大企業向けに業務をデジタル化するクラウドサービスを提供するIT企業、ドリーム・アーツ。新人研修として本を活用した「BOOKマラソン」というユニークな取り組みを実施しています。なぜそのような研修を実施しているのか。どのような内容で、効果はどう出ているのか。ドリーム・アーツで人事部門を統括するHRD(Human Resources Development)グループリーダーの芳賀奈津美さんに聞きました。

創造的に働ける人材を育てるには

 ドリーム・アーツは大企業向けの業務デジタル化クラウドサービスである「SmartDB(スマートデービー)」などのサービスを提供し、「デジタルの民主化」を掲げています。「デジタルの民主化」とは、プログラミングの知識やスキルがなくても使えるノーコードの製品で、特別な能力を持つIT人材でなくとも、現場の社員が自らデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていけるようにすることを意味しています。

 現在、私たちドリーム・アーツの社員数はグループ会社を合わせて約250人、新入社員は毎年10数人程度が入社しています。ドリーム・アーツのスタッフは、先の読めないVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)といわれる時代において、正解やお手本がないなかで唯一無二のサービスを作っていかなくてはいけません。そのため「言われたことをやる」のではなく、「創造的に働ける」人材が必要です。

 そして、ドリーム・アーツのバリューとして重視しているのが「協創」──力を合わせ共に創るという価値観です。私たちはバックオフィス部門にはじまり、営業、マーケティング、カスタマーサクセス、サポート、コンサルティング、製品企画、製品開発、システム運用、セキュリティー…と多様な専門知識を持つメンバーが「協創」し、大企業向けのクラウドサービスという難易度の高い仕事を遂行し、発展させています。そうしたなかで、1人のスーパープレーヤーが活躍するのではなく、ドリーム・アーツのスタッフもクライアントの方々も一緒になって“コト作り”をしていく。そして、クライアントの方々と共に、より良いサービスを創り上げていく協創的な組織にしたいと考えています。

 それぞれの専門性はどうであれ、自身が協創でき、時には協創をアレンジし推進する人材に成長する必要があります。そのためには、専門分野の学習や実務からの直接的な知識を積み上げるだけでなく、自分と協創するメンバーの知識と経験の可能性や真価を見いだし発展させる土台のようなものが必要だと考えています。その土台を築くためには、実務的な専門知識ではなく、先人が長い歴史の中で考察して挑戦し、時にはもがき苦しみながら獲得した叡智(えいち)が形式知としてまとめられた「本」を読む習慣が不可欠です。

 そんなトップの思いから、2013年以来、毎年欠かさず新人研修の一環として「BOOKマラソン」を行っているのです。

「『言われたことをやる』のではなく、『創造的に働ける』人材が必要です」と話す芳賀さん
「『言われたことをやる』のではなく、『創造的に働ける』人材が必要です」と話す芳賀さん
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「BOOKマラソン」の効果

 「BOOKマラソン」では、新入社員が課題図書を読み、そのレポートを社内チャットに投稿します。それらは全社員が閲覧して、コメントやリアクションをすることができます。その後、新入社員が集まり、1時間ほどかけて本の感想についてディスカッションします。本を読むインプット、感想を述べるアウトプットを通じて、「他の人はそう感じたのか」という気づきを得て、視野を広げることに役立っています。

 また、今年から「社内サポーター制度」を取り入れました。社内で手を挙げた社員が同じ課題図書を読み、新入社員に対して積極的にコメントやリアクションを返しています。以前から、もちろんすべてのレポートに目を通してはいたものの、新入社員全員に対してきちんとコメントをするのは結構大変です。新入社員からも「もっとコメントがほしかったです」と言われることがあったので、サポーターの存在は心強いですね。

 「BOOKマラソン」がスタートするのは新人研修やエンジニア研修が落ち着いてきた毎年8~9月ごろ。そこから3~4週間に1冊のペースで全9冊の課題図書を読むので、半年以上読み続ける、まさに「マラソン」の状態となります。

 2013年のスタート当初は「週に1冊」というハイペースのマラソンでしたが、やはり日常業務との兼ね合いが難しく、参加者も「ただ読むだけ」という本末転倒の状態になってしまいがちだったので、ペースを見直しました。やはり本は「読む」だけではなく、「読んで考察を深める」からこそ意味があります。

オフィスの本棚には、過去の課題図書や社員が持ち寄った本が並んでいる
オフィスの本棚には、過去の課題図書や社員が持ち寄った本が並んでいる
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なぜ読書を重視するのか

 なぜ、私たちが新人研修から読書を重視しているかというと、社会人になって早いうちに読書習慣を付け、「本と友達になる人生を歩んでほしい」からです。ドリーム・アーツはIT企業ですが、ITのことだけを知っていればいいのではなく、やはりリベラルアーツに触れ、考察を深めたり、広い視野や大局から物事を見たりする力が必要となります。社会人としてのファーストキャリアにドリーム・アーツを選んでくれたわけですから、そこはしっかり伝える責任があると考えています。

 「BOOKマラソン」の本は毎年入れ替え、代表の山本や役員が選んだ30~40冊から9冊ほどに絞り込みます。哲学的な本あり、歴史書あり、小説あり…と幅広いジャンルとなっています。ビジネスに直結するような、「読んだらすぐに役立つスキル本」はほとんどありません。ドリーム・アーツは、先に述べたような人間の“根っこ”を育てることが重要だと考えているので、人間的に豊かな人生を歩めるようになる本を選出しています。

ユニークな課題図書9冊

 それでは今年の「BOOKマラソン」で取り上げる9冊をご紹介します。

書名 著者 出版社
『京大的アホがなぜ必要か カオスな世界の生存戦略』 酒井敏著 集英社新書
『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』 P・F・ドラッカー著 ダイヤモンド社
『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』 森岡毅著 角川文庫
『なるほどデザイン 目で見て楽しむデザインの本。』 筒井美希著 エムディエヌコーポレーション
『驚きの皮膚』 傳田光洋著 講談社
『2050年 世界人口大減少』 ダリル・ブリッカー、ジョン・イビットソン著 文藝春秋
『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』 マシュー・サイド著 ディスカヴァー・トゥエンティワン
『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』 西林克彦著 光文社新書
『三流シェフ』 三國清三著 幻冬舎

 課題図書は毎年入れ替わりますが、『京大的アホがなぜ必要か』『なるほどデザイン』は、最近数年間、継続して選んでいます。

 なぜ、この9冊なのか、どういった内容なのかは次回詳しく説明します。

「社会人になって早いうちに読書習慣を付けてほしい」
「社会人になって早いうちに読書習慣を付けてほしい」
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取材・文/三浦香代子 写真/小野さやか