『小澤隆生 起業の地図』(日経BP)の刊行を記念して、2025年11月5日、早稲田大学現代政治経済研究所で小澤隆生氏さん(Boost Capital代表取締役)と著者で作家の北康利さんの対談イベントが行われた。2回目は人と知り合い、つながりを広げることの大切さについて。

友人は多ければ多いほど役立つ

作家・北康利さん(以下、北) 前回は「人生には起業という選択肢もある」というお話でした。では、そのために若いうちにやっておくといいことはありますか。「語学を勉強したほうがいい」「大学院に進んだほうがいい」「留学したほうがいい」とか、いろんな選択肢があると思いますが。

Boost Capital代表取締役 小澤隆生さん(以下、小澤) 前回、川邊健太郎(LINEヤフー会長)が盟友だと話したことにつながるのですが、私が学生時代、そして起業してからも一番大事にしているのは友人、知人です。これはもうとにかく多ければ多いほど役に立つ。自分の人生にいいことが生まれます。何かビジネスを考える、何か営業をするときに「連絡先があるか、ないか」はものすごく重要なんです。

 私は絵描きでも彫刻家でもないので、1人では何もできない。そのときに「はじめまして」の人よりも10年来の友人に話したほうが信頼してもらえるし、親身になってくれる。だから若いときからのつながりが深ければ深いほどいいし、2年よりも5年、5年よりも10年、10年よりも20年と付き合いが長いほうがいい。若い人はできるだけ多くの人と知り合い、深く付き合うことをお勧めします。

 1000人と深く付き合うことはできないかもしれませんが、5人、10人、20人、100人となら付き合えますよね。少なくとも、その努力をすることはできます。例えば、今日もこの会場で隣に座った人と知り合うか、知り合わないかで今後の人生が変わるかもしれません。

 私は「選択」と「自分の意思決定」の組み合わせが、今後の人生をつくっていくと気づいてしまいました。「ただただメシを食ったり、釣りやゴルフをしたりしていた知り合いが、まさか20年後に役立つとは思わなかった」「自分の人生にとって、ものすごく意味あるものになるとは思わなかった」ということを何度も経験しています。

小澤隆生 おざわ・たかお
Boost Capital株式会社 代表取締役
1995年早稲田大学法学部卒業後、CSK(現SCSK)入社。99年に創業したビズシークを2001年に楽天に売却し、2003年のビズシークの吸収合併により楽天に入社。オークション担当執行役員を経て、2005年楽天野球団取締役事業本部長に就任。2006年に退社後は個人としてスタートアップベンチャーへの投資やコンサルティングを展開。2009年から2012年まで楽天の顧問を務めた。2011年設立のクロコスをヤフーに売却して、2012年にヤフー(現LINEヤフー)入社。2013年よりヤフー執行役員。2018年4月に常務執行役員。2019年6月にヤフー取締役 専務執行役員COO。22年4月にヤフー代表取締役社長 社長執行役員CEOに就任。2023年10月から2024年9月までLINEヤフー顧問。2024年1月、ベンチャーキャピタル運営会社Boost Capitalを設立。

 考えてみれば学生時代の出席番号なんて「あいうえお順」だし、人生はささいな組み合わせで決まりますよね。いきなり隣の人に話しかけるのは勇気が要ります。でも、ですよ。そこで「自分の人生にとって意味があるものかもしれない」と思って、多少嫌でも話しかけてみる。「嫌」なのは恥ずかしいから、嫌なんですよ。でも、そこで恥ずかしさを押し殺して、連絡先を交換してみる。
 私も若いときは「いきなり連絡したら迷惑かな…」と思いつつ、HPに載っているinfo@×××というメールアドレスやSNSのDMにじゅうたん爆撃のようにメールを送りまくっていましたね。そうすると何百人に1人は会ってくれます(笑)。

成功に必要なのは「運と愛嬌」

小澤 先ほどの川邊とはもともと仲が良かったのですが、彼はヤフーに自分の会社を売り、私は楽天に自分の会社を売りました。当時同じ六本木ヒルズの中にヤフーと楽天のオフィスがあったので、川邊とは昼ご飯、おやつ、夜ご飯と毎日、1日3回会ってたんです。それで、さすがにこれはやり過ぎだ、コンフォータブルゾーンに引きこもっている状態だろうと。お互いに友達を増やす重要性は分かっているので、「もっと効率よくやろう」と2004年からは毎週木曜日に自分たちが会ったことのない人をゲストに呼び、食事をすることにしました。

 そのときに当時参議院議員だった鈴木寛さん(現:東京大学公共政策大学院教授)に「日本を動かしている人に会いたい」と相談したら、「官僚の課長補佐に話を聞くといい」と紹介してくれました。そのお話が本当に有意義で、私たちみたいなネットの浮ついた世界にいる者にとっては「官僚はこういう仕事をしているんだ」と驚きでした。
 私たちが目をキラキラさせて話を聞くので、官僚の方も喜んでくれて、そこからは「笑っていいとも形式」でお友達を紹介…と縁がつながり、2年ほどで総理大臣にたどり着きました(笑)。さらにイギリスのMI6(Secret Intelligence Service=秘密情報部)、FBI、北朝鮮から脱北してきた方と本当にさまざまな方の話を聞くことができました。04年から15年間ぐらい続けたので、お会いした方は500人ぐらいですね。そこで北さんとも知り合い、本まで書いてもらったんですから、ありがたい限りです。
 もし、私が20代に戻れるならあの勉強会をもっと早くからやっていたし、早稲田で1人でも多くの友人をつくったでしょうね。

 懐かしい、最初にお会いしたのは確かに木曜会でしたね。安宅和人さんともその場でお目にかかりました。そのご縁で、私は安宅さんが教えていらっしゃる慶応SFCでも毎年講義しているんですよ。勉強会に行かなければみなさんと会うこともなかったし、とにかく実際に会うのは大事ですね。
 ある時、私の講演会に徳川将軍家19代当主の徳川家広さんがいらしたんですよ。すごく鋭い質問をされて、そこから親交を深めました。あるとき「徳川さん、今は一番何がしたいですか」と聞いたら、「中曽根康弘さんに会いたい」とおっしゃる。それで会えるように段取りをしたことがありました。
 人脈をつくるとき、ただ名刺交換するだけでは仲良くなれません。個人的には、仲良くなりたい人は、相手の喜ぶことをすることで絆を深めようとしています。

 それから小澤さんを見ていると、松下幸之助が大事にした「運と愛嬌」を持っていると感じます。松下政経塾は野田佳彦、高市早苗と首相を2人輩出しています。塾生を選ぶのは松下幸之助でしたが、つねづね「履歴書を見ると、運と愛嬌をもっているかどうかが分かる」と言っていたそうです。
 小澤さん自身も運と愛嬌の人物で、そうした人が周囲にも集まっているように思います。

北 康利 きた・やすとし
作家
1960年12月24日愛知県名古屋市生まれ。東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。資産証券化の専門家として富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長等を歴任。2008年6月末でみずほ証券退職。本格的に作家活動に入る。100年経営の会顧問。日本将棋連盟アドバイザー。一燈照隅の会を主宰。『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞受賞)、『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』(以上、講談社)、『陰徳を積む―銀行王・安田善次郎伝』(新潮社)、『松下幸之助 経営の神様とよばれた男』、『稲盛和夫伝』(以上、PHP研究所)、『胆斗の人 太田垣士郎―黒四(クロヨン)で龍になった男』(文藝春秋)、『本多静六― 若者よ、人生に投資せよ』(実業之日本社)、『ブラジャーで天下をとった男 ワコール創業者塚本幸一』(プレジデント社)、『小澤隆生 起業の地図』(日経BP)など著書多数。複数のスタートアップ企業の役員・顧問として、現場で起業支援活動を行なっている。

迷ったら面白いほうへ行け

 今回、本の帯には「迷ったら面白いほうへ行け」と書きました。小澤さんの人生を見ているとお祭り大好きだし、オリンピック誘致、楽天イーグルス立ち上げと楽しいことばかりしているように見えますが、実は最初は強烈な壁にぶち当たったんですよね。

小澤 よく「失敗したことはありますか」「打ちのめされたことはありますか」と聞かれるのですが、結論から言うと忘れちゃいますね。
 私の起業のきっかけは親の借金です。しかも60億円。法学部を卒業して弁護士になっても、ちょっとやそっとで返せる額ではありません。あまりにも現実味がなくて、「それならフェラーリ買ってくれよ。60億円も60億3000万円も同じだろ」と言ったほど(笑)。でも、どうやら起業して、会社をつくり、それが上場するとたくさんお金が入るらしいと。給料以外にお金が入る、しかも株には自分で値段を付けて売っていいようだ。「こんないい商売があるのか」と思って、起業しました。あの借金がなければ起業していないので、今は親に60億円も借金してくれてありがとう、です。

若手起業家に圧倒的に支持されている小澤隆生、これまでの半生を通じて、困難を乗り越え、事業を成功させるフレームワークを学ぶ。白洲次郎、渋沢栄一、松下幸之助、稲盛和夫などの評伝作家として知られる著者が描く、小澤の成功の秘密を追体験できる物語です。

北康利 著/日経BP/1870円(税込み)

取材・文/三浦香代子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/鈴木愛子