テクノロジーがどのように世界を変えていくのか。新刊『 日経テクノロジー展望2027 世界を変える100の技術 』(日経BP)では、注目される100の技術を集め、その革新性やインパクト、将来性などを解説する。今回は100の技術のうち、ビジネスパーソンを対象とした調査で「2031年期待度」1位の「量子コンピューター」を取り上げる。

量子力学の原理を利用して、並列計算を超高速処理

量子コンピューターの活用に向けたハードウエアとソフトウエアの開発が加速している。AI(人工知能)やスーパーコンピューター(スパコン)を活用することで、将来の実現が期待される誤り耐性のある汎用型量子コンピューターの開発を前倒しできる見込みだ。

 2025年12月に米カリフォルニア州サンノゼで開催された量子コンピューターの国際会議「Q2B 2025 シリコンバレー」では、汎用型量子コンピューター(FTQC)の実現に向けた実機開発や様々なユースケースの発表が相次いだ。特に業界をけん引する米IBMや米クオンティニュアムといった主要プレーヤーの革新技術が注目された。

 量子大手のクオンティニュアムは、イオントラップ型量子コンピューターの最新機「Helios(ヘリオス)」とそれを活用した生成型量子AIについて紹介した。ヘリオスは従来機の2倍近い98物理量子ビットを持ち、2量子ビットゲート忠実度で99.921%を達成するなど、「世界で最も高精度な商用量子コンピューター」(同社)を実現した。

Heliosチップ
Heliosチップ
(出所:クオンティニュアム)
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 これまで主流だった超電導型量子コンピューターでは、論理量子ビットを作るのに必要な物理量子ビット数は数十~100物理量子ビットが必要とされてきた。クオンティニュアムの量子チップでは必要な物理量子ビットを2個にまで減らせるとしており、これにより実用的な計算機を早期に開発できる見込みだ。同社は今後、格子状の経路を持つ量子チップを開発する予定で、29年に初期段階のFTQCシステムを構築できると見込む。

 ヘリオスの量子チップ(以下、ヘリオスチップ)は、イオンが移動する経路が交差するジャンクション構造を持つことで計算の信頼性を高められる特長がある。ヘリオスチップは量子データを使った独自の生成AI「GenAI」モデルの強化に利用でき、データ分析や新材料設計、量子化学などでAIの能力を最大限に引き出せる見込みだ。

 IBMも29年にFTQCの実現を目標に掲げる企業の1社だ。同社は量子エラーを効率的に訂正する技術を開発している。29年には1億量子ゲートを実行でき、200論理量子ビットを持つ超電導型の実機「Starling(スターリング)」をクラウドサービスで展開する予定である。

IBMが2030年代に構築を目指すFTQC
IBMが2030年代に構築を目指すFTQC
(出所:IBM)
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 FTQCを実現するには、高性能なQPU(量子演算装置)の開発だけでなく、CPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理半導体)、QPUといったプロセッサーのワークロード(実行する一連のタスク)をどう分担させるかが重要かつ未解決の研究テーマとなっている。そこでIBMは米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)と提携して、異なるシステムアーキテクチャーの統合を検討している。

 例えばAMDは同社のCPUやGPU、FPGA(書き換え可能な集積回路)を提供してIBMのQPUと統合する。様々なアルゴリズム演算の高速化手法を開発することで、リアルタイムのエラー訂正機能を提供できるようになると期待する。

 量子アルゴリズム開発のキューミックス(Quemix)と住友ゴム工業は、量子計算を活用したCAE(コンピューター支援エンジニアリング)の高速化に関する研究成果を紹介した。通常のコンピューターでは計算に膨大な時間がかかっていた非線形方程式の計算を指数関数的に加速できる。材料開発のシミュレーションなどものづくりの現場で役立つと期待する。

モーターサイクル走行時に発生する風の流れをシミュレーションしたときの読み出し結果イメージ
モーターサイクル走行時に発生する風の流れをシミュレーションしたときの読み出し結果イメージ
(出所:キューミックス)
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 量子コンピューターは通常のコンピューターが苦手とする一部の計算を高速に処理でき、材料計算や金融、流体解析などの分野での活用が期待されている。ただ、量子計算そのものは高速に計算できるものの、計算結果を数値として読み出す際に膨大な時間がかかり、優位性が失われるという課題があった。

 キューミックスと住友ゴム工業は今回、CAEの課題だった計算結果の読み出しを高速化する手法を開発した。量子計算に含まれる波形や周期的な特徴(フーリエ係数など)を効率的に抽出して、少ない成分から解を再構成することで、データ量が増えても処理効率を維持できるというもの。これにより、非線形方程式の計算でも量子コンピューターによる高速処理が可能になり、大規模シミュレーションを指数関数的に加速できることを実証できた。

 量子コンピューターの性能が古典コンピューターを上回る「量子優位性」を実際のユースケースで達成するには、量子コンピューターのエラー率を10のマイナス5乗以下にまで低減する必要がある。業界でも特に高い精度を持つクオンティニュアムの実機でもこの水準に達するのは29年ごろの見込みだ。キューミックスと住友ゴム工業は、その頃に様々な産業分野で量子優位性を最初に実証したいと意気込む。

(書籍『日経テクノロジー展望2027 世界を変える100の技術』を基に再構成)

5年後の2031年に向けてビジネスパーソンが知っておくべきテクノロジーとは? 日経の専門誌編集長とラボ所長が「AI」「エレクトロニクス・モビリティー」「環境・エネルギー」「IT・通信」「建築・土木・素材」「ライフスタイル・ワークスタイル」「メディカル」の7分野から「世界を変える技術」100件を厳選、専門記者や研究員が分かりやすく解説します。

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