンし、共同で対処することができなくなってしまう。そして、その新しい世界的枠組みとなる「軍事的・経済的安全保障の関連性と優先度」と「イデオロギーの対立」の理解を怠ると、極端に誤った判断を下してしまう恐れがあり、国や企業の存亡に大きく影響を与える時代となった。
世界を取り巻く環境の変化が激しい中、最近はコンサルティングの現場から多くの要望や悲鳴が聞こえてきている。
「パンデミック、ロシアのウクライナ侵攻などの危機により、世界の軍事的安全保障と経済的安全保障の両方を正確に捉え行動しなければ、グローバルビジネスから退場させられる可能性が増した。」「習近平政権は、従来の改革開放路線から権威主義的政策へ大きく舵を切った。この先中国や世界はどうなるのか。」「米国の力が弱まるにつれ、より世界の情勢がわからなくなっている。この先何をベースに考え、ビジネスを進めたらいいのか。」
「経済合理性や規模の利益を追求する時代は終わったが、どこで生産し、どこに販売するのが最適なのかがわからない。」「サプライチェーン全体を自社で末端まで管理し、危機が生じても動じないレジリエントなビジネスモデルに早急に転換しなければならない。」
「米国・欧州同様に自らの言葉でメディアなどに対外声明やコメントを出さねばならない時代になった。事前に深い知識と準備が必要だ。」「情報が多すぎ、偽情報など一方的な情報に惑わされやすい。情報に対する“真贋を見極める目”を養いたい。」「できる限り直接的に一次的なインテリジェンス情報を入手し、確度の高い判断を下せるようにしたい。」
「従来の“守りを重視したリスク管理機能”ではなく、“攻めのインテリジェンス機能”がほしい。リスクを恐れるあまり、何もしない経営体質になってしまった。」「正解がない中で、グレーな部分を判断し、リスクを理解して事業を推進する体制を作っていかなければ生き残れない。」「自社内に新たなインテリジェンス機能を有する組織を創設し、経営トップはもとより、社員全体のインテリジェンス情報リテラシーを向上させる必要がある。」
こうした声を受けて、本書では、20世紀初頭から米ソ冷戦に至るまでと、それ以降の現在に至るまでの「軍事的安全保障」、「経済的安全保障」、「イデオロギー・価値観」という3つの構造的な対立について、米中や日本、インドなどを含む主な国が置かれた「地政学的視点」とともに、「歴史的背景・経緯」、「リーダーの意思決定による結末」、「政治・経済、ビジネスへの影響」を捉え、教訓となるものについて解説を加えた。
加えて、冷戦後期からの筆者の米国、中国、東欧、アジアでの現地駐在で得た知見や経験で特徴的なものや、その時の実感について参考までにいくつか紹介している。
本書全般では、直近の世界情勢について、米中のどちら側に偏ることなく、味方することなく、双方の本質的なベース・起点となる考え方と立場を客観的に捉え分析している。また、過去に同様もしくは近似する場面や歴史を振り返り、現在と過去の類似点や相違点を例示し、現在と将来についての方向性を解析することを試みた。
そして、それぞれの戦略上のPros&Cons(良い点や悪い点、賛否両論)を踏まえ、その本質的な考え方などから表れる事象と結果について解析した。全15章のどの章からでも読んでいただける構成となっている。
15章からなる本編の参考情報として、巻末の図解編では模式化を試みた。現在の難解な世界情勢と米中冷戦構造に対して、より一層理解を深めていただきたいとの思いからである。
長年従事してきたコンサルティングビジネスの考え方をいくつか取り入れ、重要だと思われるポイントについては、一つ一つ図表化している。
本編とともに図解編を併せて参考にしていただき、本編では個別に解説しにくかった欧州やインド太平洋地域の国々の動きなどの理解の一助としていただければ幸いである。
二〇二三年五月 恩田達紀
【目次】




