15万部のベストセラーを快走中の 『整える習慣』 (日経ビジネス人文庫)。ヒットの裏には、コロナ禍という刊行時期、文庫化に当たっての加筆、メッセージ性のある前書きなど、いくつかの要因があった。本書の担当編集者・酒井圭子と日経ビジネス人文庫元編集長・桜井保幸、営業担当・今井勇太との鼎談(ていだん)スタイルでおくる。

前書きを読んでヒットを確信

酒井圭子・日経BOOKSユニット 第1編集部(以下、酒井) この『整える習慣』は2019年の夏ごろ、編集部で「自律神経をテーマにした文庫があるといいんじゃない?」という話が出たのがきっかけです。「自律神経といえば、順天堂大学の小林弘幸先生」ということで、小林先生の著書を読み込むところから始めました。それから当時、日経ビジネス人文庫の編集長だった桜井さんと、小林先生にお目にかかったんですよね。

桜井保幸・日経ビジネス人文庫元編集長(以下、桜井) 小林先生、面白い方ですよね。「恋愛は自律神経を乱すから、やめたほうがいい」という話が印象的でした(笑)。

酒井 19年秋に企画が承認され、当初は20年春ごろに出版する予定でした。ところがコロナ禍になってしまい、親本に大幅な加筆・再編集が必要となりました。そこから小林先生と何度も打ち合わせを重ね、執筆を進めていただきました。

 でも、結果として発売時期を延ばしたことが幸いしました。コロナ禍が始まった後に小林先生が新たに始められた「習慣」も多く、それが読者の皆さんに響いたのではと思います。

親本のタイトル『一流の人をつくる 整える習慣』からよりシンプルな書名にした
親本のタイトル『一流の人をつくる 整える習慣』からよりシンプルな書名にした
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 それまで先生は「SNSはやらない」とおっしゃっていたのに、青空や花や木の写真を撮り、1日に1枚だけ、インスタグラムにアップされるようになりました。「コロナの波に飲み込まれず、自然や別のものに目を向けて心を整えよう」と思われたそうです。それから朝の散歩を始められたり、寝室に絵を飾られたり…と、小林先生ご自身が実践されたことをたくさん本に盛り込んでいただきました。

 そして、先生から届いた原稿を桜井さんに読んでもらったのですが──。

桜井 すごくよかったです! 特に「 文庫版はじめに 」を読んで、コロナ禍の中で著者が伝えたいことが見事に書かれていました。この部分を読んだだけで、「本書は成功するな」と思いました。まさにお手本のような「はじめに」でした。

今井勇太・日経BPマーケティング リテール営業ユニット(以下、今井) 僕はコロナ禍で世の中が変わったり、自分も変わったりしているのに気づかず、ただただ突っ走っていたんですけど、「はじめに」を読んで、「本当にダメージを食らっていたんだな」と気づきました。

酒井 今井さんは「自分のための本です」と言ってくれたんですよね。桜井さん、今井さんがそれぞれの言葉でほめてくれたので、「これはいける」と思いました。

装丁はあえて「王道で」

酒井 装丁は装丁家の井上新八さんに依頼しました。最後まで「観葉植物的なグリーンをあしらうか」「シンプルにするか」で迷っていました。そうしたら今井さんが「混迷期こそ、王道で行くべきです」と言い切ったんです。

 今思うと、当時は訳の分からない新型コロナウイルスというものに対して、ある種の興奮状態でしたよね。

今井 まさに自律神経が乱れている時期でした。だからこそ、あえて分かりやすく、王道路線にしたほうがいいかと。

「本書に救われた」と今井は話す
「本書に救われた」と今井は話す
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 僕自身もこの本に救われました。もし読んでいなかったら今ごろぶっ倒れていたかもしれません。

桜井 確かに本書に書かれている108の行動術を実践すれば、それぐらいの効用がありますよ。

 本書は親本にあった「一流の人をつくる」というサブタイトルも取って、シンプルにしたのもよかったですね。

酒井 そうですね。文庫は判型が小さいので、要素を入れ過ぎると、伝えたいことが分からなくなると桜井さんに教えていただきました。

 おかげさまで初動も良く、情報番組のベストセラーコーナーで取り上げられたこともあって、発売から4カ月で5万部のヒットになりました。

桜井 初版部数は?

酒井 8000部です。そして、ここから「帯替え作戦」で新たに売り上げを伸ばしていきます。

「スゴおび!」作戦を展開
「スゴおび!」作戦を展開
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 帯替え作戦の端緒は、18年刊行の 『やりたいことを全部やる!時間術』 (臼井由妃著/日経ビジネス人文庫)です。これは「スゴおび!プロジェクト」と名付けて、書店さんと出版社がチームとなって、地域、季節、店舗とさまざまなシーンに合ったスゴい「オリジナル帯」を展開することで、もっと読者の方とつながりたいという考えから始めました。当初は地域ごとに店頭販促物(POP)を作成して展開するアイデアでしたが、「帯のほうが効果的では」という意見があって、帯になりました。

 『やりたいことを全部やる!時間術』の知恵袋として関わってくださっていた、エリエス・ブック・コンサルティングの土井英司さんが「時間術なら、時計台がいいんじゃない?」と提案してくださり、時計台の写真を入れた「北海道バージョン」を最初に作成しました。著者の臼井由妃さんもノリノリで、その後、金のしゃちほこの「名古屋バージョン」、春版、夏版、さらに書店別の「くまざわ書店グループ」「TSUTAYAチェーン」「未来屋書店チェーン」…とシリーズ累計で26種類ほど帯替えをしました。

 ただ、今回の『整える習慣』は、今井さんから「あまりつくり過ぎないほうが…」とアドバイスがありまして。

桜井 あんまり派手に増やして、コケたら大変だから?

今井 いえ、ターゲットを絞り込むべきだな、と。もう少し絞り込んだほうが書店も読者も分かりやすいかなと思ったんです。

取材・文/三浦香代子 写真/長野洋子(日経BOOKプラス編集部)

心も体もラクになる!

コロナ禍により、知らず知らずのうち、私たちの心と身体は大きなダメージを受けています。そこで大事になるのが、自律神経を整える毎日のちょっとした積み重ね。第一人者の医師が、自律神経と上手に付き合う108の行動術を伝授。

小林弘幸著/日本経済新聞出版/880円(税込み)

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前編■よく怒る人のパフォーマンスが上がらない医学的理由
後編■モーツァルトとハードロック。自律神経にいいのは?