ソフトバンクの孫正義さんの下で、数々の“むちゃぶり”をスピーディーに実行してきた池田昌人さん。大きな仕事を効率的に進めるための小さな習慣を紹介した著書『仕事は1枚の表にまとめなさい。』を基に、「表」を活用することで結果を出し、さらには人を動かしていく仕事術について、じっくりと掘り下げます。今回は3回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)

家族の話し合いでも「表」が活躍

尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 今回も、『 仕事は1枚の表にまとめなさい。 』の著者、池田昌人さんにお話を伺っていきます。

 前回は、ソフトバンクが手掛けたPCR検査センターの事業において、池田さんが「表」をどのように活用したのかをお話しいただきました。そのお話を聞いていると、難しそうだな、誰でも使えるのかな、とも思ってしまったのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

池田昌人(以下、池田) あらゆる場面で、特に合意形成をするときに使えるものだと思っています。例えば、私は子どもが4人いる6人家族です。週末に旅行へ行こうとなると、子どもたちはどんなところで遊びたいか、妻は温泉や旅先での食べものがどうか、私は筋トレできる場所があるか、運転する距離はどうかなど、様々な検討ポイントが出てきます。

ときに相手との合意形成を図ることが難航してしまうのは、家庭でも仕事でも起こり得ること。あらゆる場面で「表」はその効率化を助けてくれます/画像クリックでAmazonリンクへ
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池田 そして、いくつか行きたい場所の候補が出ると、長男はこれがしたい、妻はここが気になるといったポイントを挙げ、3~4カ所の候補に対して○×△を入れていきます。すると1枚の表になりますよね。Aという場所には遊ぶ場所があるけれど車では遠い、あるいはBは近いけれど遊ぶ場所がないなど、メリットとデメリットが表という形で明快に、小学生・高校生・大人、誰が見ても全員共通の認識として理解できます。そのうえでどうするかという話し合いができますので、池田家ではご飯を食べに行ったり旅行に行ったりと物事を決めるときには、表にして意思決定をしています。

 このように日常のささいなことから、前回お話ししたような仕事上の難しいことまで、どんな場面においても合意形成に使えると思いますよ。

尾上 家庭内で子どもから大人までが1つの表で認識を共有できるのであれば、会社の中の大きな仕事でも有効ですね。

池田 もちろん、大人同士であれば確実に使えます。ただ大人の場合、自分が正しいと思っていることがそれぞれ強く出がちですよね。そんなとき冷静に議論をするためにも、簡単なことでもあえて表にして、「今、話していることはこういうことですよね」と場に示すことで、意思決定が早まったり、正しく行えるようになったりすると思います。本当に様々な場面で使っていただけます。

相手を知ってこそ「表」が生きる

尾上 前回お話しいただいたPCR検査センターについては、主に本書の第2章「『表で』説明する・議論する」に書かれています。次の3章では「『表で』結果を出す」、4章では「『表で』人を動かす」、そして終章では「『表で』人生を動かす」ところまで話が広がっていきます。まず、表で人を動かすことは大変そうにも思えるのですが、その点はいかがでしょうか。

池田 2章や3章でお話ししていることを通じて、「人を動かすこと」につながります。我々が仕事をする、もしくは生きていくなかで、人との関わりは絶対に無視できませんし、それをないがしろにして表というテクニックに溺れて人のことを見なくなると、やはりうまくいかないと思います。

 「『表で』人を動かす」では、事前に相手を知ることがいかに大切かをお伝えしています。私はそれを「布石を打つ」と言っていて、皆さんがご存じの「報連相」でも、相手を知ることによってどのポイントを意識すればいいのかが分かります。5W1Hのうち、この人は時間を意識する人、この人は内容を意識する人というように相手の特性を押さえつつ、表を使いながら進めることは大変有意義です。

 企画を考えたり何かを提案したりするとき、自分の思いが100%になってしまい、自分が言いたいことを前面に出した資料を作ってしまうこともあるでしょう。ただ、相手のことを理解できていると、例えば「この人はスケジュールを意識する人だ」と分かっていれば、まずスケジュールの点で納得してもらったうえで「具体的にはこうです」と続けると、全体の合意形成がしやすくなります。

 でもこういったプロセスを無視して内容や細かいところから説明し、いつやる話なのかを後回しにしてしまうと、相手はイライラして、結果、内容は正しいのに合意に至らないなんてことが起きてしまいます。ですから「『表で』人を動かす」の章では、表を活用しつつ、相手を知るということにも意識を向けていただきたいということを書いています。

尾上 相手を知ることが意外と難しいというお話もありましたね。

池田 相手を知ろうとするとき、相手の過去も未来も丸ごと理解していないと、この人はこういうことを聞きたいだろう、こういうことを気にするだろうといったことを正しく判断できず、それが仕事上の悩みにつながってしまうこともあります。でも、上司や意思決定者、仲間などに対してきめ細かに意識を向けることで、仕事はもっと円滑になり、コミュニケーションがもっと豊かになり、仕事そのものももっと楽しくなるという効果があると思います。

人生の目的意識を「表」に込める

尾上 自分の言いたいことだけを言う表になってしまうと、うまくいくものもいかないかもしれない。その点では、確かに表は客観的に見られるツールにもなりそうです。

池田 今こんなふうにお話ししている私ですが、いざ仕事で企画を考えるとき、やはり自分の思いが先行した資料になってしまうこともあります。そんなときにふと立ち止まって考え直すためにも、「今日、提案する相手はここを気にする人だったな」とチェックできる表があると、すごくいいと思います。

尾上 なるほど。今お話しいただいたような積み重ねがあって、終章の「『表で』人生を動かす」につながっていくのですね。

池田 モチベーションを持って人生を歩むためには、明確な目標や自分の役割、期待されていることなどを認識することが大切です。そこを意識できると、なぜ自分は今ここで働いているのか、なぜ自分はこのために時間を割いているのかということに、強い動機づけができるようになるでしょう。すると、言われたことをやるだけ、やらされ仕事をただこなすだけ、なんていう徒労感はなくなってくると思います。

 目的意識があると、ここが何か変だとか、こうしたほうがもっとよくなる、という気持ちが必ず出てきますよね。本書に書いたように、それを5W1H表にまとめ、さらに自分が何をしたいのか、なぜこの選択肢がいいのか、効果分析表にしていく。提案する相手を意識して、順番に沿って提案することで、物事がよりよくなったり、スムーズに前に進めるようになったりします。それこそが、自分の人生を豊かに進めていく、人生を動かすというテーマそのものだと私は思っています。

尾上 池田さんはこれまで表をたくさん作ってきて、そしてこれからもたくさん活用していくのですね。

池田 もちろんです。今もほぼすべてのミーティングで表を使って議論しますし、これからも多くの場面で表を基に合意形成していきたいと思っています。

尾上 表に慣れてくると、作り方や使い方も、どんどんうまくなっていくものですか。

池田 そうですね。そしてその人の特徴が出てくると思いますよ。例えば、使う言葉や表現の仕方なども、こうしたほうが分かりやすいとか自分が話しやすいなどの個性が出てくるでしょう。まずは本書で紹介したやり方をマネするところからスタートして、自分なりの表の使い方に発展させてもらえたらうれしいですね。

文/佐々木恵美 構成/山崎 綾、市川史樹(日経BOOKプラス編集)

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