最近、美容業界で「エクソソーム」が話題となっています。化粧品や点滴など、最先端の「若返りの切り札」として注目を集めているようですが、本当のところ、効果はあるのでしょうか? そして、安全なのでしょうか? 大阪大学名誉教授の吉森保先生が、最先端の老化の研究をわかりやすく紹介する新刊、『私たちは意外に近いうちに老いなくなる』(日経BP)から本文を抜粋、解説します。
1回目 人間は近いうちに老いなくなる? 老化と認知症防ぐ切り札「オートファジー」 から読む
美容業界で注目のエクソソームってそもそも何?
最近、美容業界で「エクソソーム」が話題となっています。「若返りの切り札」として注目を集めているようですが、実はエクソソームには私たちがまだ知らない複雑な面があることが最新の研究でわかりました。
そもそもエクソソームとは何でしょうか。エクソソームは私たちの体の細胞がつくり出すとても小さい「情報の入れ物」です。細胞同士が情報をやりとりするための「運び屋」として働くカプセルのようなものです。髪の毛の太さの約1000分の1という目に見えない小さなサイズです。
エクソソームはさまざまなものを運びます。これまでは、がんなどではない正常な細胞が出すエクソソームは「良い」情報を運び、組織を治したり、免疫を調整したりする健康的な働きを担うとされ、治療の分野でも期待されてきました。
しかし、最新の研究により、普通の細胞が出すエクソソームが運ぶものにも「良いもの」と「悪いもの」があることがわかったのです。これにオートファジーの働きを抑える、ルビコンが関係しています。オートファジーとは、細胞の一部を分解して、それをまた新しく再利用するための材料にしなおすという、細胞を若く保つしくみのことです(詳しくは 第1回 参照)
ルビコンは、このオートファジーにブレーキをかけることで老化や病気を進める物質です。しかし今回の発見により、ルビコンはオートファジーとはまったく違う道筋でも老化を早める可能性がわかりました。
ルビコンは、老化を進める情報を、他の細胞に広める悪いエクソソームをつくっていたのです。オートファジーのブレーキとして、細胞内の老廃物を片づけることを邪魔するだけでなく、二重の悪い意味で私たちの体を老化に向かわせているのです。
エクソソームは逆効果の可能性もある
ルビコンによってつくられる悪いエクソソームは、「疲れた、もう働けない」という老化を進めるメッセージや、体の炎症を強める物質、他の細胞の働きを弱めるものなどをつくらせる、さまざまな悪い情報を運びます。
わかりやすく例えるなら、良いエクソソームが「元気を出そう!」というはげましの手紙であるのに対し、悪いエクソソームは「もうダメだ……」という暗い手紙を配達してしまうのです。
私たちの実験では、ルビコンを取り除いたマウスでは、老化を進めるエクソソームの分泌が大幅に減り、年をとるにつれて増える悪いエクソソームが抑えられました。全体的な老化の進行が遅くなることが確かめられたのです。ルビコンをコントロールすれば、エクソソームを通じた老化の連鎖を食いとめられる可能性があることがわかりました。
この発見は、現在話題のエクソソーム治療に重要な警告になるはずです。これまでは、普通の細胞が出すエクソソームは「良い」ものを運ぶだけと思われてきましたが、ここまで説明した通り、新しい研究では、すべてのエクソソームが良いものではありません。
もし悪いエクソソームを注射していれば逆効果になる可能性があり、「良い」「悪い」エクソソームを見分ける技術の発見が急務です。もちろん、この研究は将来への希望も示しています。
より安全で効果的なエクソソームを選び分ける技術の開発、ルビコンを抑えることで悪いエクソソームを減らす治療法、さらには個人の老化状態をエクソソームで調べる新たな健康管理法が実現するかもしれません。
吉森 保著/日経BP/1980円(税込み)

