2022年11月、オープンAIが公開した対話型生成AI「ChatGPT」は世界を驚かせ、大きな変革をもたらし続けている。同社を率いるのはサム・アルトマン。スタンフォード大学を中退した青年は、いかに“世界を変えるツール”を開発するに至ったのか。その道のりを丹念に追い、“シリコンバレーの新たな王者”の真の姿に迫るのが、新刊『 サム・アルトマン評伝 AIで世界を変えた男の正体 』(周恒星著、牧髙光里訳、日経BP)である。その読みどころとは? 本書冒頭に掲載された周鴻禕氏(奇虎360共同創業者)の「推薦文」をお届けする。
【推薦文】
シリコンバレーの新たな王者
周鴻禕(ジョウ・ホンイー)=インターネット・セキュリティー・ソフトウエア企業、奇虎360(チーフーサンロクマル)共同創業者、CEO兼会長
テック企業の頂点に立つ私は、技術革新と将来のトレンドを常に注視している。よって本書の推薦文を執筆し、私の知るアルトマンという人物を読者の方々と共有できる機会を頂けたことを、非常に光栄に感じている。
情報爆発が起き、日進月歩で技術が進歩するこの時代、AI(人工知能)が世界の変革を推進する核心的なパワーを備えるようになった。AI業界のトップランナーでもあるサム・アルトマンの半生は、シリコンバレーの伝説的創業者そのものを象徴する事例であるだけでなく、未来のインテリジェントな世界を深く読み解くヒントになるだろう。
本書の原稿を一読して、その豊富な内容に衝撃を受けた。単なる評伝ではなく、AIが我々にもたらす未来に対する、深い考察があったからだ。
本書ではアルトマンのキャリアを、スタンフォード大学の中退からソーシャルアプリ企業のループトを立ち上げるまでの時期、シリコンバレー最大のスタートアップ育成団体Yコンビネーターの社長に28歳で就任し、エアビーアンドビーをはじめとする多くのスタートアップを育成した時期、それからオープンAIを設立してCEOに就任し、数々のプレッシャーと試練を乗り越え、ChatGPTという人類の未来を変えるツールを生み出した時期など、いくつかの段階に区切って掘り下げている。
本書には、その時々での生き方と人類の未来に対するアルトマン自身の考察も随所に差し挟まれている。アルトマンとマスクが袂を分かった経緯や、オープンAI取締役会の「クーデター」といった、まるでテレビドラマのような展開を通じて、冷たく無機質に見えるテクノロジーの世界の背後にある、血の通ったアルトマンの本当の姿が描き出されているのである。
著者の周恒星(ジョウ・ホンシン)は、シリコンバレーを最もよく知る中国人ジャーナリストの一人だ。2014年に私は北京で彼を挟んで、シリコンバレーの著名な未来学者、レイ・カーツワイルと対談したことがある。カーツワイルの繰り出す大胆な発想や、著書『The Singularity Is Nearer:When We Merge With AI』(邦訳『シンギュラリティはより近く 人類がAIと融合するとき』高橋則明 訳、NHK出版)等にも記されている、「AIが2029年にはチューリングテストをパスして、2045年にはシンギュラリティーを迎え、AIが人間の知能を完全に超える」という予測が、私の頭に深く刻まれた。彼の予言は今、オープンAIをはじめとする複数のAI研究チームによって、一歩一歩現実になりつつある。
ビル・ゲイツはかつて「私は人生で2度、テクノロジー革命に立ち会った。最初はOSの誕生で、その次はChatGPTの誕生だ」と言った。チャットボットのChatGPTや文章→静止画像生成モデルのDALL-E(ダリ)、文章→動画生成モデルのSoraの鮮烈な登場は記憶に新しい。
アルトマンはオープンAIを率いてAIに対する人々の認識を刷新し続けている。大学を中退した青年が『タイム』誌の2023年CEOオブ・ザ・イヤーに輝き、さらには世界のAI業界のリーダーと目され、今やAI時代の「オッペンハイマー」となって、この世界を着実に変容させているのだ(訳注:アルトマンのような大学中退者の成功物語は、大学卒業資格が職業選択から社会的・人格的信用や評価、ひいては人生のほぼすべてを左右する超学歴社会の中国においては、ほとんどおとぎ話である)。
また私自身、一人の企業家として、アルトマンからスティーブ・ジョブズのイノベーション精神とイーロン・マスクの先見性、そしてベゾスの持つ天才的なビジネス感覚をかぎ取っており、彼から多くのことを吸収したいと思っている。人や組織や情報を有機的に結び付ける力もあり、人間的な魅力も備えているアルトマンの身近には、いつも実力者が立っている。たとえば本書では、アルトマンがサンバレー会議の最中に「偶然の出会い」を創出してサティア・ナデラに自分とオープンAIを売り込み、10億ドルの出資にこぎ着けてオープンAIを窮地から救ったことが記されている。
行動力もある。「何かを達成するために最も重要なことは、粘り強さだ。僕にはある信念がある。それはあらゆるドアや窓を、すべて叩くことだ」と語る彼は、人生哲学の一つに米国の海軍大将、ハイマン・G・リッコーバー提督の名言「生命の偉大さは知識ではなく、行動にある」を掲げ、通信事業者と提携するため、旧態依然とした閉鎖的な企業に20歳で乗り込んで風穴を開けたこともある。
アルトマンはやはり天性のリーダーで、熱い野心家だ。「最も成功した創業者たちは会社を興そうとしていたわけじゃない。彼らは宗教に近い何かを創造する使命感に駆られており、それを実現するには会社を設立するのが一番手っ取り早いということに、ある時点で気づいたんだ」と個人ブログに書いているように、金銭にはあまり興味がない。オープンAIを設立したのも、権力を手に入れるのが目的だったのかもしれないが、その権力を手に入れる天性の資質すらもアルトマンは備えている。実際のところ、彼の誠実で謙虚な姿勢はシリコンバレーの大御所や有力者、そして政治家にも非常に好意的に受け入れられており、彼自身も少しずつ、政治家的な雰囲気を身にまとうようになった。
我々は今、AI大規模言語モデル(LLM)による新たな産業革命を迎えつつある。人類の叡智が結集された歴史上最も偉大なこの発明によって人類は、コンピューターに人間の言葉を理解させることに初めて成功した。Soraではコンピューターに言葉で世界を理解させているが、これは言語と画像という複数のモードをAIが行き来する、いわゆるマルチモーダル能力が飛躍的に向上したという意味でもあり、AGI(汎用人工知能)時代の到来が間近に迫っていることも示唆している。その日が来たら、AIによって自動運転やエンボディドAI、基礎科学研究やエネルギー問題などの分野に大きな進展がもたらされるだろうが、同時に人類は、技術や社会の安全、国の安全保障といった分野において、かつてないリスクを抱えることにもなるだろう。
アルトマンという人間を理解し、オープンAIという企業を知ることは極めて重要である。そうすることで我々は多くの気づきが得られ、この時代においてテクノロジーをいかに活用すべきか、そしてテクノロジーを人類の敵にせず、人類に奉仕する存在にするためにはどうすればよいかといったことを理解できるだろう。
