大企業向けに業務をデジタル化するクラウドサービスを提供するIT企業、ドリーム・アーツ。新人研修として、9冊の課題図書を読んで意見を交換する「BOOKマラソン」というユニークな取り組みを行っています。どのような本が選ばれているのでしょうか。ドリーム・アーツで人事部門を統括するHRD(Human Resources Development)グループリーダーの芳賀奈津美さんに聞きました。

課題図書の9冊

 前回 「ドリーム・アーツ 新人に読書習慣を付ける『BOOKマラソン』」 はドリーム・アーツの「BOOKマラソン」という取り組み、そして今年の課題図書、以下の9冊をご紹介しました。

書名 著者 出版社
『京大的アホがなぜ必要か カオスな世界の生存戦略』 酒井敏著 集英社新書
『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』 P・F・ドラッカー著 ダイヤモンド社
『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』 森岡毅著 角川文庫
『なるほどデザイン 目で見て楽しむデザインの本。』 筒井美希著 エムディエヌコーポレーション
『驚きの皮膚』 傳田光洋著 講談社
『2050年 世界人口大減少』 ダリル・ブリッカー、ジョン・イビットソン著 文藝春秋
『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』 マシュー・サイド著 ディスカヴァー・トゥエンティワン
『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』 西林克彦著 光文社新書
『三流シェフ』 三國清三著 幻冬舎
「BOOKマラソン」2023年の課題図書9冊
「BOOKマラソン」2023年の課題図書9冊
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 今回は、なぜこの9冊なのか、また9冊の中から特に『京大的アホがなぜ必要か』『驚きの皮膚』『三流シェフ』の3冊については、その理由を詳しく説明します。

 まず、『京大的アホがなぜ必要か』は、ここ数年、選び続けている課題図書です。「アホ」という言葉は非常にインパクトが強いのですが、本書では「常識や真面目さを疑おう」という意味で、愛ある言葉として使われています。

『京大的アホがなぜ必要か』(酒井敏著/集英社新書)
『京大的アホがなぜ必要か』(酒井敏著/集英社新書)
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 著者の酒井敏さんは京都大学大学院人間・環境学研究科の教授として、「京大変人講座」を開講していた方(現在は静岡県立大学グローバル地域センター特任教授 兼 副学長)。かつて、京大はもっといろいろとアホなことをしていた、だからこそ自由な学風が生まれ、さまざまな発見・発明ができた。しかし、今は何もかも秩序が求められる。ただ、実際の世の中は複雑であり、カオスである──アホの力こそ生き延びる戦略だと説いています。「すぐには役立たないことも将来につながる」といったことも書かれていて、私も人材育成を担当している者として身に染みます。

 「BOOKマラソン」で、最初に新入社員にこの本を読ませると、「ドリーム・アーツが社員に求めているのは、こういうことか」と腑(ふ)に落ちるようです。

なぜ皮膚の本なのか

 次は、『驚きの皮膚』です。著者の傳田(でんだ)光洋さんは資生堂リサーチセンター主幹研究員(執筆当時)で、皮膚研究の第一人者。実は皮膚には視覚、聴覚、さらには記憶し、予知する力がある──とさまざまな「皮膚感覚」について書かれている、とても面白い本です。

『驚きの皮膚』(傳田光洋著/講談社)
『驚きの皮膚』(傳田光洋著/講談社)
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 なぜ、IT企業の課題図書が皮膚なのかと思われるかもしれませんが、リベラルアーツに触れるという観点と、アナロジー思考を身に付けてほしいためです。アナロジーとは類推、類比ともいわれますが、アナロジー思考では別々の物事に類似点を見つけて、解決策を見いだします。例えば、本書では、人体を企業や組織に見立て、脳は「司令塔や本社機能」、手は「最前線」としています。

 ドリーム・アーツではアナロジー思考の研修もあるのですが、世の中にないサービスを生み出すには、今あるものから類推して、「こういうものができるのでは」とアウトプットする能力が必要です。新入社員にとって最初は難しくても、「BOOKマラソン」でディスカッションするなかで、「他の人はそう思うのか」「そういう考え方もあるのか」と気づきが得られ、だんだんと身に付いていくように思います。

希代のシェフと希代の編集者のタッグ

 そして、3冊目は『三流シェフ』です。こちらはフレンチのシェフ・三國清三さんの自伝です。三國さんは2022年末、37年間続いたご自身のレストラン「オテル・ドゥ・ミクニ」を閉じ、2024年に8席のみの新しいレストランをオープンする予定です。本書では極貧の幼少期、鍋磨きから始めたヨーロッパ修行、30歳での開業、ミシュランで星が取れなかったことへの思いなど波瀾万丈な人生について語られています。

『三流シェフ』(三國清三著/幻冬舎)
『三流シェフ』(三國清三著/幻冬舎)
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 読むほどに引き込まれ、とても勇気をもらえる1冊で、新入社員からも「感動した」という感想が多く寄せられます。しかし、「BOOKマラソン」で選んだ理由はそこではありません。「希代の料理人である三國シェフ」と「希代の編集者である見城徹さん」がタッグを組んだ1冊が、どれだけのインパクトがあるかを新入社員に分かってほしかったからです。このようなレベルの本を出せる手腕に注目し、新入社員がこの先、クライアントとサービスを“協創”するときに参考にしてほしいと思っています。

デザインからドラッカーまで

 以下、他の本についても説明すると、『なるほどデザイン』は「BOOKマラソン」では珍しく実用的な内容です。ドリーム・アーツにもデザイナーがいるため、「デザインというものをどう考え、何にこだわっているか」「デザインはかわいい、きれいだけではなく、どういった効果があるか」を理解するのに役立っています。

 『プロフェッショナルの条件』は著名経営学者、ピーター・ドラッカー氏の名著です。やはり名著と呼ばれる本には学びが多いですし、スティーヴン・R・コヴィー氏の『 完訳 7つの習慣 人格主義の回復 』(フランクリン・コヴィー・ジャパン訳/キングベアー出版)なども社会人になった最初のタイミングで読んでおくと、一生役立つと思います。

 『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』は、強い思いを持ちながらマーケティングをしていく、という森岡毅氏の姿勢に打たれます。多様性の本質とは何かを考えてほしいと『多様性の科学』も課題図書に入れました。

 『2050年 世界人口大減少』では、これから世の中がどうなるのか、そのなかでどのように長い社会人生活を送るかを考えるとともに、大局から物事を見るという視点を身に付けてほしいと思います。そして、『わかったつもり』は、いろいろな課題図書を読んで、「わかったつもり」になっていないか、改めて読解力とは何かを問いかける意味で選んでいます。

「世の中にないサービスを生み出すには、今あるものから類推して、『こういうものができるのでは』とアウトプットする能力が必要」だという芳賀さん
「世の中にないサービスを生み出すには、今あるものから類推して、『こういうものができるのでは』とアウトプットする能力が必要」だという芳賀さん
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 今まで読書習慣がなかった新入社員からすると、「BOOKマラソン」は慣れるまで大変なようです。そんなときは「1日5ページでも本を読むと、習慣化できるよ」と伝えています。新入社員だけではなく、中堅やベテランのビジネスパーソンの皆さんが読んでも面白い本ばかりですので、参考になれば幸いです。

取材・文/三浦香代子 写真/小野さやか