両立することが難しい二兎を追い、成功させることがイノベーション――。シリーズ累計33万部の『 マンガ ビジネスモデル全史〔新装合本版〕 』(画・飛高翔/シナリオ・星井博文)の発売を記念し、著者である三谷宏治・KIT虎ノ門大学院教授による刊行記念講演「ビジネスモデルの本当の意味」が行われました。その内容の一部をお届けします。

戦略とは何かを捨てる決断をすること

 戦略とは捨てることで、トレードオフです。何かお客さんにとって重要な価値観が2つあるとしましょう。例えば、飲食で言えば、安いこと、おいしいことという2つの価値があります。これらを両立させることは結構大変です。なぜなら、おいしいものを提供しようと思えば、普通は高くていい食材を使わなければなりません。こうした両立しづらい価値のどちらかに振ることが、基本的な戦略論の考え方です。

 「二兎を追う者は一兎をも得ず」。ウサギはとても足が速いため、二兎を追ってしまうと、1匹も捕らえられないという意味です。つまり、戦略とは捨てることで、英語で言えばトレードオフです。

 マイケル・ポーターは常に、「きちんとトレードオフをしよう」と言っています。ハードチョイスとも呼びました。血を流すような、怖い大きな決断です。一方に振るということは、もう1つの方法は諦めるということです。彼は、そういったことを日本の企業はできなかったから失敗したのだとも言っています。その通りかもしれません。

戦略とは捨てること(写真/Shutterstock)
戦略とは捨てること(写真/Shutterstock)
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「二兎とも得る領域」に挑む

 両立することが難しい二兎を追い、成功させることがイノベーションです。かっこいいかもしれませんが、その代わり失敗の確率が上がります。このことがなぜイノベーションになるのかと言えば、両立させた人がそれまで誰もいないからです。

 なぜ両立させた人が誰もいないのでしょう? 誰もやったことがないのでしょうか。そんなことがあるはずはありません。きっと誰かがやってみたことがあるのでしょう。しかしできないので、そこは両立しづらい場所となっているのです。

 W・チャン・キムとレネ・モボルニュという経営学者は、これをバリュー・イノベーションという考え方としてアメリカで発表したのですが、残念ながら注目されませんでした。そこで、アメリカからヨーロッパに移り、フランスの大学院であるINSEADで研究を続け、少し名前を変えてみました。それが「ブルーオーシャン戦略」です。誰も競合がいないところを「ブルーオーシャンだ」と言ったのです。そうすると非常に注目されました。やはりネーミングは大事なのだと思います。

『エクセレント・カンパニー』のその後

 さて、経営戦略論の弱点として、その戦略がどれだけの期間有効であり続けるかという問題があります。例えば『 エクセレント・カンパニー 』(トム・ピーターズ、ロバート・ウォータマン著/大前研一訳/英治出版/原著は1982年刊)で優良企業として挙げられた43社は、5年後、同じ優良企業の定義になんと20社しか残りませんでした。さらに10年後はたったの5社でした。わずか5年で半減、そして15年で9割減です。

 これは、ある経営戦略論がどれぐらいもつのか、1つの側面を表しています。この期間はどんどん短くなっているのでしょう。

ビジネスモデルの論文が急増した時期

 1991年を境に、「ビジネスモデル」という言葉がどんどん使われるようになりました。なぜなら、インターネットによるビジネスが勃興したためです。インターネットの時代が始まり、多くのITベンチャーが生まれました。そして、ITベンチャーが「これはビジネスモデルを変えるのです」とプレゼンすると注目を浴びるということが分かり、皆がどんどん使うようになりました。

 ビジネスモデルに関する論文の数を調べると、1990年代後半から急増していたのが、2001年にどんと1回下がっています。なぜかというと、急激に増加したITベンチャーたちが、突然いなくなるという事件が起きたからです。いわゆるITバブルの崩壊です。

(作成)三谷宏治
(作成)三谷宏治
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 日本では当時、ITベンチャーが多くなかったため、そんなに大変に感じなかったかもしれません。しかし、欧米では、BtoCだけではなくBtoBのITベンチャーがたくさん生まれており、その中でこの波を乗り越えられたものは、100社に1社といったレベルだったそうです。BtoCで最も有名だったAmazonすらその洗礼を受けて、株価が急激に下がりました。

ビジネスモデルの500年史

 以下の通り、ビジネスモデル革新の歴史を表にまとめてみました。

ビジネスモデル革新の歴史
ビジネスモデル革新の歴史/(出所)『マンガ ビジネスモデル全史』(日本経済新聞出版)
(出所)『マンガ ビジネスモデル全史』(日本経済新聞出版)
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 売り方やつくり方、決済・資金、儲(もう)け方など、様々な分野で革新が起きています。すごいのは、重要なビジネスモデルで100年も前に生まれているものがあって、現代の我々はそれに支えられて生きているということです。

 この表は、20世紀に入ってからは10年ごとですが、1990年からは5年ごとになっています。そして2000年から2005年に急激に増えていて、2010年から2023年までは、そんなに多くありません。つまり、この十数年、インターネットが爆発的に普及した時代と比べると、新しいビジネスモデルが生まれていないのです。

構成/永野裕章(日経BOOKSユニット)

『経営戦略全史』に続く第2弾

シリーズ累計33万部のベストセラー『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』シリーズの新装マンガ版が発売! 14世紀イタリア・メディチ家から21世紀のテック企業まで世界の歴史を変えたビジネスモデルを一気読み。

三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画/日本経済新聞出版/2090円(税込み)