その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は塙和也さんの『 日本のエネルギーまるわかり 』です。
【はじめに】
熱波、洪水、干ばつなど異常気象が続いています。2023年は観測史上最も暑い夏でした。国連事務総長はその現状を「地球沸騰」「気候の時限爆弾」と呼んだほどです。気候変動対策の観点から脱炭素を主軸としたエネルギーの転換は世界にとって猶予がない状況であり、国も企業も相次いでカーボンニュートラル(実質炭素排出ゼロ)を表明しています。炭素ゼロは温暖化ガス排出の多くを占めるエネルギーの転換を意味します。
変革の中心は欧州や米国、中国とした大国です。日本もその渦中にいて対応に追われています。こうした世界のエネルギー転換の原動力は気候変動対策の国際枠組みである2015年のパリ協定です。
主導しているのは米国のインフレ抑制法をはじめとする各国政府の強力な規制や政策です。その内容は「環境に良いことをする」という従来型の環境思想ではなく、安全保障、産業政策、雇用対策と密接に結びついた国家の命運をかけた戦略となっています。米国では同法の効果により再生可能エネルギー産業などで90万人以上の新規雇用や88兆円の投資が生まれるという研究もあります。
こうした国々の政策の裏付けとなっているのは地球の気温上昇を抑えるにはあとどの程度、温暖化ガスが排出できるのかという指標である炭素予算です。例えば9月にインドで終えたばかりのG20サミットでも再生エネの容量を2030年までに3倍にすると首脳宣言に明記されました。これも炭素予算が念頭にあります。
日本政府や企業も脱炭素に向けてさまざまな技術開発を進めています。ペロブスカイト型太陽電池、洋上風力、核融合などが代表です。その技術はあくまで炭素予算を考慮し、導入と実用化の時期の優先順位を明確にしなければ気温上昇を抑えるには役に立たなくなります。炭素予算は国・企業にとって非常に重要な指標であることを改めて強調します。
再生エネや電気自動車(EV)などの技術は世界で日進月歩を続けています。日本企業がトップランナーであった脱炭素技術において世界に遅れをとるようになった背景も本書は説明しています。
日本のカーボンニュートラルや2030年の温暖化ガス削減について「46%から50%の高み」を目指すという国家目標はパリ協定が掲げる「1.5度目標」に合わせて策定されています。つまり、気候変動にどう対応するかということがエネルギー政策の主軸となっています。
温暖化ガスの削減という点では依然排出量は世界で増加を続けており、世界のこれまでの取り組みは気候変動を食い止めるほどには至っていません。途上国をはじめ、脱炭素技術が十分にない国が多く、電力の安定供給の観点からもなかなか対策が進まないのが現状です。
2011年3月11日の東京電力福島第1原発事故以来、日本のエネルギー政策は重要な変化にさらされ続けてきました。当時、著者は経済部の資源エネルギー庁担当としてその混乱を取材していました。12年が経ちましたが、エネルギー政策は事故の余波をいまだに引きずっているようです。ただ2020年に菅義偉首相が実施した2050年カーボンゼロ宣言以降、方向は固まったと言えます。世界の脱炭素の取り組みの事例を参照に日本の政策を解説します。
2023年9月 塙 和也
【目次】



