統計分析に苦手意識を持つマーケターは少なくありません。しかし、調査結果やデータを正しく読み解き、根拠ある意思決定を行うためには、統計の基本的な考え方を理解しておくことが欠かせません。特に生成AIが普及する中、AIが示す分析結果をうのみにせず、自ら判断する力がますます重要になっています。本連載では、『 文系マーケターのためのゼロからわかる統計分析 』から一部を転載し、統計知識のない文系ビジネスパーソンに向けて、マーケティングに役立つ統計分析の基礎や学び方を対話形式で分かりやすく紹介します。[日経クロストレンド 2026年8月19日付の記事を転載]
統計分析が苦手なままでいいですか?
困ったなぁ。
西川英彦教授(以下、西川) どうしました?
マーケティングの報告書を読むと、調査データのところに統計分析の結果が書かれているんです。
西川 調査データや、そこから導かれる結論がどの程度信頼できるかを確かめるには、統計分析が欠かせませんからね。
でも、難しい専門用語や数字がずらっと並んでいると、文系の私にはもうチンプンカンプンです。
西川 なるほど。難しい専門用語や数字から入るのではなく、マーケティングの調査や戦略づくりに生かせる程度の理解で十分、ということですね。
そうなんです。専門家レベルじゃなくて、意味がわかれば十分です。
西川 それなら大丈夫です。文系の方でも、基本的な統計分析の考え方を理解して、簡単な分析ができるようになるのは、それほど難しいことではありませんよ。
統計の知識がゼロでも?
西川 ゼロからでも問題ありません。
でも、統計って難しい計算をするイメージがあって……。なんだか数式はどうも苦手です。
西川 心配いりません。中学で習う数学の知識があれば、統計分析がどんな考え方で計算され、どのように結果が導き出されているのかは、十分イメージできます。
式が難しそうですが……。
西川 少し難しい式が出てくることもありますが、その式が何を意味しているのかがわかれば大丈夫です。
なるほど。考え方がわかればいいのか。
西川 そうです。式そのものよりも「なぜその分析をするのか」を理解する方が、マーケティングではずっと重要です。
でも……。
西川 何か気になりますか?
マーケティングの資料って、棒グラフに差があれば、「効果があった」と書かれていることも多いですよね。本当にグラフだけで、そう判断していいのでしょうか?
西川 そこが重要です。ただ、その差が「たまたま生じたもの」なのか、「統計的に意味のある差」なのかは、見た目だけではわかりません。
じゃあ、数字の読み方を知らないと、判断できないということですか?
西川 その通りです。この本では、「結果をうのみにしないための統計分析の見方」、つまり、データの結果をどう読み、どう判断するかを身に付けてもらうことを、とても大切にしています。
それなら、ぜひ知りたいです。でも、計算はどうも苦手で、分析できないかも……。
西川 実際の計算は、無料の統計分析ソフト「R」(アール)に任せてしまえば大丈夫です。データを入れて実行すれば、面倒な計算はRがやってくれますし、結果もきちんと表示してくれます。
Rって、難しそうですが……。
西川 最初は少し戸惑うかもしれませんが、基礎からゆっくり試していけば、誰でも使えるようになります。自分で操作してみると理解がぐっと深まり、データ分析がだんだん楽しくなってきますよ。
苦労はしたくないけど、最小限で身に付くならうれしいです。
西川 では、学びの段階を次の3つに分けましょう。
・基礎編:調査レポートや資料に書かれた統計結果の意味を理解する
・Rで実践:実際にRを使って統計分析を行ってみる
・より深く:統計分析の考え方をもう一歩深く理解する
「基礎編」だけでも、大丈夫ですか?
西川 はい。「調査レポートに書かれた統計結果の意味がわかればいい」という方なら、基礎編だけで十分です。
「Rで実践」は、その次の段階なんですね。
西川 その通りです。実際にRを使ってみることで、「基礎編」で学んだ知識がより実践的に身に付きます。
生成AI時代にRを学ぶことに意味はあるのか
Rが計算してくれるなら、あとはラクですね。でも、最近だと生成AI(人工知能)を使えば、そもそもRを使わなくてもよさそうなものですが?
西川 確かに、生成AIの進化はすさまじいですし、誰でも簡単に使えて便利ですよね。分析の手順を教えてくれたり、結果の説明をしてくれたりします。ただ、生成AIをうまく活用するためにも、統計の基礎は必要です。理由は大きく2つあります。
2つですか?
西川 1つは、生成AIが示した分析結果をうのみにしないためです。その分析が適切かどうか、出てきた数字や結果をどう読みとるべきか、その結論をマーケティングの意思決定に使って構わないかどうかは、自分で判断しなければなりません。
生成AIの説明はわかりやすくて助かるのですが、出てきた結果をうのみにしてはいけないということですね。
西川 はい。もう1つは、日常の業務の中で「これはデータで調べられるかも」と気付くためです。どんな分析で何がわかるのかを知らなければ、現場の違和感にそもそも気付くことも、それを問いにして調査や分析につなげることもできません。
確かに、分析できると知っているからこそ、現場の違和感に気付き、それをデータで調べてみようと思うのかもしれませんね。
西川 その通りです。そうした問いがあってはじめて、生成AIに分析を手伝ってもらうことができます。
結局、何を調べたいのかが曖昧なままでは、生成AIをうまく使えないわけですね。
西川 そうです。そして、Rを使って自分で分析してみると、データから結果が出てくるまでの流れを体感できます。その経験があるからこそ、生成AIの分析結果も、自分の頭で確かめながら使えるようになるのです。
だからこそ、実際にRを使ってみることに意味があるんですね。では、最後の段階、「より深く」は?
西川 さらに理解を深めたい人のための内容です。マーケティングに役立てるという目的なら、「基礎編」と「Rで実践」で十分です。
なんだかワクワクしてきました。知識ゼロからでも自分で分析までできるようになるんですね。
西川 順を追って理解していけば、誰でもできるようになりますよ。
ぜひ教えてください。
西川 では、一緒に統計分析の世界をのぞきにいきましょう。
データをわかりやすく整理する記述統計
西川 これから様々な統計分析について解説していきますが、最初に知っておいてほしいことがあります。
何でしょうか?
西川 統計分析には、大きく2つのタイプがあるということです。
2つのタイプ?
西川 はい。1つは「記述統計」、もう1つは「推測統計」です。
記述統計と推測統計って、どう違うんですか?
西川 その前に、よく登場する言葉を2つ説明しておきますね。
専門用語を知らないので、助かります。
西川 1つ目はサンプルで、標本とも呼ばれます。これは調査で実際に集めたデータそのもののことです。例えば、100人にアンケートして集まった100件の回答がサンプルです。
調査で手に入れたデータがサンプルなんですね。
西川 はい。そして2つ目は母集団。これは、本当は調べたい対象の全体のことです。例えば「都内に住むZ世代の意識を知りたい」としたら、都内のZ世代全員が母集団になります。
全員に聞ければ一番よいけれど、実際には難しいので、一部の人に聞くということですね。
西川 まさにその通りです。では、この2つを踏まえて説明しますね。記述統計は、手元に集めたデータであるサンプルの特徴を、図表や数値で整理して示す統計です。
手元のデータをわかりやすくまとめる、ということですね。
西川 はい。一方の推測統計は、手元のサンプルを手掛かりに、本当は知りたいもっと大きな全体(母集団)の特徴を、確率にもとづいて推測する統計です。簡単にまとめると、こんな感じです(図表Ⅰ.1)。
なるほど。役割が違うんですね。
西川 では、まず記述統計をもう少し詳しく説明しましょう。マーケティングでアンケート調査などを行うと、集まるデータはかなりの数になりますよね?
確かに、アンケートでは、できるだけたくさんデータを集めようとしています。
西川 はい。ただ、たくさん集まったデータを、生の数字のまま見せられたらどうですか?
数字がただ並んでいるだけでは、何をどう見ればいいのかわからないので、困ってしまいます。
西川 だからこそ、「このサンプルからわかる特徴は、要するにこうです」と整理してくれるのが記述統計です。
具体的には、どうやって特徴を記述するのですか?
変数は「質的変数」と「量的変数」に分かれる
西川 特徴を記述するには、まず「変数」を理解する必要があります。
そもそも「変数」って何ですか?
西川 例えば「数学のテストの点数」といっても、56点の生徒もいれば83点の生徒もいて、点数にばらつきがありますよね。
確かに、人によって違いますね。
西川 また「毎日のお弁当の売上」も、日によって数字が変わります。このように、状況によって値が変わるものを「変数」といいます。
なるほど。変わる数だから変数なんですね。
西川 はい。そして、こうした変数の値をたくさん集めたものを「データ」と呼びます。
なるほど。
西川 こうした変数は「質的変数」と「量的変数」に分けられます。
質と量って、どういう違いなんですか?
西川 性別なら「男・女」、国籍なら「日本人・米国人」、広告なら「広告A・広告B・広告C」、購入なら「購入・未購入」のように、数字ではなくカテゴリーで表せるのが「質的変数」です。
なるほど、カテゴリーで分けるタイプなんですね。
西川 一方で、気温、身長、体重、SNSの投稿数、スマホ利用時間、店舗の売上高、来店客数など、数量で表せるのが「量的変数」です(図表Ⅰ.2)。
数量で表せるものにも、いろいろありますね。
西川 そうです。量的変数の中にも、身長やスマホ利用時間のように連続的に変化するものと、SNSの投稿数や来店客数のように0、1、2、3……と飛び飛びの値をとるものがあります。前者を連続変数、後者を離散変数と呼びます。
SNSの投稿数や来店客数も数字で表せるのに、どうして連続変数ではないんですか?
西川 はい。数字で表せるので量的変数ですが、1.5件の投稿や2.7人の来店客数のようには数えませんよね。とれる値が飛び飛びになるので、離散変数と呼びます。
なるほど。
西川 では、変数の基本がわかったところで、話を「記述統計がデータの特徴をどのように記述するのか」に戻しましょう。
そうそう、その話でしたね。
西川 記述統計では、変数が1つの場合と2つの場合で、使う図表や確認するポイントが変わります。この続きは、次回、説明しましょう。
(次回に続く)
西川英彦、佐保圭(著)、日経BP、2420円(税込み)



