「半導体を、誰が、なんのために使ってくれるのか」という「次」を見つけないといけない。でも、そんなものが見つかるのだろうか――。日本の半導体復活の鍵を握るキーパーソンで『 半導体超進化論 』の著者、黒田忠広・東京大学大学院工学系研究科教授と、半導体をめぐる各国の駆け引きを著書『 2030 半導体の地政学 』で生々しく描いた太田泰彦・日本経済新聞編集委員が、日本の半導体活性化策を議論する。
半導体産業にもダイバーシティを
太田泰彦・日本経済新聞編集委員(以下、太田) 前回 「半導体 TSMC熊本進出とChatGPTで革命は起こるか」 はスマートフォンの次に来る「半導体を大量に使う製品」を見つけなくては──というお話を伺いました。スマホの次には何が来るんですか。
黒田忠広・東京大学大学院工学系研究科教授(以下、黒田) みんな、すぐに思い付かないんですよ(笑)。いや、何かは出てくるでしょう。今、自動運転で車に半導体が使われると期待されていますが、車はスマホのようにポケットに1つというレベルではありません。スマホに比べると、半導体の出荷数は1桁、2桁、少ないわけです。このまま半導体業界が巨大化して工場も巨大になる、設計も開発費も高騰する──となると、自分の重みでつぶれてしまうのではないか。
「半導体を、誰が、なんのために使ってくれるのか」という「次」を見つけないといけない。でも、そんなものが見つかるだろうか。半導体が巨大な恐竜のように滅びていくのでは…という危機感があります。
太田 どうすればいいのですか。
黒田 ダイバーシティが必要ですね。今後は「汎用チップを100億個作る」というビジネスは破綻するかもしれません。「100億人が専用チップを年間10個ずつ作る」という方向に切り替える必要があります。
太田 世界最大のファウンドリ(チップの製造を専門に行う企業)であるTSMC(台湾積体電路製造)が熊本に工場を作ります。日本では2022年8月に、半導体関連の主要企業8社の支援を受けてRapidus(ラピダス)が設立されました。ラピダスはTSMC、サムスン、インテルというメガファウンドリが競い合うビジネスに参入するわけですよね。きっと、同じことをやっても勝てないでしょう。ラピダス、ひいては日本の半導体産業は何をすればいいんでしょうか。
黒田 TSMCやサムスンが受注を請け負わないような、しかし、かつてのAppleのようなイノベーターたちの需要に応えるのが、生き残る戦略となるでしょう。そうしたイノベーターたちの中から、スマホに代わる次のすごい製品が出てくるような気もするんですよね。
「頭脳循環の万有引力」を起こせる場に
太田 黒田先生は著書『半導体超進化論 世界を制する技術の未来』(日経プレミアシリーズ)で、「頭脳循環の万有引力」という面白い表現をしていますね。会社がダイバーシティを意識し、いろんな人が集まると、新しい何かが生まれると。ラピダスはそういう場所になりますか。
黒田 ええ。汎用チップの一番の限界は、エネルギー効率の悪さなんです。誰もが使えるものは、個人に最適化されていないわけですから。だからGoogleやテスラは桁違いに効率の良くなる専用チップを作り始めています。この汎用チップから専用チップへ、という流れがラピダスの生まれた時代背景ともいえます。
TSMCやサムスンが請け負わないような専用チップ製造をラピダスが請け負う。そして、イノベーターたちが専用チップと同じぐらい必要としているのが「速さ」です。誰よりも早く市場に出し、フィードバックをもらい、改良していく。ラピダスはその「速さ」に付加価値を付けて、少量生産を引き受けることが新時代の戦略になるでしょう。
太田 そういえば、『半導体超進化論』によると、黒田先生も中国人の留学生に「先生、念入りに準備し過ぎです」と言われたとか。そこに日本人の良さと悪さがありますね。きっちりやりたいけれども、スピードが遅いという。AppleもマイクロソフトもバグだらけのOSを出すから、消費者として最初は腹が立ったんですが、最近は「こういうもんかな」という気がしてきました(笑)。
黒田 友人が、とあるソフトウエア会社に勤めたら、「社内バージョンが1万だった」と。つまり1万回も失敗し、トライ&エラーを繰り返している。これからはより一層、開発には速さが求められますが、かつてスティーブ・ジョブズやアラン・ケイが予言したように、ソフトウエアだけが更新されてもダメなんですよ。もちろん、ハードウエアの工場や開発環境が巨大化し、恐竜のように滅びの道を歩んでもいけません。ソフトウエアとハードウエアが融合して、更新されていくのが理想ですね。
前世紀と今世紀の違い
太田 なるほど。今は半導体の集積度を上げていった結果、いろんな問題も起きています。例えば、半導体の消費電力が増えて発熱が上限に達すると、その瞬間は電力を供給できない領域が発生し、集積度に応じた性能を発揮できない「ダークシリコン問題」もありますね。
黒田 持続可能性という意味で言うと、半導体のために電力をどんどん注ぎ込むというのは限界がありますね。やはり、前世紀と今世紀の違いは「エネルギー効率をいかに高めるか」です。前世紀は大量生産、大量消費、エネルギーはどんどん使え、というスタンスでしたが、今世紀はそれでは無理があります。
太田 ダークシリコン問題でふと思い出したのは、東日本大震災後の計画停電です。それまで電気はいくらでもあると思っていた。家電をオール電化にして、電気をどんどん使うことが豊かさだと思っていたけれど、それは違うと。これまでと異なる暮らし方もあると気づきましたが、そうした波が産業界にも来ているのかもしれませんね。
黒田 特に日本は資源がない国です。一番の資源は頭脳だったと思うんですが、今やその頭数も減ってきています。だからこそ、次の世紀をどうすべきなのかという情報発信が必要だと思いますね。
文/三浦香代子 写真/鈴木愛子 構成/堀口祐介(日経BOOKSユニット)
『 半導体超進化論 世界を制する技術の未来 』
半導体の民主化、汎用チップから専用チップへ、チップの構造改革、半導体キューブ――。日本の半導体戦略をリードするキーパーソンが、新しい半導体の世界、激変する環境、それへの対応策を明らかにします。産官学・理系文系の枠を超えて半導体に関わるあらゆる人にとって必読の書です。
黒田忠広著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)
米中対立の激化に伴い、戦略物資としての半導体の価値が高まっています。各国の思惑、最先端の技術開発の現場ルポなどを交えながら、技術覇権をめぐる国家間のゲームを、日経新聞編集委員が地政学的な視点で読み解き、日本の半導体の将来像を展望します。
太田泰彦著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)





