『小澤隆生 起業の地図』(日経BP)の刊行を記念して、2025年11月5日、早稲田大学現代政治経済研究所で小澤隆生さん(Boost Capital代表取締役)と著者である作家・北康利さんの対談イベントが行われた。1回目は人生の選択肢として「起業」を持つことの意味について。

「起業」が選択肢にないのは人生の可能性に目をつぶって生きること
作家・北康利さん(以下、北) みなさん、こんにちは。作家の北康利です。今日は起業家の小澤隆生さんをお招きして、いろいろなお話を引き出したいと思います。講演会をするからには、やっぱりみなさんに「このために時間を割いて良かったな」と思ってもらいたい。我々も最後に「ちょっと話し足りなかったな」と思いたくないので、最初に小澤さんがみなさんに一番伝えたいこと、今回の『起業の地図』にも盛り込んだ最も熱いエッセンスについてお話しいただこうと思います。
Boost Capital代表取締役 小澤隆生さん(以下、小澤) 改めまして、小澤でございます。今日はどのぐらい早稲田の学生がいますか?(多数の来場者が手を挙げる)けっこう多いですね。私は1990年入学、95年に法学部を卒業しました。1年次の単位取得数が4単位で、留年が即確定したんですけれども。でも、早稲田が好きで好きで、どうにか早稲田に入りたい、と潜り込んで、本当に楽しい学生生活を送りました。卒業し、12年前からは寄附講座で起業家養成講座を開講しています。
えてして講演会というものは、聞き終わったときにほぼ中身を覚えていないものになりがちです(笑)。眠くなるし、スマホも気になる、おなかも減ってくるということでしょうから、北さんがおっしゃったように最初にまず僕からのメッセージを込めたいと思います。
まず申し上げたいのは、みなさんの未来の選択肢の中に「起業」を入れてくれるとうれしいということです。会社あるいは公務員という選択肢の中に、「起業もあるよね」と思ってもらいたい。今すぐではなくても、長い人生のどこかで起業という選択肢があるといいなと。もちろん起業しなくてもいいのです。でも選択肢として存在しないのは寂しすぎる。人生の大きなチャンスに目をつぶって生きていることになります。
私自身は起業したくて生きてきたわけではありません。必要に迫られ、仕方なく起業した結果、人生がめちゃくちゃ良いほうに変わりました。早稲田に入学した時点では親の会社を継ぐつもりでしたが、起業したら知り合う人が爆発的に増えました。何よりPayPayや楽天イーグルスの立ち上げ、その他にもヤフー、楽天、LINE、ZOZOといったような、みなさんが使ってくれているサービスの立ち上げ、運営に挑戦でき、いくつかは成功しました。
もちろん、普通に会社に入社してメンバーとなったら、50代、60代でその会社や子会社の社長になれるかもしれません。でも、私が楽天イーグルスをつくったのは32歳。みなさんとそんなに変わらない年齢のときです。これは普通に会社に入社するのと決定的に違う点です。
プロ野球の球団をゼロからつくり、それが今でも地元に愛され、自分がつくったユニホーム、球団歌を子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで歌ってくれる。コンビニに行けば自分が携わったPayPayで支払う人がいて、今や小さな子どもがおままごとで「PayPayでお願いしまーす」と言ってくれる。いちいち、「それ、つくったのは俺! 俺だよ!」なんて言わないですよ(笑)。でも、自分の人生を振り返ると「頑張ってきたな」「やってよかった」と誇らしい気持ちになります。

Boost Capital株式会社 代表取締役
起業を成功させる「おざーんの法則」
小澤 起業したからといって全員がPayPayをつくれるわけでもなく、成功するわけでもないけれど、私が言いたいのは「起業には特別な才能なんて必要ない」ということ。それは私が証明しています。そして、私の周りの人たちも証明しています。正直、大した能力を持っていない人がバンバン起業でうまくいって、いい事業をつくっているんですよ。その上で、まだ起業という選択肢に目をつぶるのか。選択肢を検討すらしないで生きていくのは、もったいなさ過ぎると言いたいですね。
では、どうやって成功するのか。それには秘訣があります。そのエッセンスが知りたい人はこの本を読んでください。私がしゃべるよりももっと上手に、北さんがポイントをまとめてくださっています。
はい、ここまでが大事なところで、この後に予定がある人はもう席を立っても構いません(笑)。唯一、やらなきゃいけないのは本を買うことです。
北 実は作家になるのも起業なんです。私は富士銀行に入行し、その後はみずほ銀行、みずほ証券で資産証券化など本当に面白いことをやっていました。けれども、思い切って独立しようと考えました。独立はリスクもあります。これまでは病気になっても会社が長期休養を許してくれた。でも独立するとそうはいかない。でも、その危険を冒してでも自分の人生を歩んでみようと思ったんです。今、小澤さんがおっしゃったように、「起業」という選択肢があると気づいたわけです。なおかつ、けっこう早い時期に気づいた。
結果大正解でした。取材という名目で、自分の興味の向くまま、どんなえらい人のところにもインタビューに行ける。社会をこう変えていくべきだという問題意識を持ったら、それを文字にし、直接的に社会に訴えていくこともできる。何よりうれしかったのは、会社員では築けない多彩な分野の素敵な友人を持つことができたことです。
あの時、作家という起業の道を選ばなかったら、こうして皆さんの前でお話しすることもなかったと思います。私は白洲次郎や福澤諭吉、松下幸之助などさまざまな人物をテーマにした本を書いてきましたが、1年に1、2冊しか書けません。
そして、「2025年は二宮尊徳と小澤隆生でいこう」と思ったのです。今まで過去の偉人を書いてきましたから二宮尊徳はその流れの中にあるわけですが、なぜ、小澤隆生を書いたかというと、労働生産人口が急減し、生産性も企業エンゲージメントも低いこの国を救うには起業家を増やすしかないと思ったからです。

作家
まず地図を探し、法則を真似る
北 では、誰をとりあげて起業の魅力を語ればいいのか。海外まで考えれば、ものすごい起業家が山ほどいます。しかし、見上げるような高い山を指し示しても登る気にはなりません。そこで思いついたのが「おざーん(小澤隆生の愛称)」だったわけです。小澤さんはみなさんより少し年上なだけで、アニキのような存在です。失礼ながら、あの人でも成功したのなら僕も私もやってみようかなと思いやすい(笑)
小澤さんを真似するには地図が必要だ。何かの法則性を示し、その通りに歩いて行けば成功する可能性は高くなるというものです。今回の本の冒頭に掲げた「おざーんの法則」がまさにそれなのです。
過去を振り返れば、松下幸之助の経営の法則を学んで、ワコールの創業者である塚本幸一や京セラ創業者の稲盛和夫は起業に成功しています。まず地図を探し、法則を真似ることはとても大事だと思います。
小澤さんにもお伝えしていない裏話をここでご披露しますと、実は今回、起業の魅力を語ってもらう人物として、私は2人の方に声をかけました。そのうちの1人が小澤さんでした。
小澤 もう1人は誰だったんですか。
北 川邊健太郎さんです。川邊さんは「自分は取り上げてもらうにはまだ早い」とのことでした。
小澤 川邊は私の前にヤフーの社長を務めていた人物で、盟友中の盟友ですよ。

北康利 著/日経BP/1870円(税込み)
取材・文/三浦香代子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/鈴木愛子
