人工知能(AI)をはじめ、技術が急速に発展する現在。「AIに職を奪われそう」「子どもが大きくなったら世界はどうなっているのだろう」などと、未来に不安を覚えることはありませんか。そんな不安を吹き飛ばす書籍『東大教授の超未来予測』(瀧口友里奈編著)から、各国が半導体と宇宙開発を重視する理由について抜粋してご紹介します。語り手は東京大学特別教授の黒田忠広氏、東京大学大学院情報理工学系研究科教授の江崎浩氏のお2人です。経済キャスターの瀧口友里奈氏と東京大学大学院工学系研究科特任准教授でティアフォー代表取締役CEO(最高経営責任者)の加藤真平氏が聞き手でお届けします。
「石油の世紀」から「半導体の世紀」へ
瀧口友里奈氏(経済キャスター。以下、瀧口) 続いてのテーマは「2030年に惑星直列が起きる!」。「惑星直列」というのは比喩的な表現だとは思うのですが、どんなお話でしょうか。
黒田忠広氏(東京大学特別教授。以下、黒田) 「いろいろな周期の波がまさに全部重なって、目の前で変わろうとしている」と言われたらちょっとドキッとしません? それが「惑星直列」という話なんです。メガトレンドを考えると、この世界にはいろいろな周期があります。たぶん人間が30年ぐらいで世代交代するところから発して、人が行う営みである経済や経営にはいろいろな周期が出てくるということだと思うんですが。
たとえば、経済的には50年周期が1つの有力な学説となっています。レーガノミクスからもうすぐ50年がたち、「世界で一番良い場所で物をつくって、それを自由貿易で集めるのが一番効率が良い」という考え方の時代はもう終わったといわれています。
それから制度的な波は80年周期だとよくいわれます。第2次世界大戦が終わって、イギリスに代わってアメリカが世界の覇権を取ってからまもなく80年です。それが今や「アメリカ・ファースト」で「Make America Great Again(アメリカを再び偉大な国にする)」と言う大統領になったわけです。よく考えたら中国もそろそろ建国80周年なんですよ。それから東西の文明の振り子が揺れるのは800年という説があるんですよ。これも長い歴史から見ると、そろそろ西側から東側へと大きく文明の中心が動く頃だと。
つまり、全部の波がそろってしまうのが惑星直列で、何が起こるか分からない。そういう時代に今、入ろうとしている。これは日本人には良い話だと思うんですよね。日本人はゆでガエルが大好きです。島国で、世界から離れて日本語で会話をしていると、「このままでいいじゃないか」という感じになって、ぼやーっとしている。
一方で、日本は突然に地震が起こるなど自然災害が多い。そうなると、みんなが急に起き出して協力して、いろいろなことをいろいろなレベルでやり始める。これを世界は「見事だ」と言っているんですよね。だから、惑星直列になったときこそ、日本はもう1回目を覚まして、いろいろなレベルの人が力を合わせて新しい時代に向かっていける時じゃないか。そういう気持ちを込めて「惑星直列の時代に入った」としました。
東京大学 特別教授
[研究分野]半導体集積回路
加藤真平氏(東京大学大学院工学系研究科特任准教授。以下、加藤) それはチャンスですよね。
黒田 それをチャンスだと考えるのは加藤さんみたいな人ですよね。実際にチャンスなんです。
江崎浩氏(東京大学大学院情報理工学系研究科教授。以下、江崎) 変わる時は一番面白いですからね。変わる前に最初に気づくかどうか。みんなが気づいたらもうビジネスにならないし、楽しくないですよね。
加藤 ハイリターンを狙うなら、そのタイミングで何か起こるところに投資する感じなんですかね。
江崎 そして今度は、サイバー・ドメインが出てきた。仮想通貨の「ビットコイン」や3次元の仮想空間「メタバース」などがそうですが、これは無限にでかい。どうやら人間は物理ドメインではない、制限のない空間を手に入れたらしいんですよね。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授
[研究分野]情報通信工学
黒田 その世界をつくりあげているのも、その世界の中でいろいろな競争をするのも、半導体の力が大きい。最近までは石油を求める戦いを世界中が行っていました。今でもそうかもしれませんし、エネルギーは依然として重要ですが。その前は「鉄は国家なり」でした。
鉄から石油になって次は何かというと、「Chip War(チップウォー)」という言葉が出てきたわけですよ。半導体が安全保障を決める。そこの計算能力の違いで国を守れるか守れないかに大きく影響することが、最近の世界の紛争を見ていると明らかになってきたわけですよね。だから今は「石油の世紀」から「半導体の世紀」に移っていると思います。
地球に革命を起こす新技術はどう生まれるのか
瀧口 新たなフロンティアがサイバー空間で広がって、そこからチップウォーになる。ここから、江崎先生からいただいたテーマ「火星に行きましょう」につながりそうですね。最後に残されたフロンティアは宇宙だと。
江崎 地球って面白くないんです。人類はもはや月には行けることがバレましたよね。地球と違って面白いのは、月では重力が軽いことです。だから加藤さんがつくった車は動かないし、飛んだほうが速い。ドローンはすごく効率的に飛べるんです。そういうことを考えると、月は地球とは違うインフラになりますよね。
それから月はずっと地球を向いてくれているんですよ。「神様のいたずら」だと思うんですが。通信からすると、これはすごく都合のいいものです。常に地球を見てくれているので、月にはアセットを打ち上げやすいんですよ。
瀧口 たとえば、どういったアセットでしょうか。
江崎 通信システムを月に打ち上げれば、必ずこっちを向いてくれているので影に入らないんです。さらに月はほどよく近いところにあるので、光速でたった1秒しかかからない。火星も面白いです。月とはまた違うロジックになっているので、そこには新しい技術がないと暮らせないし新しいルールも必要です。
それで前回「 半導体の単価上昇は新しい『知価』社会到来の象徴 」で触れた話ですが、物を動かすのにはものすごいエネルギーが必要です。電気を動かすのはその100分の1で、情報はその1万分の1になります。
今はDNAの情報を月に送って3Dプリンターでつくるということがバイオエンジニアリングであるんですよ。月にある資源を使って物がつくれることが分かった瞬間にすごいことが起こりますよね。しかも、月には物がなかなか送れないという前提でつくるので。これをもう1回地球に持ってくることを「リバース・イノベーション」と言います。そうすると、今とはまったく違う農業が地球に来るかもしれません。
瀧口 まったく違う農業って、どういうイメージですか。効率的なんですか。
江崎 今は土がないと農業ができないことになっているじゃないですか。「土でつくらなくてもいいよね」となった瞬間に、ものすごく変わりますよね。
瀧口 月での環境制約によって必要にかられて開発した技術が、地球に革命を起こすんですね。
江崎 たとえば、月ではタイヤのある車がないだろうとだいたい予想できるわけです。しかも、ドローンはものすごく軽く動くので、地球どころじゃないコストで済みます。そもそもこれまで地球上で失敗したインフラはたくさんあります。その経験をもとに、たぶん新しいチャンスがあると思います。

瀧口友里奈編著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)
