日本はWeb3.0(Web3)から取り残されてしまったのか。それとも、まだ巻き返す可能性はあるのか。人々の生活がバーチャル空間へと移行するなかで、残るものと残らないものは何が違うのか。コインデスク・ジャパン編集長の佐藤茂さんと、書籍『 仮想通貨とWeb3.0革命 』(日本経済新聞出版)の著者、千野剛司さんが対談し、様々な視点から語り合いました。本書から抜粋、再構成してお届けします。

日本はWeb3で巻き返せるか

千野剛司さん(以下、千野) 前回「 Web3.0が迫る分散型社会 日本の難題をどう乗り越えるか 」で、日本は大変だ、もうWeb3に取り残されるんじゃないかと話しましたけど、私自身もまだまだ日本は捨てたもんじゃないぞ、と思っています。というのも、Web3と日本はかなり親和性の高い国だからです。そもそもビットコインの開発者がサトシ・ナカモトという日本人の名前です。サトシ・ナカモトが実在の人物かどうかは分かりませんが。

 NFT(非代替性トークン)のコレクションも、日本の名前を使ったものがかなり人気になっている。DeFi(分散型金融)ではスシ(寿司)スワップというものがあり、仮想通貨のドージコインは柴犬がマスコットです。いろんな日本的なものがブロックチェーン界隈(かいわい)では使われています。

 多分ブロックチェーンの開発をしているような人たちは、かなり日本文化の影響を受けている。それはアニメだったり、漫画だったり、キャラクターや映画だったり、いろんなものがありますが、きっと彼らの中においては、日本的なものはアイコニックな存在で、そういった名前がプロジェクトに付いているんだろうと。

 コスプレなど日本のIP(知的財産)コンテンツはすごくいろんな人に受け入れられているのに、悲しいかな、ここをお金に変える力が弱いんですよね。経済産業省が「クールジャパン」をやっていますけど、国がクールって言った瞬間にクールじゃないっていう悲しい状態に(笑)。

 クールって他人が言うからクールなのであって、自分で言ったらダメですよ。IPコンテンツをどうやって売っていくかが長年の課題でしたが、Web3が進展する中で非常にやりやすくなっているはずなんです。

「日本にもまだ希望はある」と語る千野さん(左)と佐藤さん
「日本にもまだ希望はある」と語る千野さん(左)と佐藤さん
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佐藤茂さん(以下、佐藤) 日本に希望はあると。Web3上にダップス(DApps=分散型アプリケーション)が生まれていますけれども、これからの若い人は、「僕はこっちのプロトコルの思想が好きなんだよね」「僕はここのプロトコルで収入を得るけど、こっちのコミュニティの考え方が好きなんだよね」というように、プロトコルの存在感が強くなってくるんでしょうね。ちょっと話が飛んじゃうけど、そうすると男女の恋愛も変わってくるんじゃないのかなあ。

千野 メタバースでマッチングアプリ的なものは間違いなく出てくるでしょうね。実際、人々の生活がバーチャル空間へ移行していますよね。究極的には、朝起きたら、ゴーグルをつけてアバターが出社する、アバター同士で会話してミーティングという世の中が来るかもしれないし、技術的には可能です。

佐藤 恋愛って価値観や思想も大事ですからね。ところで、コミュニティ活動がだんだんと分散化すると、経済活動も分散化するんでしょうか。資本主義経済だと、小さくても強い企業はM&Aを通じてどんどん大きくなり、100あった企業数は20になっていきますよね。でも、Web3で分散化されるとなると、これは経済学的には、どう定義されるのでしょうか。小さな社会主義経済が分散的に存在していくのでしょうか。

千野 DAO(分散型組織)は資本主義だと思います。基本的に企業活動がオンライン上に移行して、国籍とか今あるヒエラルキーが存在しない、非常にフラットな組織になっただけで。資本主義がDAOによってなくなるとは思いません。ただ、感覚的にはグローバルのコングロマリットみたいなDAOが出てきて、すべて支配するということにはなりにくいのではないかと。

「資本主義がDAOによってなくなるとは思いません」と語る千野さん
「資本主義がDAOによってなくなるとは思いません」と語る千野さん
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佐藤 例えば、家族間でも、お父さんは仮想通貨のソラナの世界で生きる。お母さんはイーサリアム、子どもたちは全然別のブロックチェーン……という見たこともない世界が来るのかな。

千野 そうなっても、チェーンとチェーンをつなぐブロックチェーンとかあるから、大丈夫ですよ(笑)。ただ、すべての行動がブロックチェーンで記録される、改竄(かいざん)できないとなると生きづらいですよね。

 これからはオンチェーンとオフチェーンの切り替えがすごく重要になってきますよね。Web3では「オフチェーンの自由」が、1つの論点になるかもしれないですね。

文/三浦香代子 構成/雨宮百子(日経BOOKプラス編集部) 写真/小野さやか

出遅れた我々に、復活の道はあるのか?

DAO(分散型自律組織)、NFT(非代替性トークン)、ステーブルコインほか、仮想通貨とWeb3をめぐる最新の動向を解説。米大手暗号資産取引所の日本代表だから語れる、金融とITの未来!

千野剛司(著)/日本経済新聞出版/1980円(税込み)