その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は藤野英人さんの 『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』 です。

【はじめに】

 はじめまして、投資家の藤野英人と申します。
 2003年にレオス・キャピタルワークスという資産運用会社を創業し、現在は代表取締役社長兼最高投資責任者を務めています。レオスが運用する投資信託「ひふみシリーズ」は資産残高でアジア最大規模のアクティブ株ファンドに成長し、2019年にはR&I「ファンド大賞」投資信託10年部門で「ひふみ投信」が国内株式の最優秀ファンド賞を受賞するなど、高い評価をいただいています。

 そんな私が今、強い関心を持っているのが巨大な「ゲコ(下戸)市場の可能性」です。
 あまり知られていませんが、日本人の成人の半分以上は「お酒を飲まない(飲めない)」「ほとんど飲まない」「やめた」人です。それにもかかわらず、お酒を飲まないことはネガティブにとらえられることが多く、お酒を飲まない人向けの商品やサービスはほぼ未開拓の状態にあるのです。
 日本の成人の半分以上を占める「お酒を飲まない人」をターゲットに市場が開拓されれば、新たな成長産業となる可能性が高いでしょう。
 本書のタイトルである「ゲコノミクス」とは、この新たな市場を称しています。その担い手となるのは、お酒を飲めない・飲まない・飲みたくない「ゲコノミスト」たちです。
 新たな市場開拓のためには、ゲコノミストが抱いている思いを知る必要があります。本書では、私が開設したフェイスブックグループ「ゲコノミスト(お酒を飲まない生き方を楽しむ会)」に寄せられた声もふんだんに紹介しながら、正当な扱いを受けられず辛さを溜め込んできたゲコノミストの気持ちを読み解いていきます。
 ゲコノミストに光をあて、「お酒を飲まない」ことを尊重する人を増やすことも本書の大事なゴールのひとつです。

 本書を執筆している2020年4月、世界では新型コロナウイルスの感染拡大により人やモノの往来が停滞し、経済は大打撃を受けています。新型コロナウイルスが世の中にもたらした影響は甚大で、まさに時代の転換点といえるでしょう。
 時代を「ビフォー・コロナ」「ウィズ・コロナ」「アフター・コロナ」に分けて考えた場合、拡大が収束しても「ビフォー・コロナ」の世界に戻ることはなく、「ウィズ・コロナ」で起きた変化の多くは「アフター・コロナ」に影響すると考えられます。
 たとえば「アフター・コロナ」の世界ではリモートワークや在宅ワークが一般的になり、家族と過ごす時間が増え、「体調が悪ければ休む」ことが当たり前になるでしょう。

 本書のテーマでもある「お酒」についても、「ウィズ・コロナ」の世界ではすでに大きな変化が見られます。
 飲み会や会食が敬遠され、経営の危機に瀕している飲食店は少なくありません。一方で「巣ごもり」がキーワードになり、ビデオ会議システム「Zoom」を使って親しい友人同士が家で「Zoom飲み」をする動きもあります。Zoom飲みではそれぞれが手元に飲みたいものを用意して飲みます。当然、「周囲に合わせてとりあえずビール」や「アルコールに弱いのに周囲から勧められて無理にお酒を飲む」といったことは起きなくなっています。
 「アフター・コロナ」の世界になっても、一度変わった習慣は元には戻りません。飲食店は、これまであまり目を向けてこなかった「お酒を飲まないお客さま」へのサービスを充実させてターゲットを広げることが重要な生き残り戦略になるでしょう。そうなれば、飲料メーカーもお酒を飲まない人に向けた商品開発が求められます。

 詳しくは本書でご説明していきますが、私は、新型コロナウイルスの感染拡大と無関係に、飲食店や飲料メーカーを始めとする多くの業種が「お酒を飲まない人」を重視せざるを得なくなる時代が来ると考えていました。そして今、その動きは急加速しています。
 お酒を飲まない人向けの市場を活性化することが世の中を元気にし、経済を盛り上げるためのひとつの方策であることを、ゲコノミストのひとりとして本書で力強く提言していきたいと思います。

 2020年4月  藤野英人


【目次】

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