「オートファジー」という言葉、聞いたことがありますか? 私たちの体に備わっている体を健康に保つための機能ですが、認知症の一種であるアルツハイマーや、糖尿病や心疾患などのさまざまな老化に関連する病気にもオートファジーを上げることはとてもよいと、オートファジー研究の第一人者、大阪大学名誉教授の吉森保先生は言います。最先端の老化の研究をわかりやすく紹介する新刊、『私たちは意外に近いうちに老いなくなる』(日経BP)から本文を抜粋、解説します。

オートファジーを高めて老化を防ごう(写真:naka/stock.adobe.com)
オートファジーを高めて老化を防ごう(写真:naka/stock.adobe.com)
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老化をとめるオートファジー

 みなさんは「オートファジー」という言葉をご存じでしょうか? 最近は健康や長寿の観点からもしばしば注目される分野となっているので、「オートファジーダイエット」などの言葉をメディアで目にした人もいるかもしれません。

 オートファジーは「自ら(Auto)」と「食べる(Phagy)」という言葉が組み合わさった造語で、その名前があらわす通り、「自食作用」とも呼ばれます。「自分を食べる」つまり、私たちの体の細胞が自分自身の中の一部の成分を食べて(分解して)、それをまた新しく再利用するための材料にしなおすというしくみです。

 細胞ひとつひとつの目には見えない小さな世界で、常時、このような「入れ替え」が絶えず繰り返されているのです。

オートファジーの低下が認知症に関わっている

 このように、細胞を若く保つオートファジーですが、しかし万能ではありません。加齢でオートファジーの活性が低下することが明らかになっています。年をとるにつれて、細胞内を入れ替える能力や掃除能力が落ちてしまうのです。その結果として、当然、細胞内に不要物がたまりやすくなります。

 この能力の低下が認知症の一種であるアルツハイマー病や、パーキンソン病といった神経変性疾患、さらには糖尿病や心疾患などのさまざまな老化関連疾患と密接に関わっていることがわかってきました。加齢によって機能が低下すると聞くと「受け入れるしかない」と思う人もいるかもしれません。しかし、あきらめることはありません。加齢に必ずしも抗えないとは限らないのです。

 神経変性疾患は、アルツハイマー病ではアミロイドβやパーキンソン病のα - シヌクレインなどのたんぱく質がかたまりになって蓄積することによって起こります。これはオートファジーの機能が低下することが、原因のひとつと考えられます。加齢によりオートファジーが低下すると、これらのたんぱく質が蓄積しやすくなるのです。

 残念なことに、神経細胞は他の細胞と違って入れ替わりません。つまり、一度細胞内にたんぱく質がたまってしまうと、細胞を新しくして除去するのが難しいのです。ここで、オートファジーで細胞内の掃除をすることが、他の細胞よりも極めて重要な臓器なのです。

 神経変性疾患は今のところ、抜本的な治療法がありません。しかし、ルビコン(オートファジーの働きを抑えてしまうたんぱく質)を標的とした治療法や、あるいは、もしルビコンが増えていてもオートファジーを活性化する治療法が開発されれば、これらの疾患に対する新たなアプローチとなる可能性があります。

これまでどんな権力者も、どんな大富豪も手に入れられなかった「老いない体」。はたして、私たちはそれを手に入れることができるのでしょうか。老化はさまざまな要素が複雑に関わり合う現象です。本書では、オートファジーの世界的権威である吉森先生がノーベル賞級の活躍を見せる研究者たちに直接取材し、それぞれの分野で明らかになってきた「老化の謎」と「健康長寿の最前線」を、わかりやすく紹介しています。

吉森 保著/日経BP/1980円(税込み)