その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は梅國典さんの『 MUJI解剖 ヒットを生み続ける「問いの立て方」 』です。

【はじめに】

 「一応、撮っておくか」
 2024年9月、米ニューヨーク。大通りで足を止めたのは、無印良品の路面店の前。ファサードに向かって一眼レフカメラを構え、シャッターを切った。

 日経ビジネス編集部の小売業担当記者として、ユニクロやジーユー(GU)を展開するファーストリテイリング(ファストリ)を取材するため、出張していた。
 ファストリの成長スピードは国内小売業で随一だ。株式時価総額は日本企業の上位10社に入る。同社を世界的な企業に育て上げた柳井正会長兼社長は、日本を代表する経営者としてビジネスパーソンの心を強く引き付ける。

 日経ビジネスは幾度となく、ファストリを特集してきた。

 24年8月期は売上高3兆円を突破し、次の大台である10兆円を視野に入れ始めていた。改めて巻頭特集で取り上げる絶好のタイミング。春の人事異動でエネルギー産業から小売業に担当が変わったばかりの筆者が、この特集を担当できたのは幸運によるところが大きい。

最近調子がよくなっているようだけど、なぜだろう?

 無印良品を展開する良品計画は、日経ビジネスの巻頭で特集したことがなかった。それでも、シャッターを切ったとき「無印良品もいつか特集するかもしれない」という予感があった。
 無印良品はいまや世界に約1400店舗あり、海外の店舗数が国内を上回っている。海外でも「MUJI」として高いブランド力を誇る。グローバルに存在感を発揮する日本発の小売業は少ない。無印良品を展開する良品計画は、ファストリとともに、その一角を占める。
 そして、良品計画の業績は上向き始めていた。

 ファストリ出身の堂前宣夫氏が21年に社長に就任し、商品や出店などの改革に取り組んでいることはかねて話題になっていた。しかし、性急な出店拡大が裏目に出ている、といった否定的な見方が当初は強かった。
 そんな風向きが変わりつつあった。

 最近調子がよくなっているようだけど、なぜだろう──。何が起こっているのか、知りたくなった。
 編集部内の企画会議に3度、しつこく良品計画特集のアイデアを持ち込んだ。ファストリと違って、すぐには通らない。
 本書は、3度目の企画提案が実を結んだ25年10月6日号巻頭特集「反撃のMUJI」を、大幅に加筆・修正したものだ。
 最初に断っておきたいのだが、本書は良品計画が全面的に取材協力した「公式本」ではない。雑誌の特集ならば協力できるが、書籍については協力を控えたいというのが良品計画の見解だった(その理由がまた良品計画らしいのだが、ここでは本題から外れるので巻末に譲る)。あくまで外部の視点から、無印良品を等身大で見つめた。

商品は強いが、オペレーションが弱い

 無印良品の特徴は、ユニクロという補助線を引き、両者を比べることで、くっきりと浮かび上がる。
 ユニクロの成長力の源泉は、「ライフウエア(究極の普段着)」という優れたコンセプトに基づく、スケールメリット(規模の利益)の好循環にある。
 ベーシックな衣料品に特化し、アイテム数を絞って大量生産する。質の高い商品を手ごろな価格で販売できる。卓越したオペレーションに強みがあり、それを支えるのは現場経験の豊富な人材、そして何よりカリスマ経営者・柳井氏の存在だ。
 無印良品はユニクロと違い、衣料品だけでなく、食品から生活雑貨、家電まで幅広い商品を手掛ける。ライフスタイルを提案する独自の世界観を形作っている。
 ユニクロの「ライフウエア」に対し、無印良品には、「消費社会へのアンチテーゼ」というユニークなコンセプトがある。海外では禅や茶の湯といった日本文化を反映したブランドとして、人気を集めている。

 ファストリと比べると、良品計画の強みも弱みもわかりやすい。
 圧倒的に強いのは商品開発とブランド力。一方で、在庫管理や店舗運営、デジタル化といったオペレーション面に課題を抱えてきた。
 ファストリがアスリートなら、良品計画はアーティストだ。創業以来、どちらかと言えば感性の会社だった。
 ファストリのように、カリスマ経営者が率いてきたわけでもない。歴代社長の大半は社員が内部昇格した生え抜きだ。

「平凡な会社」が株価を3年で5倍にした

 良品計画を取材して感じるのは、ある種の平凡さだ。
 良品計画は競合他社を圧倒してきたわけではない。競争にさらされながら、試行錯誤を重ね、生き残ってきた。
 無印良品は1980年にスーパーマーケット・西友のオリジナル商品を扱うプライベートブランド(PB)として誕生した。PBとしては後発だった。

 様々な商品を扱うが、どのカテゴリーでも、自社より規模の大きな競合がいる。新興勢力からはベンチマークされ、追随を受ける。雑貨では3COINS(スリーコインズ)やダイソー、家具ではイケアといった競合に対し、劣勢に立たされているという見方もあった。
 競争の中で存在感が低下していると指摘されることもあったし、実際に良品計画の経営陣も危機感を示していた。

 視界を覆っていた雲が消え、青空が広がってきた、というのが今の無印良品だ。
 良品計画は25年8月期の連結純利益が前期比22%増の508億円と、2期連続で過去最高だった。売上高1兆円をうかがい、時価総額は2兆円を大きく超える。株価は3年前と比べると5倍ほどに伸びている(株式分割考慮ベース)。
 伸び悩んでいた国内事業の成長ピッチが上がり、中国を中心に海外事業も拡大している。
 失敗や挫折を経験しながらも、着実に成長してきたのだ。

 日本企業は人口減少という逆風に見舞われている。ほとんどの業界で国内市場は頭打ちだ。この状況を打破する方法は大きく分けて2つ考えられる。

 1つは、国内市場で新しい顧客を開拓する。
 もう1つは、海外市場を開拓する。
 良品計画はこの両方に成功の道筋をつけた。その道のりから学べるものは大きいはずだ。

データ主義でも、顧客の声でもなく

 無印良品はブランド力があるから成功したのではないか──。そう思う読者もいるかもしれない。では、そのブランド力はどのように築かれたのだろうか。
 ブランディングの世界では新しい手法が次々提唱される。今はAI(人工知能)が発達して多様なデータを活用できるし、顧客の声も集めやすくなった。マーケティングも精緻化している。
 ただ、無印良品がブランドを育てるために力を入れていることは少し違う。創業の精神に立ち返って「自社らしさ」を突きつめ、生活者視点で商品を開発する。当たり前のことを愚直に続けてきたからこそ、国内外で顧客の信頼を勝ち得た。
 無印良品は「日本らしさ」を巧みにブランドに取り込んできた。それが海外市場での強みにもなっている。無印良品だけでなく、海外に進出する全ての日本企業にとって、日本らしさは強力な武器になりうる。
 問題は、日本らしさをどのように解釈し、自社の事業に織り込むかにある。その意味でも無印良品の事例は参考になる。

 無印良品は商品開発が強い。
 なぜ強いのかと、取材しながらずっと考えていた。
 無印良品は外部のデザイナーが経営に助言する、独特な仕組みを持つ。もちろん商品開発にも助言する。
 外部から助言するデザイナーも、社内の開発担当者も、そもそも論のような「問い」を頻繁に発しながら商品を作り込んでいるのが、取材していて印象的だった。

 同じことに取り組んでいるようでいても、念頭に置く問いが異なれば、成果に大きな差が生じるのではないか。
 商品開発だけでなく、あらゆる仕事に当てはまる。

 AIの発達により、問いの重要性は高まるばかりに思える。
 もっともらしい答えは、瞬時に出力される。良い答えは良い問いから生まれることを、AIとのやりとりから実感している人は多いはずだ。

 本書は、次の問いに向き合う。
 後発であっても、競合に規模で劣っても、カリスマ経営者がいなくても、なぜ無印良品はヒットを生み出し続けるのか。

(米ニューヨーク・ソーホーの無印良品。2024年9月、著者撮影)
(米ニューヨーク・ソーホーの無印良品。2024年9月、著者撮影)
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【目次】

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