従来、地方自治体業務の制約は予算だと考えられていた。しかし、現在、深刻な人手不足が公共サービスの安定供給を脅かす懸念材料になっている。人口の反転の可能性がないなか、人口減少の著しい自治体において、今後は「カネ繰り=予算確保」よりも「ヒト繰り=人員の確保」が先行するかもしれない。『人口半減ショック 地域の新戦略 賢く縮み乗り越える』(田中秀明編著)から抜粋・再構成してお届けする。
地方自治体の公共サービス提供に懸念
地方圏、特に人材確保は人口の少ない自治体(市町村)ほど深刻になるだろう。図は住民人口と住民100人当たり公務員(一般行政職)定員数の関係を示している。小規模な自治体ほど人口に比して公務員の定員数が多いことが分かる。人口が減少しても、それに応じて人員を減じることができていないことが示唆される。こうした自治体は効率性が低いともいえるが、社会保障を含む公共サービスの提供には人口の如何(いかん)に拠らず一定の人員を要するだろう。
このことを勘案すれば、今後、さらに人口減少が進んで人員確保が困難になれば、必要な公共サービスが滞る懸念もある。これを避けるには小規模自治体間での合併を進めることも選択肢に入る。平成の大合併は地方分権の受け皿としての市町村の財源基盤の強化を図っていた。
令和の時代の自治体再編成は公務員人材の確保が狙いになるかもしれない。村上誠一郎総務相は衆院総務委員会において「(人口が半減すれば)今のような1700以上の市町村の構成は難しい。全国を大体30万-40万人の市で区切れば、300から400の市で済む。市と国が直結して交渉できるシステムが一番いいと思う」と述べている(朝日新聞2025年2月13日付)。
他方、合併には(平成の大合併時でもそうであったように)政治的な抵抗が大きく、それを促すための交付税の上乗せなど財政コストが高くつくことは否めない。合併という選択肢以外であれば小規模な自治体ほど前述の通り、都道府県レベルでの人材のプール化や自治体間での広域連携が必要となる。
自治体業務の制約はカネからヒトへ
無論、人口の減少を阻止すべく政府は「次元の異なる」少子化対策に取り組んできた。とはいえ、人口減が反転することは望めないだろう。財政制度等審議会においても「少子化対策に引き続き全力を尽くす必要があるのは言うまでもないが、その効果が顕在化するまではかなりの時間を要することから、当面は、日本において人口減少が進行していくことを前提に」すべきだという。
その上で、今後「担い手である生産年齢人口も減少する中にあっては、従来どおりの行政サービスを提供し、担い手の確保が困難であるから予算措置を講じて人材を確保する、といった手法は立ちゆかなくなる点を強く意識した政策の企画立案、社会の合意形成が必要となってくる」とする(*1)。
また、「人口戦略会議」(民間有識者グループ)によれば、全体の4割にあたる744の自治体で、2050年までに20代から30代の女性が半減、「最終的には消滅する可能性がある」とした分析を公表している(*2)。他方、市町村は少子化対策でもって人口減少が反転することを「前提」にした地域経済の活性化を期待していないか。
日本ではしばしば目標が前提に置き換わることがある。例えば、アベノミクスの「成長実現ケース」(名目成長率3%・実質2%)が財政運営の前提になるといった具合だ。リスクマネジメントの基本は「最善を期待して最悪に備える」ことになる。地方自治体(特に市町村)においても堅実な人口の見通しをもった財政運営が望まれる。
人手不足は自治体にとっての「制約」を変えるかもしれない。かつて政治学者のニスカネンは官僚が「予算最大化」するよう誘因付けられているとした。カネ=予算があればヒト=人員はおのずと割り当てられたこともあるだろう。しかし、今後は、特に人口減少の著しい自治体において、カネ繰り=予算確保よりもヒト繰り=人員の確保が先行するかもしれない。予算があっても人手がなければ、事務事業の実施がおぼつかないからだ。
*2 人口戦略会議「令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート―新たな地域別将来推計人口から分かる自治体の実情と課題」(2024年4月24日)
田中秀明編著/日本経済新聞出版/3630円(税込み)


