道路、橋、上下水道、市役所、学校などインフラの老朽化が全国で深刻化しており、事故が多発している。どのような対策をすればよいのか。インフラにも特徴があり、公共施設と土木インフラではとるべき方法がまったく異なる。長年、インフラ老朽化問題に取り組んでいる根本祐二・東洋大学名誉教授の著書『インフラ崩壊 老朽化する日本を救う「省インフラ」』(日経プレミアシリーズ)から抜粋・再構成。
公共施設がなくてもサービスは提供可能
インフラにはそれぞれの特徴があり、負担を軽くするにしてもその特徴を踏まえる必要がある。まず、インフラの公共性について論じる。この点については公共施設と土木インフラはまったく異なる。
公共施設は、公共的な活動を行うために使用される施設であり、施設そのものが公共的であるわけではない。例えば、集会という活動は地域コミュニティの安全安心や豊かさを守るために必要な公共的な活動であるが、立派な集会所がなければ集会ができないわけではない。図書館や庁舎の会議室でもよいし、学校の空き教室でもよい。コンビニのイートインやカフェ、ファミレスでも可能かもしれない。場合によっては、オンライン会議やSNS(交流サイト)でも同様の効果が果たせるかもしれない。
有意義な集会を行うことと、立派な集会所を持つことは、まったく別のことであることをまず理解しなければならない。他の種類の施設についても同じことが言える。立派な体育館や福祉施設がないとスポーツや福祉活動ができないわけではない。
公共施設マネジメントを進めようとすると、「この施設がなくなると活動ができなくなる」と強く抗議されることがあるが、そのエネルギーを、立派な施設がなくても活動を実現できるように工夫することに向けてもらいたいと思う。
一方、土木インフラは正反対である。土木インフラを用いて行われる活動には何ら公共性は求められない。例えば、公務員しか使えないとか、救急車しか通れないような道路は存在しない。誰でも、通勤・通学や散歩・運動目的で自由に使える点にこそ道路としての価値がある。同じように橋りょうも水道も下水道も、それを使う人の動機が公共的であるかどうかは問われない。どのような目的であれ自由に使えることこそ土木インフラとしての意味がある。したがって、量を削減するとサービスの質の低下に直結する。
ネットワークインフラとしての特徴
次に、ネットワークインフラとしての特徴を整理する。
まず、土木インフラはネットワークインフラである。道路はネットワークされてどこかに通り抜けできるからこそ意味がある。橋りょうやトンネルも両端が道路に接して道路ネットワークの一部となることで初めて意味がある。水道は水源から浄水場、水道管を経由して自宅や事業所に水を届ける。どこかが停止すると、そこから先は断水せざるをえなくなる。公共下水道は水道の逆であり、排出源である家庭や事業所から最終処分場までがネットワークインフラとなっている。どこかが寸断されると、その周辺での下水処理機能が失われる。
ネットワークインフラはネットワークがないと機能を発揮しない。人口がどれほど減少しても、基本的にネットワークを維持する必要があるのである。
これに対して公共施設はネットワークではない。どこかの機能が停止しても直ちに別の施設の機能が止まるという関係にはない。この点も、公共施設と土木インフラでは大きく異なっている。
公共施設と土木インフラの特性に応じた対応の違い
以上の通り、公共性の所在およびネットワークインフラとしての特徴は、公共施設と土木インフラではまったく異なっている。つまり、公共施設は公共施設という物理的な存在がなくても公共サービスを提供することができる。にもかかわらず施設にこだわっている限り処方箋は見いだせない。キーワードは、「施設と機能の分離」である。
一方、土木インフラはインフラという物理的な存在にこそ意味があり、それを失うことで公共サービスも失われてしまいかねない。土木インフラこそ非常に厳しい状況に置かれていることを心配すべきなのである。
老朽化問題を解決する「標準メニュー」
筆者は、以上の特徴を背景にして全体として老朽化対策の方向性を定めている。第1は、公共施設に関しては、「施設と機能の分離」を基本として、まず、「機能を維持して量を削減する方法」を導入する。具体的には、広域化(異なる地方公共団体間での施設の共同設置)、ソフト化(民営化、民間施設利用)、集約化(統廃合)、共用化(学校と地域など異なる主体で同じ施設を共同利用する)、多機能化(別の施設の一部に機能だけを移転する)を用いる。
土木インフラも全量を維持する必要はないので、横断歩道橋の廃止など削減できる場合は削減する。これを「間引き」と呼んでいる。
第2は、「施設と機能の分離」が容易にできない土木インフラは、「量を維持して費用を削減する方法」を基本とする。ここで言う費用とは、設計、建設はもちろん維持管理・運営・修繕、最終的には解体撤去費まで含めたライフサイクルコスト(LCC)である。建設費は高くても、維持管理費が安く、また、長期にわたって使用できる場合は結果としてLCCは割安になる。LCCの金額だけでなく使用年数が非常に重要である。
LCCを削減する具体的な方法としては、障害が発生する前に管理することで未然に事故を防ぐ「予防保全」が有名である。筆者は、重要度に応じて「予防保全」「事後保全」「無保全」を組み合わせるリスクベースマネジメント(RBM)を提唱している。
第3は、「施設やネットワークを使わない方法」である。現状のような施設やネットワークインフラによって公共サービスを提供する仕組みでは費用が固定的に必要である。固定費型のシステムでは、人口が減少するにつれて1人当たりの費用はどんどん高くなっていく。
これに対して、「施設やネットワークを使わない方法」は、人口の変動に応じて費用も変わる変動費型システムである。ネットワークでつなぐのではなく必要な場所で個別に提供する「分散処理」、サービス自体あるいはサービスで供給する物品を実際に配達する「デリバリー」、サービスの届け方ないしは保存方法においてDX(デジタルトランスフォーメーション)を使う「バーチャル化」の3つの方法に分類している。
第4は、移転・集住である。第3までの方法が、人が現在居住している場所に公共サービスを提供するものであるのに対して、逆に、「サービスの受け手が移動する方法」である。人々が移転・集住してくれればインフラのコストは激減する。コンパクトシティや高台移転などが該当する。
第5は、費用を削減するのではなく収入を増やす方法である。上下水道をはじめ利用料を徴収できる場合は徴収する(引き上げる)という方法である。また、余剰不動産(建物、土地)を民間に売却や賃貸して収入を得る方法もある。
筆者はこれらを整理して「標準メニュー」として公開している。地方公共団体職員には、自分の机の前に貼って自分が担当するインフラには何が使えそうか日常的に考えてほしいと伝えている。日本の公務員は本当にまじめで能力が高い。そういう人材に、現状維持のための理屈を探すことにエネルギーを割いてほしくないと思う。
『 インフラ崩壊 老朽化する日本を救う「省インフラ」 』
根本祐二著/日本経済新聞出版/1210円(税込み)


