CTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)には読書家が多い。技術書、プログラミングの指南書、事業運営に関する本、組織運営に関する本……。CTOの本棚には、テクノロジー系企業運営の知識が詰まっているはずだ。

 「ならば、今、注目されているCTOに話を聞けば、面白い本を紹介してもらえるのではないか?」

 この連載の1人目として登場いただいた松本勇気氏の選書は、まさにそのアイデアが正しかったことを証明してくれた。LayerXの代表取締役CTOを務める松本氏は、多忙な毎日の中でも寸暇を惜しんで本を読むという。今回の選書も、選りに選った約20冊の中から、さらに絞って6冊を厳選いただいた。

松本勇気(LayerX CTO)
松本勇気(LayerX CTO)
株式会社Gunosy、合同会社DMM.comのCTOを経て、2021年3月よりLayerX 代表取締役CTO就任。開発や組織づくり、及びFintechとAI・LLM事業の2事業の推進を担当。2019年日本CTO協会理事に就任。

エンジニアだからこそ、コミュニケーションは必須

 本を読むのは昔からとても好きですね。

 今はKindleがあるので、いろんなシチュエーションで読みます。電車でも読むし、タクシーでも読むし。歩きながらでも読みたいほどです。

 読みたい本が溜まってしまったら、温泉宿に泊まり込んで本を読み続けたりすることもあります。妻も本好きなので、2人で定期的に温泉に行って、本を読むこともありました。比較的近いカテゴリーですが、でも違う本を読むので、妻に本を薦めてもらうこともあります。今は、7歳と2歳の子どもがいるので彼らと過ごす時間も大切にしていますが、それでもすき間時間を見つけて読み続けています。

 会社の自席の近くには、本がたくさん置いてあります。前職では「CTO文庫」という本棚を設けて、他の人が自由に借りられるようにしていました。そして、状況に応じて「その人が、今読むと良いだろうな」と思った本を薦めていましたね。

 例えば、初めて部下を持ってマネジメントに悩んでいる人がいたら「私も困ったとき、これを読んでいたよ」と、その人の悩みを解決するヒントになるような本を。業務を進める中で戦略を立てる立場になった人にはそのヒントになるような本を……という感じです。

 シチュエーションによって、刺さる本って違うと思うんです。私も、最初に読んだときはよくわからなくても、苦しんでいるときに読み直してみると骨身に染みたりすることがあります。だから、読む状況も大事だと思います。

 今回のチョイスはとても悩みました。たくさんある本の中から、何十冊か選んで、その中で内容的にバランスよく、いろんな分野に触れられるように選びました。それでも10冊以上あったのですが……なんとか厳選して6冊に絞りました。まずは、そのうちの3冊をご紹介しましょう。

世界を「システム」として考える思考法の基礎

『世界はシステムで動く――いま起きていることの本質をつかむ考え方』(ドネラ・H・メドウズ著、英治出版)
『世界はシステムで動く――いま起きていることの本質をつかむ考え方』(ドネラ・H・メドウズ著、英治出版)

「そう、気をつけてくださいね! いたるところにフィードバック・ループが見えてくるようになったら、アブナイことに、すでに“システム思考家”になりかけているのかもしれませんよ!」


 これは、私が一番よく人にお薦めする本ですね。システム思考についての本です。

 「成長の限界」という、このままわれわれ人類が地球の資源を使い続けるとどうなるか……ということを研究したチームがいるんです。有名な『もし、世界が100人の村だったら』の元になった研究です。この本は「成長の限界」を書いたのと同じチームの人たちが書いています。

 その根底にあるのがシステム思考です。「物事はすべてシステムとして連携している」という考え方ですね。

 物事をシステムとして捉えると、どこに問題があるのか見えてきます。例えば、仕事の中で、とあるKPIが達成されていないとき。システムとして全体を考えると「ここにボトルネックがあるよね」「このユニットのパフォーマンスが悪いよね」というのが見えてきます。症状に対してその場しのぎの対症療法を取っても解決しません。全体のパターンを見て、根本的な問題を解決する必要があります。

 私自身、業務にあたる中で「根本的問題はどこにある?」と、自分の中で課題を整理するためのフレームワークとして、この本の考え方を頻繁に使っています。この本に出てくる「物事が連鎖しながらひとつの世界を作っている」という考え方が私のベースになっています。最初に読んだとき、とてもインパクトがありましたね。

 教科書的に、実際の事例を元にしたパターンがいくつも説明されています。「たしかにこうやって遅れが発生するよね」「なるほど、こうやって在庫の問題が発生するんだ」「そう、解決しても、いつの間にか元の状態に戻ってしまうんだよね」など、実際に体験したことがあるような実例が出てきます。そういう実際の課題を、うまく自分の頭で整理するための教科書ですね、この本は。

 課題に直面したときに「このパターンに当てはめたら、ここに課題があるはずだから、ここをチェックすればいいんじゃないか?」ということがわかる。実際に会社を経営していると、やっぱり対症療法をしてしまいがちなんですよ。「ちょっと売り上げが足りないから埋め合わせよう」とかですね。そうではなくて「もっと手前でユーザーが離れていっている課題を解決しよう」とか「ユーザーが離れている理由はここにあるよね」とか。「ほかの詳細データを見るとこういう仮説が立てられるから、このボトルネックから優先順位をつけて解決していこう」など、問題を論理的に整理するためのいい道具です。

 この本は、あらゆるスタッフに薦めていますね。すべてのビジネスの基本だと思います。

新たなアイデアを生み出す「SHIFT」な考え方を習得

SHIFT:イノベーションの作法』(濱口秀司著、ダイヤモンド社)

『誰も思い付かなかった方向』を見つけ出し、『適切な大きさ』に調整してSHIFTが実現された時、それは結果としてイノベーションと呼ばれる可能性が高い。


 私が勝手に師匠と呼んでいる濱口秀司さんの本です。

 濱口さんはUSBメモリーやマイナスイオンドライヤーを作った人として知られていますが、イノベーション・シンキング(変革的思考法)の第一人者です。ビジネス全体を見渡して、仕組みのデザインを含めて解決策を作る人。文字通り、考え方を「SHIFT」して、これまでになかった解決策を生み出す考え方が記されています。

 もともと、文章を書くのが仕事の人ではないから、誰かに「なんとか、その考え方を本にしてほしい」と乞われて書いたんじゃないかと想像しています。普段あまり考え方を外に出す人ではないから。本当にそうなのかは、ご本人に聞かないとわかりませんが(笑)。

 いろんな業界で役に立つ本だと思います。私はアイデアを考えるときにとても参考にしています。もともと濱口さんには対面でもいろいろと教えてもらったのですが、彼は「案件ごとに新しいフレームワークを作っている」と言っていました、だから、本に出ているのもあの時点までに作ったフレームワークでしかないのですが。

 濱口さんは「あっ!」と驚く答えを探索するのがとても上手い人です。

 そこにある課題をヒアリングして整理する。そうすると軸が見えてきます。人間は、必ずバイアスとしてトレードオフがあると捉えてしまう。「Aを優先するとBが達成できない」「Bを優先するとAが達成できない」というように。そんなときに「AもBも捨ててしまおう」とか「AもBもどっちも取れる方法」を考えてみたりとか。「なぜそれができないのか?」と、これまでなかった視点を得る方法を教えてくれる本です。

 自分でも、物事を整理して、新たな視点を見つけていく、新しい解決策があるんじゃないかと発想を転換していくと「たしかにこういう売り方があったね!」とか「こういうプロダクト作りの方法もあったな」ということに気が付きます。

 「自分の頭の中にこういうバイアスが今あるんだな」ということを見つけて「そのバイアスを破壊するために、こういうアイデアを考えてみよう」とか、ひっくり返してみようとか、新しい軸を導入しようとか。アイデアを論理的に発展させていくと、面白い解決策が出てくることがけっこうあるんですよね。頭の体操にとてもいい本だと思います。

 もちろん、これを実際のビジネスに当てはめていくと、反対する人、反論する人がたくさん出てきます。昔は、頑張って論理で説得しようとすることが多かったのですが、今はあまりしていません。論破は誰も幸せにしませんし、結局物事が動かなくなっちゃうことが多いんです。

 やっぱり人は、納得と共感で動きます。その人の内側から「これをやろう」と思ってもらうことが大事だと思うんです。最終的には、事例や動くものを見せるのが一番。これはエンジニアであることのメリットで、カタチを持ってきて「こう動くでしょ」っていうのが一番説得力ありますよ。モノづくり人間の矜持(きょうじ)としてそう思います。

 経営者の方はもちろんですが、新しい施策を考えなきゃいけない、新しい道を切り開かなきゃいけないという業務に取り組んでいる人にお勧めしています。プロダクトを作っていて行き詰まったときには、必ず思い込みがあるはずです。そういうときに、違う軸から考えれば「こういう方法があるじゃん!」という視点を生み出せます。イノベーションというほど大それたものでなくても、新たな視点があれば、解決する問題って多いんです。

「書く」ことは「考える」こと。早くに身に付けるべき技術

『[新版]考える技術・書く技術』(バーバラ・ミント著、ダイヤモンド社)
『[新版]考える技術・書く技術』(バーバラ・ミント著、ダイヤモンド社)

 わかりやすい文書は、主題に関するさまざまなメッセージ同士の関係を正確にわかりやすく表現することから生まれます。正しく構成すれば、これらのメッセージは常にひとつの考えを頂点とし、いくつかの要約層で成り立つピラミッドを形作ります。


 人間の脳の仕組み上、記憶をそのまま文章にできるわけではありません。自分なりの理論として整理して、初めて文章にできる。書く技術を身に付けるというのは、そのトレーニングだと思うんです。

 「書く」というのは、思考を整理する上でとてもいい習慣になります。だから、私は非常にたくさん文章を書くんです。今も1冊本を書いていますし、ソフトウエアを活用した経営についてのブログも、80~90回ぐらいの連載になっています。このブログは頭の中のフレームワークをいったん棚卸しする意味で書いています。自分の考え方も整理されるし、仕事にもフィードバックされる。当然ながら、それをほかの人が読むと、私の考えていることも伝わりやすいということもあり、社内にも公開しています。

 自分の考えていることを文章にして、それを人に伝えられるようになると、経営者としても、マネージャーとしてもメリットは大きいんです。いちメンバーとして、チームに意思を伝える上でも役に立つし、ほかの人と折衝する際にも効果は大きいと思います。けっこう「文章を書くのが苦手」とおっしゃる人もいらっしゃいますが、そういう方にこそ役に立つ本だと思います。

 最近は文章を書くのに生成AIも使ったりしますが、私は最後の肉付けに使うくらいです。実はこれって生成AIを上手く使うためにも大事なテクニックで、結局、生成AIは指示が論理的でないと正しく伝わらないので、本書で説明されているような「論理的に考えて、文章にするフレームワーク」はとても大切なんです。

 いろんなステップの人に読んでほしいとは思いますが、特に新卒の方には必ず読んでほしいと伝えています。仕事では、レポートや仕様書など、文章を書く機会が多いので、わかりやすく論理的な文章を書く能力はとても大切です。だから、新卒研修などでもお薦めしています。

(後編に続く)

取材・文:村上タクタ/写真:尾関祐治(人物)、スタジオキャスパー(書籍)/構成:西 倫英=日経BOOKSユニット第2編集部