香川県高松市にある「本屋ルヌガンガ」は、「これからの街の本屋」をつくろうと、元書店員の中村勇亮さん・涼子さん夫妻が始めた店。ことでん瓦町駅から徒歩5分、JR高松駅からも徒歩20分、繁華街のど真ん中にあって、立地的にはこの上ない。地元に関連した本から、身体、料理、女性向けエッセー、子どもの本、海外文学まで、丁寧にセレクトされた本が並ぶ。開業から7年がたち、当初想定していた以上の手応えを感じているという。中村夫妻にお話を伺った。
売り上げは当初見込みを上回る
本屋ルヌガンガの開業は2017年です。7年たって当初イメージしていたようなお店になってきましたか?
中村勇亮さん(以下、勇亮さん) 開業時にこれだけあればやっていけるかなと見積もっていた売り上げの水準は上回っています。また、本を介して人が集まる、人とつながれるような店になれたらと考えていました。いろいろなイベントをする中で、まさにそのような場になっているかなと感じる時もあります。高松ほどの規模の地方都市であれば、このような形の書店を夫婦で経営していくことは十分できると感じています。
お客様はどんな方が多いですか?
勇亮さん 地元の方とともに、思っていた以上に旅行者が多くなっています。その土地にある面白そうな本屋を探している人、当店のXをフォローしていて、たまたま高松に来たので寄った人とか、いろいろなきっかけで来店されているようです。
とりわけ徳島や高知といった近県からは、こうしたタイプの書店が比較的少ないのもあって、定期的に通ってくださる方がいらっしゃいます。
愛媛からもやって来られますか?
勇亮さん 愛媛も多いですね。松山には「本の轍(わだち)」という書店がありますし、他にも独立書店がありますが、松山より高松のほうが近いという方がいらっしゃったりと、いろいろなところから来店されます。
開業資金の一部を募ったクラウドファンディングのサイトを見ると、「これからの街の本屋」を目指すとあります。勇亮さんが考える「これからの街の本屋」とはどういうものですか?
勇亮さん お子さんからご老人まで、幅広い年齢層の方が普段遣いで来られるような店でしょうか。おしゃれでとがった「セレクト」にこだわらず、ベストセラーも含め、幅広いタイプの本が置いてある店です。
ぱっと見では、当店も典型的なセレクト書店と思えるかもしれません。でも自分の中では、スタンダードな選書を意識していて、普段あまり本を読まないお客様が来られても楽しめて、何かしら買える本があるような店になってきていると思います。
美容室や病院などへの雑誌の配達も、昔の街の書店ほどではありませんが、行っています。また、地元の企業やマンションの共用スペースのライブラリー向けに、毎月選書をしています。
演劇や音楽ライブイベントも
店内のイベントを頻繁にされていますね。
勇亮さん イベントは月に10回ほどやっています。東京の書店のように著者を招いた企画はなかなかできませんので、“シェア型”のイベントが多くなっています。
例えば、参加者同士で面白かった本を紹介し合ったり、1冊の本について感想を語り合ったりする読書会。『パワハラ上司を科学する』(津野香奈美著/ちくま新書)という本の読書会では、参加者が自らの実体験を話して大いに盛り上がりました。本以外にも1本の映画を見て感想を語り合う会や、コーヒーの淹れ方についてのワークショップのようなイベントもあります。半分は定期開催のイベントで、長く続いているものも多いです。著者やお客様からの持ち込みで始まることも多くなっています。
特に変わったイベントはありましたか?
勇亮さん 演劇、ダンス、音楽のライブをやったこともあります。金子みすゞ作品の芝居やフラメンコギターとファドのライブもやりました。俳優の方が呼びかけて、戯曲作品を参加者同士で読み合うワークショップも行っています。
こちらは雑誌コーナーですね。『暮しの手帖』が平積みになっています。
勇亮さん 同誌の最新号では、「香川をデザインした男 和田邦坊さんを訪ねて」という特集記事が掲載されていまして、それに合わせて当店でもトークイベントを企画しました。和田邦坊(くにぼう)さんは昭和に活躍した画家で、香川県名物のお菓子灸まんのパッケージデザインなどでも有名です。和田さんの作品は香川県庁にも展示されています。
香川や瀬戸内など地元に関連した本がずいぶんあります。
勇亮さん この『香川にモスクができるまで 在日ムスリム奮闘記』(岡内大三著/晶文社)は、インドネシアから働きに来ていた人が、在日ムスリムのため、香川県坂出市にモスクを建てるルポルタージュです。とにかく面白い本で、テレビ番組でも取り上げられました。
島暮らしの本
イラストルポライターの内澤旬子さんは、東京から小豆島に移住し、ヤギやイノシシなどたくさんの動物と暮らしています。『漂うままに島に着き』(朝日文庫)はそのいきさつを書いたエッセーです。内澤さんには当店でお話会をしていただいたことがあります。内澤さんが作っている『こんにちはヤギさん! ヤギが飼いたくなったなら』というzineもお薦めです。
高松港の北にある男木(おぎ)島には、ダモンテ商会というベーカリーカフェがあります。ここの食材は基本、現地調達です。『広いキッチン 長いレシピ つくる つづける くりかえす』(ダモンテ海笑・二宮将吾著/ダモンテ商会出版部)という冊子には、ニワトリを育て、狩猟をし、畑で野菜や小麦を作る日々がつづられています。
開店以来のロングセラーはありますか?
勇亮さん 働くことや仕事のあり方について悩みを抱えている人が多いようで、『自分の仕事をつくる』(西村佳哲著/ちくま文庫)はずっと売れ続けています。『るきさん』(高野文子/ちくま文庫)の親本は1990年代前半に出たものですが、若い方もこういう本があるんだと知って買っていかれます。
整体をはじめとする健康や身体に関する本もよく売れています。たとえば、『大和なでしこ整体読本 身体を取りもどす七つの力』(三枝誠著/ちくま文庫)。三枝さんは野口晴哉の内弟子で、別のペンネームでも活動されていますね。
イチ推しの海外文学
勇亮さんが個人的に好きなジャンルで、お薦めの本はありますか?
勇亮さん 私は文学部出身で、特に海外文学をよく読んでいます。ここにある小説は読んでいるものも多いです。お客様にお薦めを聞かれたときはなるべく読みやすい作品を紹介しています。
最近亡くなられた、ポール・オースターとコーマック・マッカーシーは、どちらも大好きな作家です。お薦めは『ブルックリン・フォリーズ』(ポール・オースター著/柴田元幸訳/新潮文庫)と『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』(コーマック・マッカーシー著/黒原敏行訳/ハヤカワepi文庫)。後者は映画にもなりました。
マイケル・オンダーチェの『イギリス人の患者』(土屋政雄訳/創元文芸文庫)もいい本です。この著者は、スリランカ生まれで、後にカナダに移住した人。『イングリッシュ・ペイシェント』という映画にもなりました。
ノーベル賞作家であるJ・M・クッツェーの『恥辱』(鴻巣友季子/ハヤカワepi文庫)は、早い時期からアパルトヘイトやフェミニズムのテーマを取り上げています。ストーリーも非常に面白いです。
絵本の次へステップアップするために
ここで、絵本や育児本を担当している妻の涼子さんにも、お薦めの本を聞いてみた。
子ども向けの本でお薦めはどれでしょうか?
涼子さん 私は子どもの本の棚を見ている大人のお客様がいたら、必ずお声がけをして接客します。ギフトの場合が多いので、何を選んでよいのか悩んで手に取れずに迷っている方が多いからです。また小学生にもなると、読書体験の差が大きくなっていきます。小さなときに絵本を読んでいた子どもが、次に童話を読むようになれば、その後は『モモ』(ミヒャエル・エンデ著/大島かおり訳/岩波書店)をはじめとする、長めの児童文学へも行き着くことができるでしょう。
一方で、小学生になると、乳幼児の頃に何度も繰り返し読んでもらったであろう人気の絵本(かがくいひろしの「だるまさんシリーズ」やヨシタケシンスケさんの絵本など)は懐かしがって手に取って喜んで読んでも、そこで楽しい読書体験は終わってしまって、スマホのゲームばかりになってしまう子もたくさんいます。
そこで親御さんには、お子さんが絵本の先へステップアップしてもらうために、『絵本のつぎに、なに読もう? 幼年童話と過ごした日々』(越高綾乃著/かもがわ出版)という本がお薦めです。
また、学校に行きたくなかったり、自分の気持ちをうまく言葉にできないでいるお子さんには、『きょうはおやすみします がっこうのてんこちゃん』(ほそかわてんてん 作/福音館書店)や、『すてきなひとりぼっち』(なかがわちひろ 作/のら書店)などをお薦めします。
本を買って寄贈すると宿代がタダ
ところで、近所のゲストハウスと提携して「本泊(ほんぱく)」という試みをしているそうですが、どのようなものですか?
勇亮さん この近くに燈屋(とうや)というゲストハウスがあるのですが、ルヌガンガでテーマに合った本を購入し、宿に寄贈すると一泊無料になるという企画です(水曜日のみ)。購入する本は値段を問いません。燈屋のオーナーは精神科のお医者さんで、当店のお客様でもあります。地域の活性化や訪れた人の交流の場づくりを目指しています。
最後に、当店を訪れたついでに立ち寄るといい、地元のお薦めスポットを教えてください。
涼子さん 小さなお子さんがいらっしゃる方でしたら、イサム・ノグチの遊具彫刻がある中央公園をご案内しています。雑貨が好きな方なら、丸亀町商店街にあるまちのシューレ963。美術の好きな方なら、同じく商店街すぐのところにある高松市美術館がいいと思います。
勇亮さん この近くに「半空(なかぞら)」というブックカフェバーがあります。ここのメニューには「ヘミングウェイの愛したモヒート」とか「村上春樹の愛したシベリア・エキスプレス」などもあります。喫茶店でしたら、くつわ堂総本店。老舗の和菓子屋さんが営む落ち着いた店で、猪熊弦一郎の絵が飾ってあります。
取材・文/桜井保幸 写真/上田純
参考サイト 本屋ルヌガンガ|香川県高松市の新刊書店【フォトギャラリー】





















