電気信号を処理する回路と、それらを使って光で通信するための集積技術である「光電融合」。高速・大容量通信と低消費電力の両立を可能とする光電融合は、高市早苗総理の所信表明演説の中にも登場しました。日本の半導体戦略において「本丸」とも目される光電融合は、今後、日本の産業を成長させるうえで、キーとなる可能性があります。産業技術総合研究所 光電融合研究センターの高磊上級主任研究員に、光電融合を学ぶためにお薦めの書籍をご紹介いただきました。

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 昨年10月、第104代首相に選出された高市早苗氏。先に開催された衆議院議員総選挙では与党を圧倒的な勝利へと導き、高市政権は就任以来高い支持率を維持しています。第219回国会の就任初日に行われた所信表明演説は、日本初の女性首相となった高市氏の最初の発言として期待が高まりました。物価高対策や税制改革、災害に対する国土強靭(きょうじん)化などいくつかの注目点が見られる中、「光電融合」という一般の方にはあまり聞き慣れない言葉が登場しています。エネルギー安全保障に関連して「光電融合技術等による徹底した省エネや燃料転換を進めます」と述べています。

 光電融合とは、その名のとおり「光」と「電気」の融合であり、もう少しかみ砕いて説明すると、電気信号を扱う回路と光信号を扱う回路を同じ基板上で形成する技術のことを指します。一般的に電気配線では、電気が回路を流れる際に熱を発生するので、信号速度を上げると抵抗や発熱が増え、消費電力の増大や計算速度の低下が起きます。これに対して光は、配線中を高速かつ長距離へと伝送しても信号劣化が小さく、発熱や損失が少ないという特性を持ちます。このため、データ伝送部分に光を利用すれば、高速・大容量通信を実現しながら、消費電力の抑制が可能となります。このような光化による効果は、すでに家庭で使用される回線にも光ファイバが使用され、インターネットが高速化されることなどで皆様も実感されているのではないでしょうか。

 光電融合では、演算や制御といった電気が得意とする処理と、伝送に優れる光の特性を組み合わせることで、性能とエネルギー効率の両立が期待できます。前回までに紹介したデータセンターにおけるAI処理の高度化などを背景に、半導体技術と光デバイス技術を融合した次世代基盤技術として注目されています。上述したように、すでにインターネット回線は光化が進んでいますが、今後はパソコンなどのコンピューター内にもその技術がどんどん浸透していきます。計算に使うチップと周辺部品との光の接続、チップ同士の光の接続、最終的にはチップ内の接続にも光を利用する光電融合チップの実用化が目指されています。

 光電融合の効果を、高速・大容量通信と低消費電力の両立としましたが、高市総理の発言の背景には、日本の半導体戦略が色濃く影響しています。日本政府は2021年、「半導体・デジタル産業戦略」を策定し、半導体産業を国家戦略として位置付けました。先端半導体は各国にとって戦略物資であり、市場の成長も大きく見込まれます。その半導体戦略においては、半導体の微細化競争に対応するだけでなく、社会課題を抜本的に解決できるような半導体開発が重要となります。その戦略技術として日本が力を入れているのが光電融合チップです。

 先端半導体の中でも、ロジックやメモリなどの分野では、残念ながら日本は後じんを拝しています。一方で、光電融合に利用する半導体開発では、半導体技術と光デバイス技術の両方が必要です。日本にはレーザーや光変調器、フォトダイオードなどの光デバイス、各種の半導体製造装置、材料や実装・精密加工などの分野で、依然、高い競争力を維持しています。光電融合では、これらを横断的に組み合わせる必要があり、これから日本が世界においてリーダーシップを取れる可能性が高い領域といえます。

 大きな可能性を持つ光電融合は、現在半導体業界だけでなく、光エレクトロニクス業界などからもその動向が非常に注目されています。このように、今後ますます重要性が高まる光電融合を学ぶため、今回から3回にわたって書籍を紹介します。今回は光電融合の基本を理解するのに役立つ書籍を3冊紹介します。

身近な事例から光学の基礎をトコトンやさしく解説

『今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい光学の本(B&Tブックス)』、笠原亮介著、日刊工業新聞社
『今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい光学の本(B&Tブックス)』、笠原亮介著、日刊工業新聞社

 光電融合においては、半導体技術と光デバイス技術の両方が必要と書きました。最初の書籍は、このうち光デバイス技術に関して基本を知るために紹介するものです。『今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい光学の本(B&Tブックス)』(笠原亮介著/日刊工業新聞社/2025年3月刊)は、その名の通り光学について、トコトンやさしく説明している書籍です。光といえば、もちろんそれ自体は知っているものの、光の性質やカメラや眼鏡など光が深く関連する身近な製品などの原理について、深く理解をしている人は少ないと思われます。本書籍は、そういった読者に向けて、光の基礎から応用先までわかりやすく光学の基本を紹介しています。

 光学に関するトピックスを、複雑な数式を使うことなく紹介しています。「光の反射」「光の屈折」「レンズとミラーの役割」「レーザー」といった一つのトピックをそれぞれ見開き2ページにまとめ、右ページは文章、左ページは図版と分けて掲載しています。取り上げるトピックスは69個、コラムを加えて全体は160ページと一気に目を通すことも可能ですし、気になったトピックだけを拾い読みすることもできます。

 また、「空が青く見える理由」といった本当に身の回りに起きている事象や、カメラや望遠鏡、プロジェクタ等の原理についてなど、身近な例を豊富に取り上げているので、物理などを学んでいない中学生でも、理解しながら読み進めることができるでしょう。もちろん、本格的に光学を学ぶためには物足りないかもしれませんが、光に対する知識がぼんやりしている方にとっては、頭が明確に整理されるといった点では、お薦めの書籍です。

半導体特有の産業構造や製造工程を理解

『新・半導体産業のすべて AIを支える先端企業から日本メーカーの展望まで』菊地正典著、ダイヤモンド社
『新・半導体産業のすべて AIを支える先端企業から日本メーカーの展望まで』菊地正典著、ダイヤモンド社
『新・半導体工場のすべて 設備・材料・プロセスからAI技術の活用まで』菊地正典著、ダイヤモンド社
『新・半導体工場のすべて 設備・材料・プロセスからAI技術の活用まで』菊地正典著、ダイヤモンド社

 次に紹介する書籍は、一方の半導体技術の基礎を学ぶために適したものです。『新・半導体産業のすべて AIを支える先端企業から日本メーカーの展望まで』(菊地正典著/ダイヤモンド社/2025年1月刊)および『新・半導体工場のすべて 設備・材料・プロセスからAI技術の活用まで』(菊地正典著/ダイヤモンド社/2025年3月刊)の2冊をセットで読むと、半導体業界の構造や半導体の仕組みなどをおおよそ理解することができます。

 日本の半導体産業は、かつて世界市場で5割以上のシェアを誇っていましたが、その後一気に衰退し、「半導体敗戦国」というレッテルを貼られました。その背景には、投資規模が膨大であり、また産業育成が国家戦略レベルなどいろいろな要因があります。『新・半導体産業のすべて』においては、日本の衰退の原因を分析するとともに、半導体の基本や半導体業界の特異な点、また半導体業界のメインプレーヤーを40社近く紹介するなど、半導体産業の大枠をこの一冊で理解することができます。先端技術の中には光電融合デバイス技術も有力な候補の一つとして紹介されています。

 もう一方の『新・半導体工場のすべて 設備・材料・プロセスからAI技術の活用まで』は、半導体を製造するために必要となる加工環境や装置、一連の流れが網羅的に解説されています。半導体の製造工程は、シリコンウエハ上に微細な回路を形成するまでの「前工程」と、シリコンウエハからチップを切り出し樹脂で包み込んだりする「後工程」に大きく分けられます。もちろん、前工程、後工程には緻密で複雑なプロセスが多くあり、本書ではそれらの工程の概要が記載されています。コラム欄に書かれている各半導体企業に関する背景や雑学も必見です。

 著者の菊地正典氏はNECの元技術者で、日本の半導体産業の成長、そして衰退を現場で目にしてきました。半導体産業、半導体製造を熟知したうえで、俯瞰(ふかん)して執筆した書籍ですので、半導体を知るには最も適したものと考えます。

 今回は初心者向けに、半導体技術と光デバイス技術の両方面から書籍を紹介しました。繰り返しとなりますが、光電融合を学ぶためには2つの知識を融合する必要があります。次回もこのスタンスをベースに、中級者に向けたお薦めの本について紹介します。

高 磊(こう・らい)
産業技術総合研究所 光電融合研究センター 上級主任研究員
2007年に早稲田大学にて応用物理学の学士号、2009年に同修士号、2014年に同大学より博士(工学)を取得。2009年から2015年までNTT先端集積デバイス研究所に在籍し、シリコンフォトニクスや異種材料集積の研究に従事。2015年から2017年まで米国カリフォルニア大学バークレー校物理学部にて博士研究員および日本学術振興会海外特別研究員として、超高速非線形光学および二次元層状材料に関する研究に従事。2016年に文部科学省卓越研究員事業に採択,在外研究中に産業技術総合研究所へ入所。主な研究テーマは、薄膜転写による微小異種材料集積技術(通称:Micro-Transfer Printing)、高非線形光学材料およびデバイスの研究開発。IEEE Photonics Society、OPTICA(旧米国光学会)、応用物理学会(JSAP)、レーザー学会(LSJ)会員。最近の著書として、『 光電融合シリコンフォトニクス未来戦略 』がある。

(取材・構成:木村 知史=CocoSmile 編集者)