2024年5月、OpenAI、Google、Microsoftといったテックジャイアントは立て続けに生成AI(人工知能)を活用した新サービス、新製品を発表しました。複数のAIベンチャーも水面下で開発を進めており、生成AIの開発競争がかつてないほど激化しています。『Google vs Microsoft 生成AIをめぐる攻防』(日本経済新聞出版)の著者で、テクノロジーやIT企業の動向に詳しい山本康正氏が最新状況を解説します。
GPT-4oを発表したOpenAI
2024年は生成AIの開発競争が激化し、かつてない地殻変動の年になりつつあります。OpenAI、Google、Microsoftといったテックジャイアントは2024年5月に立て続けに新サービス、新製品を発表し、はるか先と言われていたテクノロジーの未来を現代に引き寄せました。
まず、OpenAIはその進化の最前線にいることを主張するようにGoogleの年次開発者会議であるGoogle I/Oの直前の5月13日に新しい生成AIサービスである「GPT-4o」を発表しました。テキストだけでなく画像や音声といった複数の情報を同時に理解し、処理できるAIモデルである「GPT-4」から進化した「GPT-4o」は、さらに感情のこもった音声を使い、応答速度も上げたことで、人間とのコミュニケーションをより自然なものにしています。会場ではコンテンツ制作、翻訳、教育など、多岐にわたる分野での活用が期待されるデモを発表しました。
例えば、カメラに映した簡単な数学の問題について手順を踏みながら家庭教師のように教えるデモや、プログラミングの内容を説明するデモを行っています。生徒一人ひとりの学習状況に合わせて最適な教材や課題を提供したり、リアルタイムで質問に答えたりすることで、より個別最適化された学習体験を実現できるでしょう。
また、イタリア語と英語をまるで同時通訳のように素早く翻訳するデモを行い、言語の壁をさらに薄くすることを実現しようとしています。しかし、このような精力的なイベントの一方で、OpenAIの設立時に参加していた社員であるイリヤ・サツケバー氏などがイベント翌日の5月14日には退社しており、組織の不安定さも垣間見られます。
Geminiの新バージョンを発表したGoogle
その5月14日に、Googleは次々と新しいサービスを発表するOpenAIに対抗するべく、年次開発者イベントであるGoogle I/Oで自社の取り組みを発表しています。生成AIモデルである「Gemini」の新しいバージョンを発表し、例えばカメラに写っている物体の名前や特徴を質問するだけで詳細な情報を教えてくれたり、簡単なスケッチから高品質な画像を生成してくれたりするなど、日々の生活をより便利にする様々なサービスのビデオが披露されました。
基本的にはOpenAIが前月までに発表していたものと同様のサービスを発表しており、携帯OSやGmail、Google Photos、YouTube、検索などのサービスを持っているがゆえの強みを生かした生成AIの進化を前面に押し出しています。
例えば、検索結果に生成AIを活用した「Search Generative Experience(SGE)」は、「AI Overviews」という名称に変更し、従来のキーワード検索よりも、まるで私たちが知りたいことを先読みするかのように関連性の高い情報をまとめて表示することで、時間と労力を節約することを試みています。
写真サービスであるGoogle Photoに組み込む「Ask Photos」の機能も、例えば「自分の子どもの水泳の上達を見せて」と問いかければ、保存されている写真の中から自分の子どもが含まれた水泳に関する写真をまとめて取り出して振り返ることができるようになる予定です。
生成AI搭載PCを発表したMicrosoft
意外な動きを見せたのはMicrosoftです。Googleのイベントから約1週間後の5月20日にAIに関する特別イベントを行い、AI技術をハードウェアレベルで統合したパソコンである「Copilot+ PC」を発表しました。
この新製品は、パソコンが仕事の生産性の要であることを最大限に活用しています。専用AIチップによる高速なAI処理、AIアシスタントによる会議の議事録作成やリアルタイム翻訳、Windows Copilotによるタスクの自動化など、AIの力を最大限に引き出すことで、創造性や生産性を飛躍的に向上させることが狙いです。
ビジネスパーソンであれば「Copilot+ PC」を使うことで、例えば、海外のクライアントとのオンライン会議でリアルタイムに多言語翻訳を行いながらAIが議事録を自動的に作成してくれるため、会議に集中することができます。また、AIによるデータ分析やリポート、メール作成のサポートを受けることで、より戦略的な意思決定を行うことができるようになります。クリエイターであれば、AIの力を借りて、より高品質なコンテンツを効率的に制作することが可能になります。
さらに、Microsoftはゲーム事業も持っているので、例えばマインクラフトというゲームであれば、どのようにゲームを進めればいいのかというサポートを受けながらゲームをプレイすることができます。
注目の生成AIベンチャー
2024年6月には同じくハードウェア事業を持つアップルの開発者向けイベントが控えているため、その差が注目されます。また、生成AIといっても、安全性を重視するAnthropicやイーロン・マスクが手掛けるxAI、フランスのMistral AI、日本のSakana AIなど多くの競合が水面下で開発を進めています。特にxAIは1兆円に近い資金を集め、創業から約1年で企業価値が日本の大企業と同等の4兆円になる可能性があるという報道も出ており、過熱感が増しています。
これらの動向は、AIが私たちの生活や仕事に不可欠な存在となりつつあることを示しています。AIは、私たちの創造性を刺激し、新たなアイデアを生み出すためのパートナーとなるでしょう。同時に、複雑な問題を解決するための強力なツールとなり、社会全体の進歩を加速させる可能性も秘めています。偽情報の生成に活用されるような負の側面をどのように制御しながら、正の側面を活用していくかがこの2024年の大きな議題になります。
生成AIをめぐる攻防を制するのは、どのテック企業か。独自のAI戦略を打ち出すMicrosoft、モバイルでは優位性のあるGoogle。ChatGPTを生み出したOpenAIの組織力学にも山本康正氏が迫る。Anthropicなど注目の生成AIベンチャーについても解説。
山本康正著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)


