性別、年齢、収入、家族構成の相違により、同じ環境下でも買い物客が示す反応は違う――。「ショッピングの科学」を論じてベストセラーとなった『 なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学 』(パコ・アンダーヒル著/鈴木主税、福井昌子訳/ハヤカワ・ノンフィクション文庫)を岸田雅裕・ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ日本代表が読み解きます。『 ビジネスの名著を読む〔戦略・マーケティング編〕 』(日本経済新聞出版)から抜粋。

男女の店内での行動は違う

 ショッピングの科学の第2原則は、性別、年齢、収入、家族構成の相違により、同じ環境下でも買い物客が示す反応は違うという点です。『なぜこの店で買ってしまうのか』は、男女差や年齢が生む店内行動の統計的な差異に着目し、買い物客がどう変わったか、その変化が買い物にどう反映しているかを論じています。

 男女の店内での行動の違いについて。女性はゆったりと店内を歩きまわり、商品を手に取り、品質や値段を比較する。販売員に質問することをいとわず、試着後であっても購入しないことが多い。一方、男性はお目当てのモノが見つからなければ、あきらめて店を出る。女性は86%が買い物するときに値段を見るが、男性は72%。男性は女性よりも提案に弱い。どうでしょう、皆さんにも当てはまりますか。

 ただし、男女の社会的役割の変化に伴い、男性がベビーカーを押して買い物フロアで過ごす時間も増えています。女性も働く時間が延びるにつれ、せかせかと1つを選ぶやり方に変化しています。この傾向は日本でも見られます。

 次に年齢について。70歳の女性たちは、かつての50歳のころと同じような若々しい容姿や気分を満喫しているのに、売り場や商品のデザインはそれに合っていないと報告しています。視力は40歳前後で衰え始めるため、アクティブなシニアにとって商品の文字が小さすぎて読めないといったことが起きています。教養の高い客ほどラベルや箱、瓶の表示で買うか買わないかを判断するので、文字が読めないことは機会損失に結びついているでしょう。

 性差、年齢差の部分は、日本と米国では差異があるかもしれません。ただ、「子供が歓迎されない店では、親がそれを察して背を向ける」というくだりは、日米欧であまり差がないようです。日本のイケアで託児サービスが好評なことからわかるように、子供が大人のショッピングに及ぼす影響は無視できせん。

女性客同伴の男性を退屈させない仕掛け

 「人間が何かを買う必要があるときだけ店に入るのだとしたら、そして店では必要なものだけしか買わないのだとしたら、経済は破綻するだろう」と著者は言います。インターネットショッピングが定着した今日、店から見ると事態は悪化していて、必要なものさえ店で買わない人が増えています。ネットで検索してネットで購入完了というパターンや、ネットで情報を得て店で実際の品物をチェックするものの、購入はネットというパターンが増えています。店で品物をチェックして、実際に店で購入するものは限られてきているのかもしれません。

 そんな中、男性客がその機会をさらに奪いかねない障害になっています。男性客についての従来の常識は、「男はあまり買い物が好きではない、だからあまり買い物をしない。女性の買い物に男をつきあわせるのに一苦労する」というものです。これは日本でも、また、比較的若い世代にも当てはまるように思います。

 「女性は男性と一緒に店に来ると、自分一人だけのときや他の女性と一緒のとき、子供を連れているときよりも滞店時間が短くなる」そうで、米国の家庭用品のナショナルチェーン店で実施した調査の結果では、女性2人の場合=8分15秒、子供連れの女性の場合=7分19秒、女性1人の場合=5分2秒、女性と男性の2人の場合=4分41秒となっています。

 この結果を著者は次のように解説します。「女性が2人で買い物すると、思い切りおしゃべりをしたり、助言しあったり、提案したり、相談したりするため、時間がかかる。子供と一緒の場合は、子供が迷子になったり不機嫌になったりしないようにと、神経を使う。女性1人のときはもっとも効率よく時間を使える。だが、男性と一緒だと男性は露骨に退屈した様子で、いまにも店を出て車に座ってラジオを聴くか、通りに立って女の子でも眺めそうだ」と。

女性は男性と一緒に店に来ると、自分一人だけのときや他の女性と一緒のとき、子供を連れているときよりも滞店時間が短くなるという(写真はイメージ)(写真:Andris Piebalgs/stock.adobe.com)
女性は男性と一緒に店に来ると、自分一人だけのときや他の女性と一緒のとき、子供を連れているときよりも滞店時間が短くなるという(写真はイメージ)(写真:Andris Piebalgs/stock.adobe.com)
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 私の妻に聞いても、周りの女性社員に尋ねても、男性と一緒だと「買い物している間ずっと落ち着かず、せきたてられているような気分になる」と答えます。もし、男性に退屈しない何かを与えることができれば、女性はもっと楽しく、リラックスして買い物でき、買い物にかける時間が増えて、購入金額も増えると思います。特に今どき、ネットではなくリアル店舗で購入する場合の1つが、結婚や出産といったライフステージの変化に伴う高額アイテムの買い物だとしたら、男性対策は大変重要です。

 高額アイテムの買い物の場で男性の退屈感を減らして女性にゆっくり買い物をしてもらう方法の1つは、「受動的拘束」といって、座り心地の良い椅子を置いて大画面テレビでスポーツや趣味の番組などを流しておくといった方法です。日本でも、お店にソファが置かれて、男性がそれに座って待っているという光景は増えました。しかし、もう一歩進めて、何らかの方法で男性を買い物に巻き込んでいくことで、さらに大きな効果を得られるやり方もあります。

男性が主役になれる舞台のある食器店

 著者が示した例は、少し値が張る食器をまとめ買いする場面です。ライフステージの変化やそれに伴う家の購入や引っ越しに伴って、食器を一新するような場合を想定すれば、読者の皆さんにも起こり得るシーンだと思います。

 「ここの客はたいてい気に入った柄のセットの全部をそろえるが、それにはディナープレート、コーヒーカップ、からし入れ、プランター、ナプキンリングなどおびただしい数がある。この店での買い物はひどく時間がかかり、品物を一つ一つレジ打ちして、壊れないように包装されるまで待つのは、たいていの男にとっては気が変になりそうな状況である」。いかがでしょう、容易に想像できそうな場面ですね。著者にも同様の経験があり、「早く済ませろよ」というオーラを出していた記憶があります。

 買い物客リサーチャーである著者は続けます。「あるとき、2人の男がビアグラスのほうへフラフラと向かったが、1人がグラスを取り上げ、反対の手で想像上のビールのタップをつまみ、ビールを注ぐかのようにグラスを傾けた。そこで私は考えた。そうだ、当然ではないか。食事の集まりがあって、妻がキッチンで料理するあいだ夫は何をするのか? 飲み物を用意する。それは社会的に受け入れられた夫の役割だ。だから、彼はバーテンダーのあらゆる道具に興味をもつようになる」

 著者は、その食器販売店に、ガラス食器をすべてバー用品売り場にまとめることを提案しました。「壁には何か大きな写真、例えば男性がビールを注いでいるところや、しゃれたクロムのシェーカーでマティニを作っている写真などを掲げる。男たちが寄ってきて、自分たちのためのコーナーだと感じ、買い物ができる場所だ。たとえば、あらゆるボトルオープナーをここに置く。男は自分で読んで情報を得るのが好きだから、そこにはどのタイプのグラスを何に使うかを示した表を貼りだすとよい。大きなバルーングラス、ロングステム、フルートグラス、ロックグラス、ビールのジョッキなど」

 今どき、わざわざ店舗に出向いて買い物をしようとしてくれる場面は、大変貴重なのです。なんらかの発見がなければ、店舗販売の価値はありません。ディスカバリーがあれば、「商売の邪魔で、本命客の足手まといと見なされていた男どもを顧客に変えることができる」し、彼らも胸を躍らせながらお金を払ってくれるのです。

『なぜこの店で買ってしまうのか』の名言
『なぜこの店で買ってしまうのか』の名言
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