世界最大の小売業ウォルマートは、1990年代初頭には全米に20の物流センターを持つまでに成長しました。なぜここまで拡大することができたのか。ウォルマートの創業者サム・ウォルトンの自伝『 私のウォルマート商法 すべて小さく考えよ 』(渥美俊一、桜井多恵子監訳/講談社+α文庫)を、コーン・フェリー・ジャパン前会長の高野研一さんが読み解きます。『 ビジネスの名著を読む〔リーダーシップ編〕 』(日本経済新聞出版)から抜粋。

社員全員に商売の面白さを伝えたい

 急速な出店攻勢により、ウォルマートは絶えず人材不足に悩まされました。当時、新人が見習い店長と呼べるまでには10年かかるといわれていました。ところがウォルトンは、ほとんど経験のない者を半年間、店長と一緒に働かせてみて、商品管理や労務管理の能力を少しでも示せば、彼らを副店長に抜擢(ばってき)しました。

 周囲の人たちは、店舗運営の質の低下を恐れて反対しました。しかし、ウォルトンは「とにかくやらせてみるんだ。どうやるか、見てみようじゃないか」といって実行に移し、周囲の懸念が間違っていたことを証明したのです。経験がなくノウハウを知らない者でも、学ぶ意欲と熱意さえあれば、店長が務まることを知らしめたのです。

 ウォルトンは店長だけではなく、一般の店員にも学ぶことを求めました。店舗視察の際、主任が誇らしげに近づいてきて、営業状況を数字で説明し、いまは社内で5位だが来年は1位になるだろうなどと話すのを聞くと、最高に幸せな気分になったそうです。ウォルトンはこうした「商人たち」に会うのが好きだったといいます。

彼らがベビーオイルやランチボックスなどを積んだ平台のディスプレーを指して、この商品は粗利が多いので特売品に選んだなどと説明し、どれほど売れたかを自慢する時、私は彼らを誇らしく思うあまり、じっとしていられないほどになる。……経営者が従業員の一人ひとりに、商売のおもしろさを教えることができるなら、これほど力強い武器はないだろう。


 こうした努力を重ねながら、1970年代には強固な事業構造を確立することに成功します。それが80年代の未曾有(みぞう)の成長へとつながっていったのです。90年代初頭には、ウォルマートは全米に20の物流センターを持ち、そこから1日のトラック走行距離内に大半の店舗を配置しました。

 当時ウォルマートが取り扱っていた商品8万品目のうち、85%が自社の物流センターから直接補充されていました。競合他社の補充率は50~60%であったといいますから、ウォルマートは商品物流にかかるトータルコストのかなりの部分を、自社でコントロールできていたことになります。実際、ウォルマートの出荷コストは3%以下で、他社より1.5〜2%も低かったといいます。

 このことは、地方都市で利益をあげられる低コスト構造をつくる上で大きな役割を果たしました。

ウォルマートは1990年代初頭には全米に20の物流センターを持つまでに発展した(写真/Shutterstock)
ウォルマートは1990年代初頭には全米に20の物流センターを持つまでに発展した(写真/Shutterstock)
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「顧客の代理」となってメーカーとも闘う

 ウォルトンは、自分たちは顧客の代理であると考えていました。このため時間をかけてよい商品を安く仕入れることを使命として追求していました。その結果、代理店やメーカーともめることも珍しくありませんでした。あるときは、プロクター&ギャンブル(P&G)の商品を店に置かないといって脅したこともあったといいます。

 ところが、その後、P&Gはウォルマートの力を認め、戦略的なパートナーへと関係を発展させていきました。いまではそれは、業界のモデルと呼ばれるまでになっています。単なる値段交渉だけであればこうはいかなかったでしょう。

 ここであなたに、その理由について考えてみてもらいましょう。

P&Gがウォルマートを戦略的パートナーとして認めた理由について考えてください。ウォルマートがP&Gに提供した価値とは何だったのでしょうか? また、戦略的パートナーシップとは何か、それがどのように顧客に価値を提供したのかについても考えてみましょう。

 P&Gがウォルマートを認めたということは、「わが社は顧客の代理だ」というウォルマートの主張を、掛け値なく受け取ったということを意味します。ウォルマートの店舗は地域の中に溶け込み、住民の生活を知り尽くしていました。その地域の人たちがいま何を求めているのか、どうすれば彼らが喜びを感じるのか、どんな商品がいくらでどのぐらい売れそうなのか、そんなことを肌感覚で理解している店長や店員、スタッフたちがいたのです。それに加えて、蓄積された地域のデータベースがありました。

 これらを情報ソースとして活用することで、ウォルマートが売れる商品のスペックやターゲット価格、各地域の需要量を予測し、メーカーがそれをゴールに商品を開発するという役割分担が成り立つようになります。P&Gの側から見れば、新たなミクロレベルの情報を踏まえた商品企画・生産物流計画が立てられるようになり、資源を最適活用できるわけです。ウォルマートの側から見れば、メーカーの原価構造を知り、低価格と高品質とを同時に実現する道筋が開けたのです。

 ここに至って、ウォルマートは仕入れ・物流・小売りに加えて、商品企画という重要な機能を取り込むことになりました。これがプライベート・ブランドへの道をひらいたのです。

『私のウォルマート商法』の名言
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