人工知能(AI)をはじめ、技術が急速に発展する現在。「AIに職を奪われそう」「子どもが大きくなったら世界はどうなっているのだろう」などと、未来に不安を覚えることはありませんか。そんな不安を吹き飛ばす書籍『東大教授の超未来予測』(瀧口友里奈編著)から、車の有効活用の仕方や半導体単価の上昇理由について抜粋してご紹介します。語り手は東京大学特別教授の黒田忠広氏、東京大学大学院情報理工学系研究科教授の江崎浩氏のお2人です。経済キャスターの瀧口友里奈氏と東京大学大学院工学系研究科特任准教授でティアフォー代表取締役CEO(最高経営責任者)の加藤真平氏が聞き手でお届けします。
車は5%しか仕事をしていない
瀧口友里奈氏(経済キャスター。以下、瀧口) 江崎先生からいただいたテーマは「車は5%しか仕事をしていない」です。これはどういうことでしょうか。
江崎浩氏(東京大学大学院情報理工学系研究科教授。以下、江崎) 「自家用自動車は5%しか動いていなくて、95%は駐車場に止まっている」という統計があるんですね。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授
[研究分野]情報通信工学
瀧口 95%も動いてない時間があるんですか。
江崎 EV(電気自動車)とかPHV(プラグインハイブリッド車)にはすごく電池が入っているんです。そういう車を10万台集めると東京電力の揚水発電所の発電量の総量と同じです。たった10万台ですよ。
黒田忠広氏(東京大学特別教授。以下、黒田) まるでタンス預金みたいですよね。お金はあるのにしまい込んで使われない。
江崎 その通りです。それなら、ありがたく使わせてもらったらいいという話が始まっています。それから自動運転の人たちのおかげで車はものすごいコンピューティング能力を持っていて、ゲーム機に比べてめちゃくちゃ性能がいいわけです。それを集めたらいいんじゃないですかね。
黒田 一方で「2030年までに世界各地で停電が起こる」という予測があります。電力供給が間に合わなくなるのが2027年、2028年くらいからで、特にアジアの需要の伸びが大きい。アジアではそこら中で停電すると思います。
東京大学 特別教授
[研究分野]半導体集積回路
瀧口 車には実は電力やコンピューティング能力がたくさん詰まっているけれど、それは今、活用されていないんですね。
江崎 「使っていないから使いましょう」という貧乏人根性もありますが、これは「シェアリングエコノミー(共有経済)」です。結局、どうやって貴重な資源を有効に使うか。今、95%仕事をしていない車を上手にシェアリングエコノミーの中に取り込むと、どのぐらいのインパクトがあるかということを考えなくてはなりません。
加藤真平氏(東京大学大学院工学系研究科特任准教授。以下、加藤) 家で車を使っていないのならウーバー(Uber)の運転手として稼ぐんじゃなくて、車のボタンをポチって押して自宅で発電した余剰分を車載電池にためて、需要に応じて電力会社に売れば、勝手にチャリンチャリンとお金が入ってくる世界のほうがおそらくいい。そうやって電気を売る話までは実際にあります。けれども、EVのすごいところは電気というよりは計算能力なんです。
昔は計算できるところにデータを送っていたんですよ。でも、これだとすごくエネルギーを使ってしまうので、今はエッジ・コンピューティングといって、そもそもデータがあるところで計算して結果だけ送ろうとなっています。そこからさらに、家庭にあるEVに計算よりも学習させて、学習させたもの同士を組み合わせる技術もちゃんとあります。そこまでいくと、相当すごいなと思います。
瀧口 加藤先生が起業されたティアフォーでは、それを目指しているんですか。
加藤 やろうとは思いますが。それができたら本当に参入障壁が高いので、先行者利益というか競争相手がいないブルー・オーシャンの世界にはなると思いますね。
半導体の価値が金の3~4倍にもなるのは正常?
江崎 ところで、車って物を動かすらしいんですよね。
瀧口 はい。そうです(笑)。
江崎 電力って電子を動かすんですよね。
瀧口 はい。
江崎 通信ってフォトン(光子)を動かすんです。フォトンの軽さは桁が違うんですよ。そうすると、物を動かすコストと電気を動かすコストと情報を動かすコストは2桁ずつ違う。だから、物を動かすのを情報に変えると4桁変わるんです。その方程式が理解されると、かなりインフラが変わるんですよね。
瀧口 これまで気軽に物を動かしてきたけれど、「本当にそれでいいのか」というところが意外と見直されていない。そういうことですか。
江崎 一応、学者なので言いますと、「原子の真ん中には陽子と中性子がある」と皆さん習いましたよね。陽子と中性子が重たいんですよ。移動するにはあれを動かさなくてはいけない。一方、黒田先生の専門の電子は原子核の周りを回っている軽いやつなんです。こいつを動かすのはすごい楽なんですよ、陽子に比べて。最後のフォトンは電子がぴゅっと動いたときのエネルギーで動くので、もっと軽いんです。
瀧口 これからはもうフォトンだということですよね。
加藤 目からうろこですが納得感がありますね。
瀧口 江崎先生は「今はタイヤがすごく摩擦して、エネルギーをすごく使いながら動いている」とおっしゃっていますよね。今後のクリーンなエネルギーを考えていく中で、車のあり方も変わるかもしれないですね。
黒田 ただね、製造業で日本は立国したわけです。「資本を使ってとにかく集約して、大きいことはいいことだ。たくさんのお金を使ってたくさんの物をつくって大量に消費する」。そうやって物が価値を持っていた時代は、基本的に重さで価値を測るんですよ。重いほど価値がある。あるいは、世の中に使われている総重量×重量単価で市場が決まっているんですよ。
しかし、半導体はそうではないんです。最近までは半導体も重さ当たりで値段が決まっていました。100グラムのウエハー(半導体製造で使う基板材料)が100万円ぐらいですから、金の3〜4倍だったんですね。半導体が成長した理由は重量単価とチップの値段は変えずに、性能や機能が高くなったからです。そして、市場が広がって利益が増えて、その一部を設備投資あるいは研究投資に回して微細化が始まって、そこからこのサイクルがまたもう一周回る。それをグルグル回しているうちに、50年の間に何十倍へと市場が広がったんです。
ところが、AIが登場してきてからは、重さではなく唯一エヌビディアにしかできないという価値にお金を払うようになって、今は重量単価が増え始めているんですよ。
瀧口 黒田先生は知識の価値で「知価」だとよくおっしゃっていますよね。
黒田 半導体はもともと知価です。あんな石ころの重量単価が金の3〜4倍も高いところからして違うんですが、50年間一定だった重量単価が最近上がり始めているのは、まさに新しい知価社会の代表的なものですよね。
江崎 そうですね。それは面白い話です。

(第3回に続く)
瀧口友里奈編著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)
