「売上を最大にして、経費は最小にする」。それがすべての経営の原点と理解した稲盛氏。売上が増えれば経費も増えるのは当然、ということではないのだ。そのためには、値決めに細心の注意を払う必要が出てくる。四半世紀にわたって売れ続けてきた『稲盛和夫の実学 経営と会計』(日経ビジネス人文庫)より、抜粋・再構成してお届けする。2回目は、稲盛氏が「利益が出る経営」を考えた背景を伝える。

売上を最大に、経費を最小に

 京セラを創業して間もなく、経理について何も知らなかったころ、私は「今月の決算はどうだったか」と経理の担当者に尋ねた。難しい言葉を並べて説明してくれるが、こちらは会計用語などよくわからない。利益といっても何種類もあって、それぞれに減ったり増えたりするという。

 難しそうな顔をしている担当者にいく度も質問を繰り返したあげく、「わかった。早く言えば売上から費用を引いた残りが利益だから、売上を最大にして、経費は最小にすればいいんだな。そうすればあなたが言ういろいろな種類の利益も、すべて問題なく増えるわけだ」と言った。それに対し経理担当者は「それはそうなんですけれど、簡単に言うことはできないんです」などと答えていたが、私はその瞬間に「売上を最大に、経費を最小に」ということが経営の原点であることを理解することができた。

 経営者は誰でも利益を追求するのだが、多くの経営者が売上を増加させようとすると当然経費も増えるものと思っている。これがいわゆる経営の常識なのである。しかし、「売上を最大に、経費を最小に」ということを経営の原点とするならば、売上を増やしていきながら、経費を増やすのではなく、経費は同じか、できれば減少させるべきだということになる。そういう経営がもっとも道理にかなっていることにそのとき私は気づいたのである。

 売上を増やしながら経費を減らすというのは、生半可なことでは達成できることではない。そのためには、智恵と創意工夫と努力が必要となる。利益とはその結果生まれるものでしかないのである。

値決めで失敗すると取り返しがつかないことも

 事業において、その収益源である売上を最大限に伸ばしていくためには、値段のつけ方が決め手となる。製品の値決めなど、営業担当の役員や部長に任せておけばいいと考える経営者もいるかもしれないが、私は「値決めは経営である」と思い、その重要性を訴えてきた。値決めはたんに売るため、注文を取るためという営業だけの問題ではなく、経営の死命を決する問題である。売り手にも買い手にも満足を与える値でなければならず、最終的には経営者が判断するべき、大変重要な仕事なのである。

 京セラは創業当時から電子機器メーカーに電子部品を納めていたが、電子部品の業界は新規参入も多く競争が激しいため、当時無名に近かった京セラに対して、いつも非常に厳しい値下げの要求があった。競合品があれば、天秤にかけられて、徹底的に値切られた。また、毎年毎年値段を下げられた。そうなってくると営業は、注文を取るために、いくらでも値段を下げていく。

 こんなことをしていたらどうにもならないので、私は「商売というのは、値段を安くすれば誰でも売れる。それでは経営はできない。お客さまが納得し、喜んで買ってくれる最大限の値段。それよりも低かったらいくらでも注文は取れるが、それ以上高ければ注文が逃げるという、このギリギリの一点で注文を取るようにしなければならない」ということを社内の営業部門に対して繰り返し強調した。顧客が喜んで買ってくれる最高の値段を見抜いて、その値段で売る。その値決めは経営と直結する重要な仕事であり、それを決定するのは経営者の仕事なのである。つまり、売上を最大にするには、単価と販売量の積を最大とすれば良い。利幅を多めにして少なく売って商売をするのか、利幅を抑えて大量に売って商売をするのか、値決めで経営は大きく変わってくるのである。

 値決めで失敗すれば、あとで取り返しがつかないこともある。あまりにも安い値段を設定してしまい、どんなに経費を削減しても採算を出せない場合もある。また、高い値段をつけすぎて、山のような在庫をかかえて資金繰りに行き詰まるケースもある。

 このように、経営において値決めは最終的に経営者自らが行わなければならないほど重要な仕事なのである。個々の売値の設定を経営上の重大問題とする考え方は、京セラにおいて深く浸透しており、これが在庫評価の考え方、採算管理システムのあり方など、京セラの会計に大きな影響を与えている。

「夜なきうどん」を売るがごとく

 売値の決め方に知恵を絞り、経費を最小とするよう努力していく例として、私は会社の幹部にしばしば「夜なきうどんの屋台を引く」という話をした。経営者を育てるためには、極論ではあるが、うどんの屋台を引っ張らせて街角でうどんを売らせるという方法が効果的な実習となるだろうと考えたからである。

 5万円なら5万円の元手を出して、「しばらく会社に出てこなくてもよろしい。屋台一式を貸すから、1カ月間毎晩、京都のどこかでうどんを売ること。この5万円を1カ月後、いくらにして持って帰ってくるのかが実績だ」と実地訓練に送り出す。

 まず一番に来るのは仕入の問題である。最初にうどん玉を買わなければならない。製麺所まで買いにいくという方法もあれば、スーパーで売っている生麺を買ってくる方法もある。固い干し麺を買ってきて、ゆがいて出すことも考えられる。

 次はだしである。いい味を出すためにはだしがポイントとなる。高い鰹節を買ってくる者もいれば、鰹節を削っているところで屑をもらってくる者もいるだろう。同じ美味しいだしを出すにしても、工夫によって全然違う。原価を安くしていかにいい味を出すかの創意工夫が必要となる。

 「かまぼこ」や「揚げ」や「ネギ」にしても、スーパーマーケットに行って買ってくる者もいれば、工場や農家から直接仕入れてくる者もいるだろう。このように材料の仕入れにしても、いろいろなやり方がある。

 そして、肝心なのが売値である。一杯300円の「夜なきうどん」もあれば、500円のものもある。安ければいくらでも売れるだろうが、利益を得ることはできない。お客さんを満足させて売れるベストの値段を探し出さなくてはならない。

「夜なきうどんの屋台を引く」ことが、会計の勉強には一番ふさわしい(写真:Tanont/stock.adobe.com)
「夜なきうどんの屋台を引く」ことが、会計の勉強には一番ふさわしい(写真:Tanont/stock.adobe.com)
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商売を大きくするも選択しだい

 このようにうどんの屋台ひとつでも、いろんな選択肢がある。一晩に出てくる差はわずかでも、年間にすればものすごい差になってくる。だから、屋台から大きなフランチャイズ・チェーンに発展させる人もいるし、十何年屋台を引いて何も財産を残せない人もいる。いい商売、悪い商売があるのではなく、それを成功に導けるかどうかなのである。売上を最大にするように正しい値決めができれば、あとは「経費を最小に」を徹底して行っていけば良い。

 企業の会計は、この「売上を最大に、経費を最小に」という経営の原点を経営者が効率よく追求できるようにしたものであり、しかもその成果を明瞭に表現しているものでなければならない。これが京セラの会計システムを貫く考え方である。この考え方は京セラの管理会計システムである「採算制度」において、端的な形で表現されている。

会計がわからんで経営ができるか!

バブル経済に踊らされ、不良資産の山を築いた経営者は何をしていたのか。儲けとは、値決めとは、お金とは、実は何なのか。ゼロから経営の原理と会計を学んだ著者の会心作。

稲盛和夫著/日本経済新聞出版/576円(税込)